第4話「S級アークス」
今俺は超高級ホテルの応接室のような部屋にいた。
宙賊との戦闘後、御礼をしたいと言われて襲われていた船に招待されたためだ。
ちなみに、愛機であるマキナは『亜空間格納庫』に収納してある。
「あいさつは2度目になってしまいますが、私の名前はエレノア・クエーサー・アースと申します。この船の代表として改めて御礼申し上げます。この度は私達を助けていただき、本当にありがとうございました」
「いえいえどういたしまして。あ、自分は
目の前にいる絶世の美女はこの星系のお姫様らしい。そして隣に立つ女性はクリスと言い、エレノアさんの専属騎士でこの星系でもトップクラスの実力を持つパイロットなのだそうだ。
アークスオペレーションのストーリーモードに出てくる重要キャラは外見も含めて大体把握しているが、この2人の存在は全然知らなかった。もしかすると、ここはゲームの世界に限りなく似た別世界なのかもしれない。
「それにしても、大宙様はとてもお強いのですね。見た事のないアークスに圧倒的な操作技術。私も王宮騎士同士の戦いを何度か見たことがありますが、こんなにも素晴らしい戦いは見たことがありません」
エレノアさんが目を輝かせながらそう言ってきた。隣でクリスさんも頷いている。
「いえいえ、そんなに褒められても困ります。さすがにS級アークスを使えば誰が乗っててもB級やA級アークスくらい倒せますよ」
ま、ノーダメであの数相手は世界ランカーじなきゃ難しいだろうけどね。
そう思いながら何気なく答えただけなのだが、俺の言葉を聞いたエレノアさんとクリスさんの表情が驚愕へと変わった。
「もう一度お聞きしたいのですが、あのアークスはS級なのですか?」
「そうですよ。マキナはS級アークスです」
S級アークスは特定クエストの達成や大会の景品によってしか手に入らない。そのため、S級機体を持つという事自体がアークスオペレーションのやり込み勢であるという証拠なのだ。
もしかして、ドン引きされてる?
「大宙様は別の星系の王族であらせられますか?それとも、星王直属の特殊部隊か何かでしょうか?」
重々しい雰囲気でそう尋ねられた。
どういうことかと詳しく聞くと、S級アークスは各星系に5機も存在せず、所有者も星王直属の近衛騎士やトップクラスの傭兵のみなのだそうだ。
S級アークスの核に使われている素材が貴重なため、この世界の技術では量産が出来ないらしい。
「いや、自分はただの一般人ですよ。偶然S級アークスを持っているだけの一般人です」
「ただの一般人はS級アークスを手に入れる事などできませんよ!?」
エレノアさんのツッコミが響く中、俺の身元確認が行われる事となった。
そりゃそうですよね。恩人とは言え、一般人と言い張る謎の人物がこの世界では幻と言われるS級アークスを持っているなんて怪しすぎる。
「大宙殿、腕を出していただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。こうですか?」
クリスさんにそう言われて腕を出すと、非接触型の体温計のような機械で一瞬だけ光を当てられた。おお、これがこの世界の検査機器なのか。SFの世界だ。
「検査結果が出ました。大宙殿の生体情報は、どの星系にも存在しないようで……ん?」
「どうしたの?」
「申し訳ございませんエレノア様。遺伝子情報から出身惑星の特定ができたのですが……該当惑星は『
「ち、地球ですか!?」
クリスさんの言葉にエレノアさんが驚いている。そんなに驚く事なのだろうか?
そういえばアークスオペレーションの歴史設定って知らないな。ちゃんと設定資料読んどけばよかった。
「地球はこのアース星系の始まりとなった惑星なのです。アース星系に住む殆どの人類は地球人の遺伝子を受け継いでいます」
首を傾げる俺に対して、エレノアさんが『地球』とアース星系の歴史について教えてくれた。
まだ地球に人が住んでいた頃、宇宙進出を果たした地球人は異星人との交流や争いを経て飛躍的に文明を発展させたらしい。だが、母星である地球は人類の進歩の犠牲となり、生物が住める星ではなくなってしまったそうだ。
「テラフォーミングによる地球の再生は幾度も行われていますが、一度も成功していません。地球人が宇宙へ進出してから1万年以上経った今も、地球に生命は生まれていないのです」
そのため、俺のような現生地球人の遺伝子はすでに存在しないらしい。
「それって、今後の宇宙での生活に支障とかあるんですか?」
「それはありません。遺伝子配列が異なるといってもごく僅かな差です。大宙殿の体内に存在するナノマシンも問題なく働いているようですし、今後の生活に支障をきたすことはないでしょう」
クリスさんがそう教えてくれた。
ナノマシンか、その設定は覚えている。ゲーム内では殆どのキャラクターの体内にナノマシンが存在し、それにより生活が成り立っていた。
多少の怪我や病気もナノマシンが即座に治してくれる上に、アークスの操縦時に感じる身体への負担も軽減してくれるのだ。さらに、身体強化プログラムや戦闘プログラムを入れると一時的に肉体のリミッターを外したりプロ顔負けの戦闘術を行う事もできる。
ゲーム内では白兵戦の時によくお世話になっていたな。
「体は生前のものと変わりないけど、装備はゲーム内のものと一緒ってことか……」
誰にも聞こえない声でそう呟きながら、今得た情報について考える。
病気は治っているようだが、体は紛れもなく生前の俺自身のものだ。しかし、ナノマシンや亜空間格納庫を持っているということは、装備はゲームキャラのものが反映されていると言うことだろう。それなら裸ではなく衣服も装備した状態にして欲しかったが、そこはまぁいいか。
「本題なのですが、大宙様はどこからこられたのですか?S級アークスとあれほどの実力を持ちながら生体情報は登録されておらず、地球の現生人類の遺伝子を持つなんて……我々も知らないほど遠くの星系から来られたのですか?」
「ん〜、信じてくれるかは分からないんですけど……」
そう前置きしながら、正直にここまでの経緯を話した。無理に隠すことでもないしな。
「なるほど……先程の検査で異常は見つかりませんでしたが、事故による記憶喪失や何らかの装置による記憶改竄を受けた可能性がありますね」
クリスさんがそう告げた。やっぱり信じてくれませんよね……。
「私は信じます。大宙様があれほどの操縦技術をお持ちだったのは、難病と戦いながら並み居る強敵を倒して世界を制覇したが故のものだったのですね!」
エレノアさんの目がキラッキラしている。説明した俺が言うのもなんだが、こんな突拍子もない話を本気で信じてくれているようだ。
まぁ信じるも何も本当の話なんだけどね。
「今後大宙様がどう活動されるのかは分かりませんが、生体情報の登録がなければ大きな制限を受ける事になるでしょう。クリス、大宙様の生体情報の登録手続きをお願いしてもいい?」
「畏まりました」
生体情報の登録がないという事は、身分証を持たずに生活しているようなものらしい。
俺のような怪しい人物が登録するには長い審査期間と面倒な手続きが必要だが、この星系のお姫様であるエレノアさんの意向があれば関係ないそうだ。
クリスさん曰く、この船が目的地に着く頃には手続きも完了するらしい。
「ありがとうございます。助かります」
「いえ、礼には及びません。ちなみにですが、大宙様はアース星系以外の星系で活動されるご予定はありますか?」
「ん〜、今のところはないですね。まだ何するかは決めて無いですけど、基本的にはアース星系で活動すると思います」
ゲーム内でもアース星系を中心に活動していたので、他の星系に行く予定は今のところない。
「それでしたら、身元保証人は私の名前でもよろしいですか?」
「エ、エレノア様!?」
「そうさせていただければ、アース星系内での活動は通常よりも格段に行いやすくなると思いますよ」
ただし、身元保証人が王族であるため他の星系では目をつけられやすくなったりあらぬ誤解を受ける恐れもあるとも言われた。
要はアース星系に俺を留めておきたいという事らしい。
なるほど、初めはただのお姫様かと思ったが、こういう所は王族なんだな。強かだ。
「じゃあそれでお願いします。他の星系に行く事があったら、その時考えます」
隣にあるオルフェウス星系なんかもいつか行ってみたいと思うが、アース星系自体がとんでもなく広いので行くほどの余裕はほとんどなさそうだ。
「本当にありがとうございます。そして命の恩人を縛るような真似をしてしまい、申し訳ございません」
「いやいや気にしないでください。どちらかと言えばメリットしか感じないので」
エレノアさんが頭を下げてきたのでそれを慌てて止める。実際、こんな怪しい奴の身分を保証してくれるだけで相当ありがたいので俺にはメリットしかない。
「そう言っていただけるとこちらとしてもありがたいです。そういえば、報酬に関するお話がまだでしたね」
「報酬ですか?」
この船の救助費、宙賊の指名手配料、さらに宙賊の乗っていたアークスや装備の所有権は俺のものになるらしく、エレノアさんがいい値で買ってくれるとのことだった。
「全て合わせますと、これくらいの金額になるかと思われます」
「……えっと、100アースでジュース1本分くらいでしたっけ?」
「そうですね。大体それくらいの相場です」
アークスオペレーションの世界1日目にして、俺は超大金持ちになってしまった。
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