第15話「望みかぁ……」
紺と白を基調としたジーニアス学園の制服を身につけ、たくさんの学生達が談笑している立食パーティー会場の隅っこで、縮こまりながらなんらかの果物の味のする炭酸飲料をちびちびと啜る。
このジュース美味いな。
「なに縮こまってんだよ。中々良い挨拶だったぜ?ギャハハハハ!!」
「うるさいなぁ」
この立食パーティーは新入生の交流のために毎年行われている行事であり、その前段階として先ほど各自の教室で自己紹介を行ったのだが……盛大に失敗した。
自分の名前や家柄の後に夢や抱負を言う流れが自然とできていたため、
『大宙彼方です!ただの一般人です!世界一……いや、宇宙一のアークスパイロット目指してます!よろしくお願いします!』
と挨拶したところ、一部のクラスメイトからはクスクス笑われ、別のクラスメイトからはドン引きされた。休み時間も誰も話しかけに来てくれなかった。
一体何がいけなかったのだろう……みんなだって「騎士になりたい!」とか「Bランク以上の傭兵を目指しています!」とか、現実的な抱負を口にしていたのだ。だからこそ、俺も実現出来そうな夢を語ったのだが……やっぱり学園生活って難しいな。
「こんなクソつまんねぇパーティー帰っちまってもいいんじゃねぇのか?」
「いや、もう少し居るよ。教室では話しかけられるのを待っていたのがいけなかったんだ。傷も癒えてきたから、こっちから話しかけて友達を作ってみせる!」
自己紹介では失敗したが、立食パーティーで取り返すんだ!
ちなみに、この立食パーティーにエレノア達は来ていない。居ると大パニックが起きるため不参加らしい。
「とりあえず、話し掛けやすそうな人を見つけよう」
「テメェみてぇな根暗アークスオタクには友達作りなんて無理無理。大人しく船に戻ってアークス眺めてたほうがお似合いだぜぇ〜」
「うるさいぞ、完熟いち……」
「おっとマスター!あそこの少年なんて話しかけやすそうじゃないですか?友達作り、俺も協力致しやすぜ!」
『完熟いちごちゃん』効果は的面だな。ブラッド曰く、
『ショートケーキちゃんねる』さんのネーミングセンスに感謝だな。
そんな事よりも、ブラッドが見つけた少年は会場の隅っこで携帯端末をひたすら弄っている。たしかに話し掛けやすそうだ。
よし、行ってみるか。
「えっと……何か調べてるのか?」
「え?あ、えっと……はい、そうです」
エレノア達のように切っ掛けがあれば普通に話せるのだが、流石に無計画すぎてコミュ障全開な会話を始めてしまった。せめて一個ぐらい話題を用意しておくべきだったか……。
「……ん?それって、カリュノプスの画像か?」
「そ、そうです!知っているんですか?」
「たしか、再生能力が厄介な宇宙生物だよな」
「そ、そうなんです!表皮が特殊な鉱物で覆われているのでレーザーガンが効きにくい事で有名ですが、実際はその高い再生能力のほうが遥かに厄介な宇宙生物なんです!」
その少年の携帯端末に写っていた宇宙生物は、ゲーム時代に散々狩ったものだった。懐かしいな。
だが、このカリュノプスは戦闘が面倒な宇宙生物なのであまり人気が無く、出回っている情報も少ない。そのため、再生能力の高さを知っている者はゲーム内でも少なかったのだが、この少年中々やるな。
「あ、自己紹介してなかったな。俺は大宙彼方だ。カナタでいいよ」
「僕はユニ・ビオロギアって言います!ゆ、ユニでいいです!」
話をしていくと、ユニは俺と同じパイロット科で同じクラスだった。お互いに自分の自己紹介に気を取られ過ぎてクラスメイトの自己紹介を全然聞いていなかったのだ。
「なんか、ごめん」
「こちらこそ、すみません」
そう言えば、自己紹介の失敗を引き摺って他のクラスメイトのことも全然覚えてない。反省だ。あとでクラス名簿確認しておこう。
「そういえば、なんでカリュノプスなんてマイナー宇宙生物見ていたんだ?いずれ戦うことがあるかも知れないけど、わざわざ予習しておくほど遭遇率の高い宇宙生物じゃないだろ」
「実は……」
ユニの家は騎士の家系で、優秀なパイロットを数多く輩出してきた名家らしい。そのため、ユニ自身はアークスパイロットに興味はなかったのだが、親の命令には逆らえずジーニアス学園のパイロット科へと入学したそうだ。
「本当は宇宙生物に興味があって生物科に入りたかったんですけど……ジーニアスではパイロット科でも宇宙生物については学べますし、実績さえあれば転科もできるので入学したんです。パイロットとしての技量は全然なので、進級できるか既に不安ですけどね」
「そうだったのか、でもよく試験合格できたな。筆記は何とかなるとしても、実技試験は実力が必要だろ」
筆記がなんともならなかった俺が言うセリフではないけどな。
「実技の一次試験は全然でしたけど、二次試験は受験生個人に合わせた試験内容だったんです。僕の場合は出現する様々な宇宙生物を仲間のAIが操縦するアークスと一緒に倒したり撃退する試験だったので、生態や弱点を知っていれば難しくない内容でした」
仲間の無人アークスを指揮しながら遭遇率の高いメジャーなものから絶滅寸前レベルのものまで、様々な種類の宇宙生物と戦ったらしい。
宇宙生物に対応する知識と的確に弱点や生態を伝える説明能力を測る試験だったそうだ。
めちゃくちゃ楽しそう。俺も戦えないかあとで先生に聞いてみよう。
「見つけたぞ!」
ユニとそんな雑談を続けていると、変な金髪くんがズカズカと割り込んできた。
誰だこいつ?
「貴様!何で『誰だこいつ?』みたいな目で見てくるんだ!」
「えっと……はじめまして」
「はじめましてでは無い!」
首を傾げていると、ユニが小声で「伯爵家の二男のパラファルツ・プッファ様だよっ」と教えてくれた。
……あ、思い出した。試験の時に決闘だなんだと言って絡んできたやつか。
「なんだ?また喧嘩でも売りに来たのか?」
「誉ある決闘行為を喧嘩と一緒にするな!」
「誉ある行為なら気軽に申し込むなよ」
「ぐうっ」
ただ普通に返しただけなのだが、ぐうの音も出ないような顔をしている。「ぐうっ」って言ってたけど。
「そんな事よりも、決闘の話だ!さっさと望みを言え」
「望み?」
そう言えば、俺が勝ったら可能な限りなんでも叶えてくれるんだっけか。わざわざその話をしに来たとか、意外と律儀だな。
「望みかぁ……」
お金はまだ充分にあるし、無くなっても稼ぐアテはある。
そうなると今一番欲しいものは、新しいS級アークスかな?でもエレノアでさえ遠目からしか見る事ができないような存在だから、こいつに頼んでも無理だろう。他には、この世界でもトップクラスであろうSランク
だとすると、望みってあんま無い……いや、あるな。
「そしたら、俺と友達になってくれ」
「と、友達……だと?」
「なんだそれは!?」みたいな表情で驚かれた。こいつ、友達を知らないのか?
「友達っていうのは、一緒に遊んだりご飯食べにいったりとかする……」
「友達ぐらい知っておるわ!そこではなく、決闘の対価がそんなもので本当に良いのか?私は伯爵家の二男だ。大抵の願いは叶えられるのだぞ?」
「それじゃあS級アークスくれ」
「それは……無理だ」
「ならSランクの傭兵との手合わせ」
「それも……無理だ」
「じゃあ友達で」
「くっ、欲があるのか無いのか分からんやつだな。わかった、ならば其方と私は今から友達だ!」
どことなく嬉しそうな表情でそう言われた。
にしても、いきなり2人も友達ができるなんて幸先の良いな。自己紹介は失敗だったが、その失敗は十分に取り返している気がする。
やはり、自分から声をかけるのが良かったようだ。
「ユニも俺の友達だから、ユニとお前も友達な」
「ふむ、よかろう。パラファルツ・プッファだ。ファルツとでも呼んでくれ」
「あ、えっと、ゆ、ユニ・ビオロギアです。ユニって呼んでください」
俺もカナタと呼ばれる事になり、無事に友達ができた。
友達なんてできないと馬鹿にしていたブラッドには、あとで盛大にマウントを取るとしよう。
アークスオペレーション〜転生先はSFロボットゲームの世界〜 タンサン @tansan120
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