第14話「Sランクの傭兵」
朝起きたら所々黒焦げの男達が船の前で正座してました。
「何これ、どういう状況?」
「怪しいお客様が訪ねて来たから、しっかりとおもてなししておいたぜぇ!」
腕に巻き付けている亜空間格納庫から空中に映像が投射され、コウモリのゆるキャラみたいなアイコンでニヒルな笑みを浮かべるブラッドがそう伝えてきた。
どうやら、この前の宙賊の仲間が俺を狙って夜中に仕掛けて来たため、それにいち早く気付いたブラッドがこの船に到達する前にセキュリティロボでボコボコにしたらしい。
昨晩の記録映像を見ると戦闘自体はものの数分で終わっており、そのあとは外傷と後遺症は残らない絶妙な操作技術による拷問を行っていたようだ。
あれだけの数のセキュリティロボを普通に稼働させるだけでも膨大な処理能力が必要なのに絶妙な加減で拷問まで行うとは、さすがはゲーム内でもトップクラスの性能を持ったAIだな。
「とりあえず、よくやったブラッド。でもストレス発散の拷問は今後禁止な」
「なっ!?」
「『なっ!?』って、当たり前だろ。拷問なんてダメだ」
必要な時以外はね。
「とりあえず学園に連絡してこいつらを引き取ってもらうか。ブラッド、連絡頼めるか?」
「チッ、くそったれが」
あら、ブラッドが不満そうだ。
ちゃんと褒めたつもりなのだが、AIの育成って難しいな。
「そうだ、気晴らしに後で勝負でもするか?」
「あ?勝負だとぉ?」
「シミュレーターでアークス戦とかどうだ?昨晩の戦闘記録を見たけど、戦術構築は上手いみたいだからアークス戦も上手いんじゃないかと思ってな」
「舐めやがって!俺様はアポイタカラの制御プログラムとして生まれ、ヒヒイロの補助AIとして生まれ変わった存在だぞ!テメェみてぇなクソ雑魚パイロットに負けるわけねぇだろ!」
ブラッドって元はアポイタカラの制御目的で作られたAIだったのか。初めて知った。
だからヒヒイロの隠しギミックの発動キーになっているんだな。
「そしたら後で一戦してみるか。とりあえず学園に連絡してくれ」
「チッ、面倒くせぇ。その分あとで後悔させてやるぜぇ!」
そう言いながらブラッドが学園への報告を済ませてくれたため、後処理は滞りなく終了した。
口調は荒いが律儀なやつだ。
「そしたら模擬戦といくか。アークスの操作方法はわかるか?」
「舐めんなや!」
ヒヒイロ以外のアークスの補助AIとしても活躍できるよう、アークスの操縦プログラムも既に入っているらしい。それは便利だな。
「どうせなら何か賭けるか、ブラッドは勝ったら何か欲しいものとかあるか?」
「あ?マジかよ、ラッキー」
ブラッドは一度だけ命令を拒否できる権利を求めてきた。
思いの外慎ましい報酬だな。俺が了承できる範囲の要求を探っている感じか?そうだとしたら中々強かなやつだ。
「それでいいぞ、俺が勝ったら白兵戦プログラムの構築をお願いしてもいいか?今後街中とかで宙賊とかに絡まれた時、逃げれるくらいの動きは身に付けておきたいんだ。できるか?」
「んなもん余裕だボケェ!逃げるどころか余裕でフルボッコできるプログラムもつくれるわぁ!」
おお、それは頼もしいな。是非とも作ってもらいたい。
「それじゃあ早速やるか。設定はA級アークスで、ステージはランダムでいいか?」
「それでいいぜ!ヒヒイロの性能はA級みてぇなもんだからな、A級アークス戦は俺様の得意分野だぜ!」
ヒヒイロの補助として作られたのであればA級アークスの操作が得意なのは当然か。これは気合を入れなければいけないかもしれない。
「それは破壊を齎す龍の一撃。全てを粉砕する必殺の一撃!対艦用レーザーブレード!!」
「ちょっ、まっ、ぐああああああああああ!!!」
久しぶりのA級アークス戦でテンションが上がりすぎた。ボッコボコにしてしまった。
◇
「ようこそ我が家へ」
「えっと、お邪魔します」
「うわぁ、家として戦艦買ったんすか。流石っすね」
「本当に凄い発想ですね」
宙賊を引き渡し、ブラッドをボコボコにした日の午後。エレノアとアストラとクリスが家に訪ねてきた。
我が家初のお客様だ。
「昨日買ったばかりだからおもてなし用のお茶とか無くてな。汎用のフードプリンターで作ったものしかなくて申し訳ない」
この世界には前世の頃とは比にならない精度のフードプリンターが存在し、一家に一台の必須家電として流通している。
液状食品用、固形食品用のフードカートリッジを設置しておく事で様々な飲み物や料理を自動で作ってくれる超便利家電だ。その出来栄えはお店で出されても文句ないレベルである。
しかし、この世界におけるフードプリンター製の食品は前世で言う冷食やカップ麺に近い認識のようで、あまりフードプリンターに頼りすぎない食生活が推奨されているらしい。
健康面には全く影響ないので俺はフードプリンターに頼りきろうと思ってましたけどね。
「レモンティーとクッキーでございまーす」
「いただきますっす!」
「ありがとうございます」
「あらあらお構いなく。じゃなくて、カナタ大丈夫だったの?王宮から連絡が来たから急いで駆けつけたんだけど」
「王宮から連絡?」
エレノアの話を聞くと、以前捕らえた宙賊共の中にはとある宙賊グループの団長がおり、朝引き渡した宙賊共の中にはグループの副団長が混ざっていたらしい。
そのため、今回の襲撃を返り討ちにしたことで実質的にその宙賊グループを俺が壊滅させたと言うことになったそうだ。
「カナタが崩壊させた一団は『エビル』っていう名前の有名な宙賊でね。凄腕パイロットの団長と暗殺や破壊工作が得意な副団長が特に厄介で、貴族にもたくさんの被害が出ていたの。王宮も手を焼く相手だったから心配してたんだけど……何も問題ないみたいね」
「うん、朝起きたら全部終わってた」
聞くと貴族のお屋敷に張られている最高峰の警備システムすら突破する連中だったらしい。
大した事ない連中だと思っていたが、ブラッドが優秀すぎただけのようだ。
ちなみに、ブラッドはいま白兵戦プログラムを鋭意作成中である。参考にと思い市販のプログラムをいくつか見せたのだが、「ほんとに戦う気あんのかこれ?」と呆れるほど参考にならなかったため、一から作っているらしい。
「とりあえずカナタの無事が確認できて良かったわ」
「俺の無事を確認するためだけに来てくれたのか?」
「もちろんよ、元々の原因は私にあるわけだし」
エレノアを助けた事で俺が宙賊に狙われたため罪悪感を感じているようだ。別に気にしなくていいのに。
「言っとくけど、今回の襲撃も別にエレノアの責任ではないぞ。全て俺が決断して起きた結果だし、俺はその決断を後悔していない。それに、責任というならエレノアを狙っている奴らのせいだろ。そいつらが一番悪い」
「ありがとうカナタ。あなたに出会えて本当に良かったわ」
別に慰めたわけではなく、今の言葉は本心からくるものだ。宙賊の襲撃も少し面倒だとは思ったが、エレノアを恨んだことは一度もない。
「カナタさんが高ランクの傭兵だったら狙われる事も少ないと思うんすけどね」
「ん?なんでだ?」
アストラが気になることを呟いたので聞いてみる。
「傭兵にはランクがあるのは知ってるっすか?」
「知ってるよ。強さや実績に応じてEからSランクまであるんだろ」
ゲームの頃は傭兵ギルドでぶいぶい言わせていたため、この世界の傭兵と仕組みが同じならば相当な知識がある。
傭兵ギルドに所属するとはじめはEランクからスタートし、そこから実績を重ねて実力を認められるとランクが上がっていくのだ。Bランクを超えると一流として認められ、Aランクはその影響力の強さから貴族に匹敵する権力がある。そして、Sランクはたった1人で軍を相手にできる実力を持つため、王族ですら縛ることの出来ない立場にある。
つまり初心者はEランクで、とんでもなく強いやつはSランクなのだ。
「そうっす。それで、傭兵はBランク以上になると専属契約ができるようになるんすよ」
「そういえばそんなのがあったな」
傭兵ギルドに所属している傭兵は自身のランクに合った
掲示板依頼は条件の合う傭兵全員が受けられるため、割りの良いクエストがあっても早い者勝ちになってしまう。しかし、指名依頼は傭兵個人を指名して依頼をかけるため、誰かに取られる事はないのだ。
そして専属契約とは指名依頼を特定の人物からしか受けられなくなる代わりにクエストの受注に関わらず定期報酬として給料がもらえる契約であり、Bランク以上の傭兵にのみ与えられている権利だ。ゲーム時代には使った事がないので、そこらへんは詳しく知らないな。
「指名依頼が契約者からしか受けられなくなるけど、契約者からはランクに応じた定期報酬が得られるようになる権利だったっけか」
「その通りっす。代表的なデメリットとメリットはその2つっすね。でも、大貴族や大企業との契約はもっと大きなメリットがあるっす」
「もっと大きなメリット?」
「そうっす。まぁ単純な話っすけど、後ろ盾が大きい分安全なんすよ」
「そうなのか?逆に危なそうな気もするけど」
専属契約をするという事は、その相手の派閥に属する事を意味する。つまり、専属契約した相手の敵対組織に狙われる可能性もあるという事だ。
「傭兵がクエストの範疇を超えた報復や陰謀に巻き込まれた時は傭兵ギルドが総力を上げて動くから安全なのよ。高ランクの傭兵はギルドにとっても大切な存在だし、陰謀に巻き込まれやすい立場にいる専属契約中の傭兵はギルドも特に気にかけているらしいわ」
俺の疑問にエレノアが答えてくれた。
専属契約の制度ができた当初に傭兵が政治的な策略に巻き込まれ、それに関する報復事件が何度も起きたらしい。そんな歴史から、傭兵が本人の意向にそぐわない形で陰謀に巻き込まれた時は傭兵ギルド自体が介入するようになったそうだ。
「なるほどな、俺がBランク以上の傭兵でエレノアと契約できれば、王族の後ろ盾も得た上でギルドの保護も手厚くなるのか」
「もしそうなれば私にも大きなメリットがあるから、是非ともカナタがBランク以上になったら契約したいわね」
「エレノアのメリット?」
「そうよ。カナタのような強力な戦力が側にいれば抑止力になるし、傭兵の支持率も上がるの」
有名な傭兵は貴族に匹敵する影響力を持つ。そんな傭兵と専属契約を結ぶという事は自身の権力強化にも繋がるらしい。
実際にエレノアの兄弟には複数のAランク傭兵と専属契約を交わして支持率と影響力を上げている人がいるそうだ。
「カナタさんならSランクとかいきそうっすね」
「Sランク。以前に一度手合わせをお願いした事がありますが、Sランクは次元が違う。そう簡単になれるものではありませんよ」
アストラの言葉をクリスがやんわりと否定した。
どうやら、クリスはSランクの傭兵と戦った経験があるらしい。羨ましい。是非とも手合わせしてみたい。この世界のSランクがどれくらい強いのか知りたい。
「そのSランカーと俺、どっちが強いと思う?」
「それは、判断材料が少ないですね。私と手合わせしてくださったSランカーも普段はS級アークスを使用しているみたいですが、手合わせの時はA級アークスを使用していました。それに戦術もカナタさんとは異なっていました。ただ、彼もこの間の宙賊は無傷で制圧できたと思います」
なるほどなるほど、クリスはエレノア騎士団の中でもトップクラスの実力者だ。そんな彼女が判断がつかないと評価するのなら、現時点で俺が
にしても、戦術が俺と異なるという点は面白いな、何か新しい技を見られるかもしれない。是非ともお手合わせ願いたい!
「そのSランカーとの手合わせってどうすればできるんだ?お金払ってSランカーに直接依頼かければいいのか?」
「いえ、それは難しいと思います。私が手合わせしていただいた際は、アース星系の誕生祭に星王陛下が直々にギルドへ依頼を出した事で実現しました。ですが、以前に似た理由で依頼を出した際は断られたと聞きました。たとえ王族や貴族の方々からの依頼であってもSランカーは受けてくれないこともあるようです」
「そうなのか……」
それなら、手合わせするには
「ちょっと話が逸れちゃったけど、カナタの身の安全のためにも傭兵ギルドへは登録しといた方が良いっていう話をしたかったの。ランクが低くてもギルドに所属しているだけで安全な筈よ」
「傭兵ギルドか……エレノアがそこまで言うなら、登録だけはしておくかな」
ゲーム時代に散々暴れ回ったので傭兵ギルドはもういいかなと思っていたが、機会があったら登録だけはしておこう。
こっちの世界の傭兵ギルドもゲームと同じ仕様なら、Sランクに上がれば他のSランカーと手合わせできる筈だ。でも今は学園生活を楽しみたいから、ランク上げは後回しにしよう。
ゲームと同じなら、Aランクまで上げるなら裏技を使えばそこまで難しくない。
「あ、そういえば授業は明日からっすけど、もうクラス分けの名簿公開されてたっすよ」
「え、マジで!?」
うわ、何このドキドキ感っ。エレノアとガラッドとトモエは同じ学年なので、そのうちの誰かと同じクラスなら嬉しいな。
「エレノア様とガラッドとトモエは同じクラスっすね。カナタさんは……別のクラスみたいっす」
「さいですか」
友達100人目指して頑張ります。
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