静謐で重厚で暗喩に富む物語でした。
おそらくは、後日ふたたび紐解くことになるでしょう。
かの昭和の文豪、宮本輝氏の傑作『錦秋』を彷彿させる書簡形式の本作は、同じパブリック・スクールの学窓で時を過ごし、邪鬼なき仲違いのまま巣立った二人のルームメイトと、その仲介を勤める後輩の三人による計6通の手紙で構成されます。
三様が、立場の違い(と言うには軽すぎるが)を基とする己の信念の在り方を綴る文面は、圧巻の一語に尽きます。
戦争(第一次世界大戦)を挟んだ二十世紀初頭の欧州覇権を背景にした本作は、読む者の心に小さくない楔を打ち込むでしょう。
ウェブで手軽に小説を読める時代ですが、このような傑作に突き当たる僥倖はなかなかありません。
読解力を自認する方であれば必ずや目を通すべき一作、と宣言します。
この作品に出逢うことができたきっかけを作ってくれた梶野カメムシ氏にも改めて謝意を評し、本稿を閉じます。