第10話「宇宙を……救え!!!」
「ふぁぁ、眠い……」
「眠いところ申し訳ないけど、私の質問にも答えてもらうわよ。じゃないと私達も眠れないの」
試験翌日の昼過ぎ。疲れた顔のエレノアと騎士団ズが部屋に訪ねてきたので、今はホテルの食堂で一緒に昼食をとっている。
教職員に先程まで質問攻めにされてやっとの思いで帰ってきたばかりなので、正直めちゃくちゃ眠い。もう寝たい。
「それで、カナタは実技試験で一体何をしたの?王宮からあなたの素性について問いただす連絡があったんだけど」
「いや、特に何もしてないぞ。普通に試験がんばっただけだよ」
「がんばっただけって……歴代最高記録で試験を突破したんでしょ?お陰で、お父様の使者から一晩中質問責めにあったんだから」
身元保証人はエレノアの名前になっているため、俺の素性を調べる際に名が上がるのはエレノアと言うことになる。
それでもエレノアは王族。この星系の姫であるため、エレノアが保証人である謎のパイロットが宙賊を倒した際の追及はほとんどなかったらしい。だが、その謎のパイロットがジーニアス学園の試験で歴代最高記録を叩き出したというのはさすがに異常であると判断されたようで、無礼を承知でエレノアに追及の波が押し寄せたそうだ。
「普通の記録ではないと聞きましたよ。一体どれだけの時間逃げ切ったのですか?」
「たしか、13時間半だったかな」
「「「「じゅ、13時間半!?」」」」
クリスさんの質問にそう答えると、他の騎士団メンバー全員が驚いた顔をしていた。
だが、俺はあの記録に納得していない。最後の凡ミスがなければもう2時間はいけた筈だ。惜しかった。思い出したらまた悔しさが込み上げてきた。
「そ、そうですか。本当に凄い記録ですね」
「え、ありがとう」
クリスはまだ警戒しているようだが、褒めてくれたということは少しは俺の事を認めてくれたのだろうか。
「カナタの実力なら何かとんでもない事をしでかすと思ってはいたけど、こんなに早くとはね……」
「エレノアが保証人になると俺に迷惑がかかるとか言ってたけど、逆に俺のせいでエレノアに迷惑がかかったみたいだな。申し訳ない」
「そうよまったく。でも、私を暗殺しようとしている派閥には相当な牽制になってるみたいだから、感謝もしてるんだけどね」
「牽制?試験の得点が良かっただけでか?」
「今年のパイロット科の実技試験はとんでもないメンバーだったのよ。武勇に優れた名家の子供達もたくさん居たし、あの勇爵家の三男も参加していたの」
「勇爵家?」
どこかで聞いた事があるようなないような……ストーリーモードをちゃんとやっておけばよかった。
「勇爵家ってのは勇者の家系で、代々強えパイロットばかり生まれんだ。そん中でも今回の試験を受けてた三男は勇者の生まれ変わりなんじゃねぇかって言われるくらいの天才らしいぜ」
「カナタさんはその三男よりも良い成績を出したんす。しかも、歴代最高記録って事は、今まで同じ試験を受けた英雄達を超えた実力って事っす。そんな強くて謎も多いパイロットがエレノア様と繋がりがあるってなったら、暗殺企んでる奴らも警戒するのは当然っすね」
「なるほど……勇者か」
「あれ?カナタさーん、私の話聞いてるっすか〜?」
納得できない記録の話なんてどうでもいい。
そんな事よりも『勇者』だ。その設定は聞いたことがある。たしか、巨大金属生命体『オレイカルコス』を倒してこの宇宙を救った英雄だったはずだ。そうか、その子孫が『勇爵家』と言われているのか。
「勇者って、オレイカルコスを倒した英雄で合ってるか?」
「わぉ、私の話全然聞いてないじゃないっすか。相当簡潔っすけど、勇者はその説明で合ってるっすよ」
「そしたら、『アポイタカラ』は誰が討伐したんだ?」
俺の質問に全員が首を傾げた。
「あぽいたから?それは何かの宇宙生物の名前かしら、クリスは知っている?」
「いいえ、私も知りません」
エレノアもクリスさんも、他の騎士団ズも知らないらしい。
『アポイタカラ』とは、アークスオペレーションのゲーム内に登場した金属生命体の名前だ。
悪の組織により『オレイカルコス』の遺伝子を元にして作られた金属生命体であり、ストーリー攻略組王宮専門班の1人が偶然発生させたエクストラクエスト『宇宙を……救え!!!』における大規模レイド戦のラスボスとして登場した。
アポイタカラとの最終戦では『勇者』の称号を持つNPCキャラクターと協力して総勢10万人以上のプレイヤーが共闘したのだが、勇者NPCの活躍は群を抜いており、異常なまでに強かった記憶がある。勇爵家の三男とやらがあれ程の強さだとしたら、是非とも手合わせ願いたいな。
ちなみに、報酬はとても豪華で、アポイタカラのレイド戦における貢献度によって報酬内容は変わり、上位10人に入るとアポイタカラの素材を用いた特殊なS級アークスが手に入った。
もちろん俺は手に入れている。あまり使う機会のない機体なので亜空間格納庫の中で埃を被っているけどな。
「ごめん、忘れてくれ。それで何の話だっけ?」
「えっと、カナタの素性を王宮が知りたがっているっていう話よ。今回はうまく誤魔化しておいたから、今後カナタが何かしない限り追及はないと思うわ」
何らかの事故に巻き込まれて記憶が混濁しており、未開拓惑星出身のため生体情報の登録もないという設定にしたと言われた。
ありがたやありがたや。
「誤魔化したという事は、本当のカナタさんの出身ってどこなのでござる?」
「私も知りたいですね。所有しているアークスや実力から只者ではない事は分かっていたので、てっきり別星系から亡命してきた騎士や王族なのかと思っていました」
そういえば、このメンバーではエレノアとクリスしか俺の事情を知らないんだったな。アストラとガラッドも疑問を感じているようなので、エレノアに話した内容と同じ説明をした。
ついでに、アポイタカラもゲームで出てきたラスボスだと教えた。
「なるほどな……そんな化け物倒したりしてっからそんなに強かったのか。ドラゴンブレスさんもカナタの元の世界のダチだったんだな。できれば会ってみたかったぜ……」
「ゲームとはいえ、オレイカルコス並みの化け物と戦ったりS級アークス乱れる世界で一位取ったりしてたんすか。そりゃ強いわけっすわ」
ガラッドとアストラの脳筋組は信じてくれているらしい。エレノア同様目がキラキラしている。
「そうでござったか、カナタ殿は、きっと辛い経験をされたのでござるな」
「証拠がなければ信用できませんね。そんな突拍子もない話なら尚更です」
トモエは精神的ショックで記憶混濁になった患者を見る目で見てくる。マルクスは論理的な解答だな。逆に証拠があれば信じるのか。
「証拠……証拠か!」
「証拠があるのですか?」
「いや、証拠と呼べるかは分からないけど、アポイタカラの素材を元にしたアークスは持ってる。この世界にアポイタカラが出現してないなら、同じ機体はこの世界にないはずだ」
極端な話、俺の所有しているS級アークスは設計図を用意して材料をかき集めればこの世界でも作る事は可能だ。
だが、アポイタカラから作り出されたS級アークス『ヒヒイロ』だけはそうはいかない。
ヒヒイロに使用されているアポイタカラの素材はまだ生きているのだ。ヒヒイロを作るためには一度アポイタカラを復活させて素材を剥ぎ取る必要があるため、この世界の技術を用いても人工的に作り出すのは不可能に近いはずだ。
「この世界では作り出せないアークス。さらに宇宙生物を材料にしているとは、興味が湧きますね」
「マルクスはアークス技師なのでござる。市場に出回っている装備にはマルクスが開発したものもあるのでござるよ」
「マジか、凄いな」
マルクスは騎士団員とアークス技師を兼業しており、エレノアの騎士団の機体整備もマルクスが担当しているらしい。
ちなみに、宙賊襲撃では例外的に別の整備士に騎士団のアークスが預けられていたそうだ。陰謀臭が凄いね。
「そのアークスは亜空間格納庫の中に収納されているのですか?」
「そうだよ。場所があればすぐに見せれる」
「エレノア様、カナタさんと演習場へ行ってもよろしいでしょうか?」
「何を言っているのですか、勿論私達も行きますよ」
エレノアの目が寝不足とは思えないくらいキラキラしている。アストラとガラッドの目もキラッキラだ。
「それじゃあ行くか。ところで、演習場ってどこ?」
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