第7話「学園惑星ジーニアス」



「俺がミサイルを気にせず拡散レーザーを撃ったらどうしてたんだ?あの距離ならカナタもミサイルの誘爆に巻き込まれてただろ」

「その時はパイルドライバーを盾代わりにして回避する予定だった。そうすれば運が悪くても脚部とスラスターの一部を失うだけで済むからな」

「そういや、パイルドライバーは無駄に頑丈だったな。その耐久力なら誘爆ぐらい耐えれるか。俺は少なくとも拡散レーザー砲を失って戦力は半減する。差し引いて考えりゃ俺の方が不利になってたわけか、接近戦に持ち込もうとした時点で俺の負けは確定してたんだな……」

「逆に中距離からひたすら狙われ続けてたらこっちは相当厳しかったけどね。まぁ、その時は無理矢理こちらから接近戦に持ち込む予定だったけど」

「なるほどな、パイルドライバーに対艦用小型ミサイルか……初めは舐めた装備かと思ったが、使いこなせりゃ小惑星帯でのタイマンで有効な装備なんだな」


 今俺は、レストラン区画にある高級店でガラッドの質問攻めにあっていた。

 戦闘の後にボコられると思ったら、真剣な表情でレストラン区画へと連れてこられてご飯を奢ってもらう代わりに先程の戦闘の考察に付き合わされることになったのだ。

 ちなみに、敬語は使わず呼び捨てでいいと言われたのでそう話している。ガラッドもいつの間にか勝手にカナタと呼んでくるようになった。


「くそっ、もう時間か。そういやも1つ聞きたいんだが、何でパイルドライバーなんて使おうと思ったんだ?カナタの実力なら普通の装備でも俺を倒せただろ」


 食事を終えたガラッドが立ち上がりながらそう聞いてきた。

 たしかに、ガラッドの言う通り普通の装備でも勝てたと思う。むしろパイルドライバーなんてハンデを背負わない分危なげなく勝てただろう。

 だが、それでも一撃必殺で勝ちたいと思った。いや、見せたいと思った。


「ガラッドの機体構成が、友人の昔の機体構成に似てたんだ」

「友人の昔の機体構成だと?」

「うん。その頃の友人は追い求めたいロマンと勝たなければいけないプレッシャーに挟まれて凄い辛そうだったんだ。色んな葛藤があったけど、結局その人はロマンを追い求める道を選んでとてつもなく強くなった。その人とガラッドが何故か重なったんだよね」


 そう正直に伝えると、ガラッドは一瞬驚いた表情となり、真剣な表情で何かを考え始めた。

 ガラッドも似たような悩みを抱えているのかもしれない。


「パイルドライバーの戦法は、その友人とやらが考えた技なのか?」

「そうだよ。全て彼女が考えた。ちなみに、最後の口上も全部彼女の受け売り」

「女かよ。名前は何て言うんだ?」

「みんなからは『ドラゴンブレス』って呼ばれてた」

「ドラゴンブレス……龍の一撃か。かっけぇな」


 パイルドライバー以外にもドラゴンブレス流一撃必殺戦法はまだまだあると伝えると、何でも奢るから時間のある時に教えてくれと頼み込まれた。別に隠すことでもないので奢られなくても教えるつもりだ。

 まさか異世界にもドラゴンブレスさんのファンが生まれるとは思ってもみなかったな。


「ガラッドがあんなにテンション高いの初めて見たっすよ。しかもタメ口も名前呼び捨てもOKなんて、カナタさん相当気に入られたっすね」


 隣で黙々と食事をしていたアストラがそう話しかけてきた。

 あれがテンション高い時の表情なのか?終始怖かったんだけど。


「同い年でガラッドより強いパイロットなんて周りにいなかったんで、テンション上がったんすね」

「同い年?ガラッドが?」

「そうっす。カナタさん15歳っすよね?同い年っすよ。ちなみに私は一個下っす」


 さらに聞くと、クリスさんは16歳で他の騎士団員2人も14と15歳なのだそうだ。マジか、この騎士団若過ぎないか?


「他の王族の専属騎士はもっと年上ばっかっすよ。長命な種族で100歳超えてる人も居るっす。これだけ若いのはうちの騎士団だけっすね。ま、色々と事情があるんすよ……」


 エレノアさんは当初、王位継承権第四位で星王になる可能性はほぼないと言われていたため、騎士団も幼少期から仲の良かった者達だけで編成されたそうだ。

 だが、エレノアさんの人柄や慈善活動に精力的に取り組む姿が民からの支持を集め、星王就任の可能性が出てきた今になって、政治的な陰謀に巻き込まれるようになったらしい。


「なので宙賊の件は本当に助かったっす。本当にありがとうございましたっす」

「感謝はいいよ、もう充分報酬ももらってるし」


 部屋で休んでいた時に手持ちのアイテムを確認したが、お金は一銭も入っていなかった。なので、この船の護衛代や宙賊を倒して得た報酬は今後の活動の上でとてもありがたいし、なにより身分証が手に入ったのは大きい。それがなければ活動も何もできなかっただろう。


「そいえば、私もカナタさんと対戦お願いして良いっすか?さっきの戦い見て血が激ったっす!」

「お、良いぞ。やろう!」


 アストラのアークスは見た目とは裏腹に超重量級の攻撃と防御特化の構成だった。

 ボッコボコにした。


 



「カナタさん、お疲れ様です!」

「あ、カナタさんだ。お疲れ様です」

「どうも、お疲れ様です」


 船内生活4日目。午前中はぶらぶらと船内を散策し、午後は夜まで訓練用シミュレーターでガラッドやアストラや他の兵士達をボコボコにしていた。

 そんな生活を送っているうちに、いつの間にか船内の従業員や兵士達から一目置かれる存在にになってしまったのだ。こちらに気づくとみんなあいさつしてくる。

 さらに、この旅客船の周囲には4隻の護衛艦が待機しているのだが、昨日から各護衛艦のエースパイロット達もシミュレーター戦に参戦してくるようになった。もちろん彼等もボコボコにしているので護衛艦の人達にも一目置かれるようになっている。

 いやはや、強いパイロットとの対戦はやっぱり楽しい。とても充実した日々だ。


「お邪魔します」


 そんな事を考えながら、ショッピング区画にあるアークス専門店へと入っていく。

 このお店は『アルカディア・エレクトロニクス』という企業の支店で、アークスやその武装を専門的に販売しているお店だ。

 ちなみに、この世界では多数の企業がアークスの製造販売を行なっているが、アルカディア・エレクトロニクスはその中でもトップ3に入る大企業らしい。


「カナタさん、いらっしゃいませ。また来てくださったんですね」

「毎日お邪魔してすみません。またカタログ見せてもらっても良いですか?」

「お邪魔なんてとんでもない!どうぞどうぞ、閲覧可能な他社のカタログと当社のお得意様限定カタログもご用意しておきましたので、そちらもぜひご覧ください」


 今対応してくれているロネスさんは、アルカディア・エレクトロニクスの学園惑星支社の統括に就任し、その移動の為にこの船に乗せてもらっているそうだ。初めはただの店員さんかと思ったが、相当偉い人らしい。

 そして、船を助けた俺を命の恩人と慕ってくれており、色々と便宜を図ってくれている。


「わざわざ特別なカタログまで、ありがとうございます」

「いえいえ、カナタ様のような優秀なパイロットと交流が持てるだけで、我々としても非常にありがたいのです。それと、もしもあの白銀のアークスの整備が必要な場合はいつでもご相談に乗りますので!もちろん費用は全額無料で!いや、こちらからいくらかお支払いさせていただきます!」

「あー、はい、もしもの時はお願いします」


 感謝の気持ちからよくしてくれているのもわかるが、打算も凄い感じる。むしろ、ここまで堂々としていると清々しいな。


「この武装は何なんですか?」

「それは最新式の拡散レーザー砲ですね。ただ、威力が上がった分エネルギーの消費率も上がりましたし連射性能も落ちたのであまりお勧めはできません。そちらよりもこちらの拡散レーザー砲の方が実戦での戦果は高いですよ」


 ロネスさんの解説は自社製品でも贔屓せず利点も欠点も全て説明してくれるのでとても助かる。


「にしても、知らない装備が多いな……」


 この世界のアークスや武装はゲームの頃より格段に種類が多い。アルカディア・エレクトロニクスのカタログだけでもゲーム内にはなかったアークスや武装が沢山あるのだ。

 だが、弾倉や武装の互換性はゲーム内と変わらないようなので、ここにある武装は俺の所有しているアークスにも問題なく装備はできる。その点に関しては幸いだったな。


「あ、やっぱりここに居たんすね。エレノア様ー!カナタさん見つけたっすー!」

「ありがとうアストラ。こんにちはカナタ様」

「アストラとエレノアさんか、こんにちわ」


 珍しい組み合わせだな。クリスさんは居ないのかと聞くと、「クリスはまだカナタ様の事を警戒しているようなので、撒いてきました」と言われた。意外と行動力あるなこの姫様。


「エレノア様、何かお話があるのでしたら奥にある商談室をご利用ください。盗聴の心配もありませんし、簡単に見つかる場所ではないかと」

「あら、ありがとうロネスさん。少し使わせていただきますね」


 さすがはロネスさん。王族の突然の訪問にも動じず、寧ろ店内に引き入れるとは、学園惑星の支社を任せられるだけの事はあるな。あと、エレノアさんにも名前覚えられてるのか。


「それで、エレノアさんは何で俺を探してたんですか?クリスさんまで撒いて」


 ロネスさんが置いていってくれた飲み物と茶菓子をつまみながら、エレノアさんの話を聞く。

 ん?この茶菓子、よく見ると小さく『アルカディア・エレクトロニクス』の社名が書かれているな。ティーカップにもうっすらと書かれている。サブリミナルで社名を売ろうとしているのだとしたら、商魂逞しいな。


「お話の前に、カナタ様、私の事はどうぞエレノアと呼び捨てにしてください。それと、敬語も必要ありません。アストラとガラッドだけずるいです」

「えっ、あー……はい。いや、了解。それじゃあタメ口で」

「はい。それでお願いします」


 出席する事はないと思うけど、お偉いさんが集まる式典とかパーティーだけは敬語で話すことにしよう。まだこの世界の法律は知らないけど、罪に問われたりしたら困る。


「そしたらエレノアもカナタでいいよ。敬称はいらないしタメ口で話してくれ。同い年だし」

「わかりました!あ、わ、わかったわ!」

「そしたら私もタメ口で呼ぶとするっすかね」

「アストラは一生敬語な。年下だし」

「一個下じゃないっすか!ほぼ変わんないっすよぉ」


 そんな雑談を交わしつつ、話はいつの間にか本題に入った。


「カナタはこれからどこの惑星を拠点にするつもりですか?」

「敬語」

「あ、ごめんなさい。どこの惑星を拠点にするつもり?」

「拠点か……」


 ゲームの時は傭兵ギルドの本部がある『ソリッド』と言う惑星を拠点にしていた。そこの一帯は宙賊や危険な宇宙生物の多発地域でもあるため、戦闘関連のクエストやイベントが多く、アークス戦の訓練にもってこいだったのだ。

 だからこそ、傭兵惑星ソリッドはもういい。生活費のためにまた傭兵として活動しようとは思っているが、ソリッドはもういい。あそこでの生活はもう嫌というほど堪能した。

 せっかくならもっと楽しそうな惑星を拠点にしたい。そこで前世でできなかった事ややりたかった事にも挑戦していきたい。


「もしもまだ拠点を決めかねているのなら、学園惑星ジーニアスはどう?もしも学園に興味があるなら推薦状を用意することもできるわ」

「学園惑星か……なるほど、その心は?」

「私が身元保証人である謎の凄腕パイロットが近くに居るだけで政敵への牽制になるし、カナタの前世の話はとても興味がある」

「前世の話?前世の話ってなんすか?」

「気にするなアストラ」


 俺の前世の話を知らないアストラが食いついてきたが、スルーしながら話を続ける。


「にしても、エレノアは正直だな。王位継承争いなんて面倒事に巻き込まれるのが分かったら嫌がるとは思わないのか?」

「政治的な策略は苦手ではないけど、嘘をつくのは嫌なの」


 なるほど、継承争いでは不利な心情だろうけど好感は持てる。学園惑星へ向かうエレノアに会ったのも何かの縁かもな。

 

「正直、学園惑星はめちゃくちゃ興味がある。というか行きたい」

「ほんと!?」

「ああ、だからさっきの推薦状の話、お願いしてもいいか?」


 前世では世界大会優勝という夢を叶える事ができた。その生き様に後悔はないが、強いて言うなら学校生活を謳歌したかったという不満はある。

 同じ趣味の友達と駄弁ったり、気の合う友達と体育祭とか学園祭とか修学旅行とかに行ってみたかった。


「そしたら、学園惑星を拠点にするという事でいい?私がいるせいで迷惑をかける事も多いと思うけど……」

「全然いいよ。この間の宙賊程度の迷惑なら何の問題もない」

「この間の宙賊程度って……あれ程の事態で問題ないのなら誰もカナタには敵わないわね」


 エレノアが笑いながらそう話した。

 全然俺に敵う相手はいるけどね。世界大会常連の『ナガイモ』さんになんて何度負けたことか……。


「そういえば、学園惑星っていろんな学校があるんだっけ?」

「そうっすよ。あらゆる分野の専門学校から総合的に学べる学校まで種類もレベルも様々っす。学生向けのレジャー施設や研修施設も星中にあるっすよ!」


 アストラがそう教えてくれた。なるほど、行くとしたらやっぱりパイロット育成専門の学校がいいな。


「パイロットの育成で一番レベルの高いところってどこの学校なんだ?」

「パイロット育成に限らず、あらゆる分野でトップと言われているのは惑星の名を冠している『ジーニアス学園』ね。規模もレベルもこの宇宙でトップクラスの学園よ。私達がこれから行く学園でもあるわ」

「私達?」

「エレノア様と一緒に騎士団のみんなも通う予定なんすよ!私は一個下なんで中等部で、クリスはエレノア様より一個上の学年になるっすね。楽しみっす」


 護衛としてエレノアの騎士団も全員ジーニアスに通うらしい。それは賑やかだな。


「ジーニアスは入学試験とかあるのか?」

「筆記と実技試験があるわ。ジーニアス学園は生徒の個性を尊重する校風だから、特に実技試験に力を入れているみたいね。受験生の得意分野に合わせた様々な試験から内容を選択できるの。筆記で点が取れなくても実技で合格したという話はよく聞くわ」

「私が受けたパイロット科の試験は、訓練用シミュレーターでめちゃくちゃたくさん出てくる敵ひたすら撃破する感じの一次試験受けさせられて、次の日に私の戦闘スタイルに沿って作られた2次試験受けさせられたっす」


 なるほど、実技は一次試験で戦闘スタイルや実力を測られ、二次試験はその受験生の個性に合わせた試験を受けさせるのか。

 最悪筆記ゼロ点でも実力を見せつければいいなら、可能性はあるな。正直、前世の世界より遥かに発展したこの世界の化学や数学の問題なんて解ける気がしないし、星系の歴史とか問われても一切わからない。


「推薦状はすぐ用意できるけど、それでもある程度の点数は取れないと難しいわよ」

「大丈夫、実技で何とかするよ。試験っていつかわかる?」

「試験は……明後日っす」

「……」


 徹夜で筆記試験の内容を叩き込んでもらう事になった。

 

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