アークスオペレーション〜転生先はSFロボットゲームの世界〜
タンサン
第1話「アークスオペレーションの世界」
VR体感型ロボットアクションゲーム、『アークスオペレーション』。
『アークス』と呼ばれるロボットに搭乗して戦うバトルアクションが主軸だが、無数に存在するNPCと関わり星々を巡りながらストーリーを攻略していくRPG要素や、様々な惑星や宇宙空間で白兵戦を行えるFPS要素、気に入った惑星で平和に暮らすほのぼの要素などなど、一つの枠組みにとらわれない遊び方ができる最高の神ゲーとして人気を博している作品だ。
全世界ダウンロード数は20億本を突破し、多くのプレイヤーを魅了している究極の体感型VRゲーム。
俺もこのアークスオペレーションに魅了され、その世界を楽しむプレイヤーの1人だった。
あの日までは……
◇
「ん?ここは……マキナのコックピットか」
慣性負荷の軽減機能がある座り心地の良いシート。俺の手に合わせて位置と高さが調整された各種スイッチとレバー。
ここはアークスオペレーションのゲーム内で使っていた俺の愛用アークス、『マキナ』のコックピットの中だ。
「さっきまで病室のベットにいたはずなのに、なんでゲーム内にいるんだ?」
ゲームを始めたつもりは一切ないのだが、無意識にログインしてしまったのかもしれない。
廃人の自覚はあるけど、さすがにやばいな。
「取り敢えずログアウトするか。メニュー画面」
『メニュー画面』と口にしながら虚空に手をスライドさせる。これがアークスオペレーション内でメニュー画面を開く操作方法だ。しかし、一向に画面が開く気配はない。
「どういうことだ……?」
明らかにおかしい……システムのトラブルなら強制的にログアウトされる筈だから、そういう問題ではないだろう。
「もしかして現実!?いや、そんなわけ……」
VR空間かどうかの確認のため、コックピットのレバーを少し舐めてみる。
体感型VRゲームでは味覚も働くので食べ物の味を感じ取ることはできるが、味の設定されていない物は舐めても何も感じない。アークスオペレーション内ではさすがに機体のパーツにまで味の設定はされていないので、ここがVR空間なら味は感じない筈なのだが——
「——金属っぽい味がする。えっ、なんで?」
嘘だろ?ここって本当に現実なのか!?いや、夢か!夢の可能性が高いな。
「いてっ!ほっぺが痛い……」
頬をつねってみると痛みを感じた。夢ではないようだ。
とりあえず、冷静になって眠る前の最後の記憶を思い出してみる。
確か、先週はアークスオペレーションの世界大会で、その後に容態が悪化して緊急入院になって——
「——そうか、死んだのか」
死の直前までの記憶、その全てを思い出した。
現代医学では治療不可能といわれる難病を患っている事が生後すぐに判明し、人生の殆どを病室で過ごしていた。
そんな中、ロボットに乗り込んで戦う人気ゲームがあると親から聞いて『アークスオペレーション』を知り、実際にプレイしてみるとどんどんとハマっていき、ゲーム内で気の合う友人や仲間もできて……アークスオペレーションの世界こそが俺にとっての本当の世界になっていった。
そして、アークスオペレーションの世界大会で念願だった優勝を果たして間もなく、俺は容態が悪化して……亡くなったんだ。
「ということは、ここは死後の世界か。死後の世界でもマキナに乗れるとか最高だな」
神様の存在とか死後の世界とかは信じていなかったけど、もしもこれが神様の計らいだとすれば感謝しかない。
「にしてもすごいな、まるで現実だ。体もふわふわする。これが本物の宇宙の感覚なのか」
ゲーム内でも機体の重厚感や無重力を感じることは出来たが、やはりリアリティーが全然違う。
「父さんと母さんとゲームで仲良くしてくれたみんなにお別れを言えなかったのは心残りだけど、万が一に備えて遺言は残してあるからそれが無事に届くといいな……」
俺が10日以上ゲームにログインしなかった場合、遺言を書いたメールが自動的に家族やお世話になった人達へ送られるよう設定してある。
それがうまく機能していることを祈ろう。
「よし、気を取り直して、これからどうするかを考えるかな」
天使とかが迎えに来てくれるのかな?でも親より先に亡くなったから、もしかして地獄行き?それは嫌だなぁ。マキナも連れていって良いなら三途の川でいくらでも石積むけど。
「とりあえず、今はこの世界を楽しむか。誰かが迎えにきたらマキナを没収されるかもしれないし」
せっかくの機会だ。現実のようにリアルなこの宇宙で、マキナを存分に乗り回して楽しもう。
「マキナ起動!」
機体の起動に鍵などは必要なく、声だけで行える。コックピットに座った瞬間に各種センサーがパイロットの生体情報を一瞬で読み取り、本人確認が済んでから音声による起動を待つ待機状態へと移行するのだ。
そのため、似た声色の人が起動と叫んでも機体は動かない。
「おおおおおおお!ゲームとあまり変わらないけど心なしかリアル!」
アークスオペレーションは数多ある体感型VRゲームの中でも最もハイクオリティなゲームだった。そのため、ゲーム内のグラフィックや感覚は現実とあまり変わりなかったけど……ふと香るコックピット内の匂いや僅かに滲む手汗、やっぱり死後の世界での操縦はひと味違うな!
「あ、今気付いたけど、体が俺自身の体だ」
今更ながら、ディスプレイに反射する自分の顔を見て気が付いた。
この体はゲーム内で使っていたアバターではなく、現実の俺の体だ。そして素っ裸だ。
「興奮しすぎて全然気付かなかった……」
急いで腕時計型の『亜空間格納庫』からゲーム内で着ていた衣服を取り出す。
「よかった。亜空間格納庫は使えるし、中身もゲームの頃のままだ」
亜空間格納庫とは、様々なゲーム内アイテムやアークス本体を収納しておける超便利グッズだ。
通常は各種アイテムとアークスを3機までしか格納できないが、イベント報酬や課金を重ねたお陰で俺の格納庫は最大10機のアークスと各種装備を無数に保管できるほどの広さがあった。
数多いたアークスプレイヤーの中でも、格納庫の広さはトップクラスだと思う。
「それにしても、この体で動けるだけじゃなくて宇宙に来れるなんて……感動だ。ずっとこのままだったらいいのに」
そう呟きながらマキナで目的もなく宇宙を駆け回る。
やはりゲームとは違うな。感覚がリアルに近い分操作性が上がっている気がする。今なら世界大会のトップランカー相手でも圧倒できそうだ。
「遠くに恒星っぽいものがあるって事は、惑星もあるのかな?着陸できる惑星でも探してみ……」
『救難信号ヲ確認、救難信号ヲ確認』
「……救難信号!?」
惑星探索でもしようかと思っていた直後、コックピット内に救難信号を受信したことを知らせるアラートが鳴り響いた。
救難信号って、俺以外にもこの世界に誰かいるのか?
「とりあえず行ってみるか」
座標はここから3000万キロほど先だが、マキナの超光速航行機能なら光の3分の1の速度(約10万キロ/秒)まで加速できる。所要時間は約5分ってところか。
「通路上に
救難信号を発信する謎の存在に会いに行くため、マキナを超光速で発進させるのだった。
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