文間からリュートの音が聞こえてくる、秀逸なる叙事詩

圧巻の一言につきるこの壮大な物語は、ファンタジーというより、叙事詩と呼ぶ方が相応しいと思います。
奥行きのある世界観。体温や息遣いまで感じられる登場人物たち。絶対的上位者の前では人の小さな努力など無駄だと思わされる絶望も、それでも大切なものを守る為に足掻く必死さも、一方で、同じように魔竜の脅威にさらされながら、いつまで経っても手を携えるのではなく奪い合うことしかしない人のどうしようもなさも、全てがとにかく細密で、展開される物語に圧倒的な現実感を与えています。故に、登場人物たちを見舞う運命は時に非情ですが、ご都合主義的な奇跡が恵まれることがないからこそ、彼ら彼女らの生き方は、闇を照らす光と感じられます。
英雄の物語ではなく、英雄「たち」の物語。善が悪を裁くのではなく、叡智が愚昧を圧倒するのでもなく、素晴らしいところもどうしようもないところも全てひっくるめて、これが人というものだと語る――そんな物語がお好きな方は、是非。

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