この物語は、根源的に対立する二つの世界の間に生まれた、兄と妹の物語です。
間の存在の兄妹、その葛藤と希望――もうこれだけでも個人的嗜好のドストライクゾーンでしたが、二人の絆を縦軸に、二つの世界それぞれの価値観や国の形、そこに生きている人々の想いを横軸に織りなされる物語は、王道の名に相応しい珠玉のファンタジーです。
何よりそれを盛り上げるのは、浮遊大陸や白と黒の二つの世界といった細密な世界観とそこに生きている人々のリアルな感情、そして、それを表現する流麗な文体です。単文の羅列で出来ている軽めの文章と比べると、修辞が駆使された文章は重厚ですが、だからこそ、架空の世界と人々の姿を鮮やかに描き出し、「物語を追う」楽しさだけではなく、「文章を読む」楽しさをも味わわせてくれます。
きょうだい、間の存在、真っ暗な絶望に包まれた時に敗北してしまうのも人間なら必死に希望を探そうとするのも人間である――そんな物語がお好きな方は、是非。
図書の奥、重たそうで立派な装飾の本が並ぶ中にありそうな本だと、思った。美麗な言葉で紡がれる凱歌から始まる物語は読者を異世界へと深く、誘ってくれる。
夜と昼。まるで正反対の見目を持つ兄と妹はその性格さえも正反対だ。鋭利な刃のように気性の荒い兄、ハルと静かな湖畔のように穏やかで聡明な妹、セレナ。だけど、互いを深く、大事にしている。
だが、ある時、敵国が攻めてくる。目的は兄であるハルだったが、ハルを手に入れるための人質としてセレナが拐われることになってしまう。そんなセレナを取り戻す為の物語でもある。
この物語は登場人物の言葉運びから、背景にいたるまでどこか静けさを孕みながら凛とした美しさがある。
美しい言葉に誘われるようにして世界が語られる物語はまるで本の重みを感じながら読んでいるような心地になる。
重い本を夢中でめくり、主人公の行く先を見守った幼い頃を思い出す。
分かたれた双子の紡ぐそれぞれの戦いの物語を是非、ご一読ください。