第5話「ボコられるの?」



 このアース星系で流通している通貨単位は、星系の名を称して『アース』と呼ばれている。貨幣価値は日本円とほぼ同じで、1円=1アースくらいの換算だ。

 偶然にも今回捕まえたのは名のある宙賊だったらしく、指名手配料がいいお値段だったらしい。1人あたり約1億、ボスは5億。そして鹵獲した機体は綺麗に切ったので状態が良かったらしく、B級アークスは1体50億、A級は1体100億アースで買い取ってもらえた。さらに、この船の救助報酬としてそこに100億アースが上乗せされた。


「合計で約664億アース……目的地までの護衛費も1日あたり5億くれるらしいし、目的地までは5日だから25億追加で合計約689億アースか……前世で入院してた病院まるごと買えるな」


 まぁ、今後もアークスを乗り回すなら維持費だけでも結構掛かるし、とりあえずは貯金だな。


「さてと、せっかくだから船の中でも探索するか」


 宙賊からの襲撃後、護衛艦隊が到着して船の修繕も終えたため、目的地へ向けて航行が再開された。

 この船はエレノアさんが学園に通うための手続きへ向かっている最中らしい。

 目的地は学園惑星『ジーニアス』と呼ばれるところで、惑星そのものが複数の学園や学生向けの施設などで構成されているそうだ。

 学園惑星、すっごい楽しそう。前世じゃ数えるほどしか登校出来なかったし、修学旅行とか学園祭とかあるなら是非とも行ってみたい。

 エレノアさんも俺と同じ15歳らしいし、俺も希望すれば学園惑星に通えるのだろうか?


「まぁいいか、それよりも今は船の探索だな。売店ってどこだろ?」

「ショッピング区画は船の2階と3階っすよ。4階はレストラン区画っす」

「ありがとう……って、誰?」


 部屋から出て独り言を呟きながら歩いていると、いつの間にか隣に小さい女の子が歩いていた。エレノアさんの専属騎士であるクリスさんと似た服を着ている。


「申し遅れたっす。私の名前はアストラっす。先日は助けていただき本当にありがとうございました。大宙さんは命の恩人っす」

「あ、もしかして、俺が到着するまで宙賊と戦ってた人?」

「そうっす!コアブロックの中から見てたっすよ。私達ボコボコにした宙賊相手にたった1機で挑んで無傷で圧勝!いやぁ〜燃えたっす!マジで熱かったっす!」


 聞くと、アストラさんはエレノアさんを護る騎士団の1人らしい。

 エレノアさんの騎士団はクリスさんを含めた5人で構成されており、宙賊とはクリスさんを除いた4人と船の護衛兵10人がC級アークスに搭乗して戦っていたそうだ。


「クリスさんは戦わなかったんだな」

「クリス団長含めた騎士団全員のアークスは調整中だったんすよ。なので、仕方なく船に積んでいたC級アークスで出撃したんす。正直、C級アークスじゃA級やB級アークス相手に勝つのは厳しいので、万が一に備えてクリス団長にはエレノア様の側に残ってもらってたんすよ。今は手元にないっすけど、愛機が使えればもっといい勝負ができた筈っす!悔しいっす!」


 今回の航行が決まってから、急遽騎士団全員の機体の調整が行われたらしい。さらに、宙賊の乗ってた機体は普通の宙賊が手に入れられるようなランクのアークスと装備ではなかったようだ。

 陰謀の匂いが凄いな。


「それでアストラさんはどうして俺についてきてるんだ?」

「せめてもの恩返しにと思って世話役を買って出たんす。あ、名前呼ぶときはアストラって呼び捨てでいいっすよ」

「あ、そしたら俺もカナタでいいよ」

「了解っす!」


 その後、アストラに案内してもらいながらショッピング区画やレントラン区画を回った。

 ってか、めちゃくちゃ広いなこの船。ちょっとした街くらいの大きさだ。


「そしてここが、格納庫やら訓練場やらがある区画っす」

「おおおおお!これが船の護衛用アークスか!」


 格納庫では灰色を基調とした兵士のようなデザインのアークスが待機していた。専用アークスは各自が持つ亜空間格納庫に収納されているが、緊急時の共用アークスはこう言った形で現実の格納庫に保管されているらしい。

 全長15メートルほどのアークスが立ち並ぶ光景はまさに圧巻だ。素晴らしいな。全部C級アークスで装備は中距離型の汎用タイプか。いいなぁ、かっこいいなぁ。


「これって……乗っちゃダメ?」

「だ、ダメっすよ!この船の戦闘員の生体情報しか登録してないんで、そもそもカナタさんじゃ動かせないっす」

「そうか……」


 ゲーム内でも似た系統の機体に乗ったことがあるから、その時との違いを感じたかったんだけど、やっぱりダメか。


「ん〜、訓練場ならワンチャンいけるかもしれないっすけど……」

「訓練場?」

「訓練場にはアークスのシミュレーターが置いてあるんす。その中にこのアークスも登録されてるんで、操縦の練習は出来るっすよ」

「今すぐ行こう!」


 アストラに訓練場へ連れて行ってもらうと、大型VR装置のような機械がずらりと並んでいた。あの機械に入るとバーチャル空間で様々な機体での戦闘訓練が行えるらしい。

 バーチャル空間で行われている戦闘は巨大モニターに映し出されており、兵士達の訓練を整備士や他の区画の従業員の人達が観戦している。訓練の観戦はこの船の娯楽の1つとなっているそうだ。


「凄い人だかりだな」

「今の時間はガラッドが訓練してるんで観戦者が多いんすよ。あ、ガラッドは私と同じエレノア様の騎士団の1人っす。突撃バカっす」

「なるほど、あの武器だらけのアークスのパイロットか」


 巨大モニターには3機のC級アークスと1機の武装ガン積みC級アークスの戦闘が映し出されている。

 長大なロングレーザーブレードに拡散砲、各種ミサイルに大型スラスター。武装ガン積みアークスは防御力を捨てて攻撃と機動力にガン振りした構成だが、3機のC級アークスを圧倒している。


「強いな。武装を上手く使いこなしてる」

「うちの騎士団じゃガラッドはクリス団長に次ぐ実力者っすからね。ま、私も5回やれば1回は勝つっすけど!」


 アストラの言葉をスルーしながら戦闘を眺めていると、わずか10分ほどで終了した。多少の被弾はあったようだが、結果は武装ガン積みアークスの圧勝だった。


「また負けたー!」

「ガラッドさんありがとうございました!」

「またお願いします」

「おう!お前らもいい動きだったぜ、また今度相手してやるよ」


 しばらくすると、訓練用シミュレーターの中から赤髪ヤンキーが出てきた。あれがガラッドか。


「お?アストラじゃねーか、隣にいるのは誰だ?」

「こちらはカナタさんっすよ。なんと、あの白銀のアークスのパイロットっす!」


 訓練場の隅っこで大人しく観戦していたのだが、背の小さいアストラが飛び跳ねながら観戦していたせいで見つかってしまった。


「はじめまして、大宙彼方と言います」

「ほう、お前があの機体のパイロットか。ちょっとツラ貸せや」


 えっ、なんで?いきなりボコられるの?


「ガラッド!命の恩人に失礼っすよ!まずは感謝が礼儀っす!」

「ああ、そうだったな。カナタっつったか、すまねぇ。宙賊の襲撃ん時は助けてくれてありがとな」

「いえ、どういたしまして」


 物言いは強いが根は良い人っぽいな。


「それはそれとしてツラ貸してくれや。こっちこい」


 あ、やっぱりボコられるのかもしれない……。

 

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