概要
中世、天狗が子を拐う。
生観音と崇められる義王は、法貴寺の稚児だった。夜毎に床へと召されるなか、寺にて一生を過ごすしかない我が身を哀れむ。ある日、部屋の下男より「天狗の羽根」を拾ったと見せられるが──
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- ★★★ Excellent!!!天狗に拐われむ、幸福たるやいかばかり……
「目出度きことかな」
——聖人さえ、私に悦楽を仕込まなければ、情欲も知らず、人も憎まず、この世の不浄、煩悩に触れずに、純真なままに死ねたはずだ。
(本文より)
法貴寺の見目麗しい稚児・義王丸は、生きながらの観音だった。
毎夜聖人の愛慾を一身に受け、甘んじてこまやかにまぐわい……。
清浄なる仏道を歩む中、義王丸は悦と醜に挟まれ、愛憎に心身震わせつつ、苦悩し葛藤する。
反対に下男・拾は、義王丸のことを観音の化身だと思って疑わず、純真に尊敬して慕っていた。
仏と欲の混在する日々に、義王丸はどちらの「愛」に傾くのか。
果たして、噂の天狗とやらは、一体誰を拐って…続きを読む - ★★★ Excellent!!!翠雨に匂い立つ白い蓮花の美しさ、閉じ込められた情動の行先は
物語の舞台は中世の大和地方。
その類まれな美しさゆえに寺へ稚児として差し出された義王丸は、日中は尊敬する聖人から薫陶を受け、夜はその聖人から偏執的な愛撫を受ける日々を送っています。その義王丸に寄り添って献身的に仕える純朴な従僕、拾。物語はこの三人を軸にして紡がれていきます。
この時代について作者が持つ知識造詣は表に出ずとも文中に滲み出て、土の匂い、夜啼き鳥の声、寺院に差す朝の陽の光が、その時代の色を纏って描写される様に、作者の技量の高さを確信させられます。そしてその作者の高い技量で、丁寧に、緻密に構成された物語は、そのまま義王丸の苦悩となって読者に迫ります。
義王丸の苦悩は、聖…続きを読む