第6話「ドラゴンブレス」



「タイマン張るぞ」


 ガラッドにそう言われて、訓練用シミュレーターの中へ無理やり押し込まれた。

 どうやらVR装置でバーチャル空間へ飛ぶわけではなく、このシミュレーターのコックピット内で慣性や無重力が働いて実際の戦闘時と同じ衝撃や身体への負荷も体感できるらしい。凄い技術だ。

 バーチャルではないので現実でアークスを操縦しているのとほぼ変わらない操作感であり、慣性に慣れるための体の訓練にもなる。さすがSF世界、前世の世界とは文明レベルが全然違う。


「このモニターで機体の選択と装備の編集ができるのか。なるほどなるほど」


 モニターの文字が読めるのはナノマシンの翻訳機能のおかげらしい。実際は違う言語だが、全部日本語に見える。

 そして、モニターの操作方法もなんとなくわかる。こういうゲーム的な選択画面や編集画面とかは文明が進んでもさほど変わらないんだな。


「バトル設定はC級機体までの使用か。フィールドは小惑星帯ね。せっかくだしアークスはさっき見た騎士団やつにするとして、相手は攻撃型の中距離装備だろうし……」

『おい、編集は終わったか!?さっさとやるぞ!』


 そんなに時間は掛かってないはずなのだが、めちゃくちゃ急かされる。前世でよく練習に付き合わされた『ドラゴンブレス』さんを思い出すなぁ。あの人も超せっかちだった。

 そういえばこのガラッドって人、戦い方もドラゴンブレスさんに似てる気がする。


「せっかくだからドラゴンブレスさん仕様でいくか」


 攻撃型に超攻撃型の戦術というものを見せてやろう。


『待ちくたびれたぜ、さっさと……って、なんだその装備は!?』


 ドラゴンブレスさん仕様のアークスに、ガラッドが驚愕している。

 レーザーブレード無し、バリアも盾も無し、スラスター積みまくり、低速で威力撃強の対艦用小型ミサイル複数と牽制用のレーザーガン一丁。そして極め付けが超近距離武装のパイルドライバーだ。


『舐めやがって……俺にパイルドライバーを当てられるとでも思ってんのか!?本気でやりやがれ!』

「そちらこそ舐めないでください。俺はいつでも本気です」


 ガラッドはブチギレているが、こちらは本気だ。前世では縛りプレイやネタ武器検証などで遊びの戦闘も何度も行なってきたが、全て本気だった。

 限りある装備、定めた条件、その中で勝てる道筋を必死に探って何度も何度も何度も戦ってきたのだ。

 俺は、人生は限りあるという事を知っている。故に、投げやりな戦いなど一度たりともした事はない!


『ぶっ飛ばす!』

「絶対勝つ!」


 戦闘開始の合図とともに、数十発の小型ミサイルが飛来した。


「スラスター全力噴射」


 小惑星を盾にミサイルを回避し、避けきれないものはレーザーガンで撃ち落としていく。防御力ほぼゼロな上に引火したらアウトな高火力ミサイルも積んでいるので、一発でも被弾すればこちらの負けだ。


『ちっ、ちょこまか動きやがって!これでも食らえや!』


 お次は高速で接近しながら拡散レーザーを放ってきた。これも当たりどころが悪ければ一発アウトだな。


「緊急噴射、ミサイル発射」


 射線から逃げるようにスラスターで回避し、続け様にミサイルで近くの小惑星を爆破した。砕けた小惑星の破片にレーザーが当たり爆散。それを目眩しにしてガラッドの機体と距離を離していく。


「さてと、良い感じの小惑星は……見つけた」

『逃げるだけじゃ勝てねぇぞ!』


 レーダーで俺の位置を把握したようで、勢いよくこちらへ突っ込んでくる。

 

『鬼ごっこもこれで終わりだぁ!』

「鬼ごっこか、そっちが鬼ならこっちは龍だな」

『あぁ!?』


 世界ランク第10位『ドラゴンブレス』。

 アークスオペレーションの世界大会において優勝の経験は一度もなく、地方予選でもたまに負けるプレイヤーだ。決して弱くないが勝率にムラがあり、他のトッププレイヤーと比べると控えめな功績しか残していない。

 しかし、アークスオペレーションのプレイヤーの中で彼女の存在を知らない者は1人もいないだろう。


「ドラゴンブレスさんに憧れるプレイヤーが多すぎて、一時期の地方大会大荒れだったなぁ。懐かしい」


 彼女が有名な理由は使用する主兵装が一撃の破壊力のみに重点を置いた、いわゆる一撃必殺武器のみという点だ。

 チャージ時間の異常に長い対艦用高出力レーザー。弾速の異常に遅い拠点破壊ミサイル。射程が短く命中率も低い岩盤掘削用パイルドライバーなどなど、世界大会進出が決まる大事な一戦ですら一撃の重さのみにロマンを求めた構成で試合に挑むほどの一撃必殺バカなのである。

 そんな一撃必殺を貫く彼女の生き様に憧れる者は多く、トップランカーの中で最もファンが多く最も知名度の高いプレイヤーが『ドラゴンブレス』だった。


「だが、ドラゴンブレスさんの真の恐ろしさは一撃必殺じゃない」


 たとえトップランカー相手でも命中率が絶望的に低い一撃必殺を命中させる試合運びと立ち回り、その動きこそが、一撃必殺というハンデを背負って世界ランクに名を連ねる彼女の本当の恐ろしさだった。

 サブ兵装と周囲の環境をフルに活用し、未来予知の如き立ち回りでこちらの意表をついてくる。普通の装備で普通に戦えば間違いなく世界大会で好成績を取れる実力なのに、それを敢えてせず一撃必殺にロマンを追い求め続けているのである。


「少し思考が逸れたな。準備準備っと」


 ガラッドはすでに目と鼻の先まで迫ってきている。時間がない。


「対艦用小型ミサイル遅延炸裂モード、起爆時間5秒、弾速ゼロ」

『終わりだぁ!!』

「ミサイル発射」

『あぁっ!?ミサイルを盾にだと!?』

 

 至近距離まで迫ってきたガラッドが拡散レーザーを放とうとした瞬間、射線上にミサイルを一発放った。このままレーザーを放てば誘爆すると分かったガラッドは近接武器へ兵装を交換しようとしている。だが、遅い!


「ミサイル全弾射出、パイルドライバー!」

『くっ!』


 ガラッドはアークスを急速反転させパイルドライバーの射線から逃げたが、読み通りだ。こんな単純な手で決められるとは思っていない。パイルドライバーもフリだけで起動はしていない。


「キック!」

『ぐあっ!この野郎っ』


 無理矢理躱したため不安定な体勢となっているガラッドのアークスを蹴り、先程ミサイルを射出しておいた方向へ飛ばす。


「ちょうど5秒だな」

『舐めんなぁあああ!!!』


 事前に発射しておいた置きミサイルが爆発する瞬間、ガラッドはレーザーブレード以外の全ての装備を捨て、スラスターを全力で噴射し、爆炎の中から離脱した。無傷ではないが大破ではない。まだ戦闘は続行できるレベルのダメージだ。

 素晴らしい判断力と行動力だ。お陰で——


「——計算通りの位置に来てくれた」

『なっ!?どうやって俺の位置をっ!?』


 蹴り飛ばした後にミサイルが爆発するまでの猶予はほぼないため、アークスの向きを変える余裕もない。蹴り飛ばした際の機体の傾きからどこへ逃げてくるかは簡単に推測できた。

 ドラゴンブレスさんの練習に付き合わされて何度も何度もパイルドライバーでコアブロックを貫かれたからこそ、やられる側の気持ちは痛いほど分かる。だが、手加減はしない!


「それは破壊を司る龍の一撃。全てを粉砕する必殺の一撃!パイルドライバー!!」

『ぐあああああああああ!!!』


 ゼロ距離で放ったパイルドライバーがコアブロックごとガラッドを貫き、木っ端微塵に粉砕した。

 いやはや、テンションが上がってドラゴンブレスさんのトドメの口上まで口にしてしまった。この口上を毎回叫ぶ事も彼女が人気の理由でもある。


『勝者、大宙彼方』

「よしっ!」


 完璧な試合運びだった。ドラゴンブレスさんも文句なしのパイルドライバーだったろう。


「でも、やり過ぎたかも……」


 既に大破寸前のアークスへパイルドライバーを放つというオーバーキル。ガラッド、ブチギレてそうだ。


「シミュレーターから出たくないな〜」


 このままここで生活しようかなぁ。

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