第3話「アンチレーヴァテイン検討会」
宙賊が本来所有できないほど性能の高い5機のアークス。その全てが熟練した連携で白銀のアークスへと攻撃を仕掛けるが、その攻撃は次々に躱され、武器を奪われ、遊ばれるようにして倒されていく。
『船を狙え!人質にするんだ!』
『了解!……ぐあああ!』
『はい4機め〜』
『ならレーザーガンで撃ち抜いてやらぁ!』
『や、やめろ!俺に当た……ぐああっ!』
『はい5機め〜』
さらには、旅客船を人質に取ろうとするアークスは即座に破壊され、流れ弾は宙賊の機体を盾にして防ぐため船への被害は一切ない。
「じ、次元が違いすぎる……」
「何なんだあの機体は……?」
王族の護衛騎士を倒すほどのアークスと実力を持つ宙賊相手に、船を守りながら圧倒的な実力を見せつけて立ち回る白銀のアークス。
旅客船にいるすべてのクルーはその光景に驚愕し、目を離せずにいた。
「青い粒子を放つ白銀のアークスを操るパイロット……一体何者なのかしら?」
「わかりません。あれほどの実力者であれば他の星系の者であっても情報は入ってくる筈ですが、あのアークスもあのような操縦技術を持つパイロットも聞いた事がありません」
エレノアの言葉にクリスはそう答えながらも、モニターに映る白銀のアークスを真剣に観察し続けていた。
白銀のアークスは羽型のスラスターが集まった翼のようなバックパックを装備しており、両翼合わせて16機のスラスターと肩や腰、脚部にも複数のスラスターが搭載されている。合わせて30を超える異常な数のスラスターが脅威的な機動性を実現し、宙賊のアークスを翻弄しているのだ。
だが、クリスが最も驚愕したのはその圧倒的な機体性能ではなかった。
(あんな異常な機動性のアークスを手足のように操るなんて……あのパイロット、一体どんな反射神経をしているんだ?ミサイルを乗りこなす方が遥かに簡単だぞ)
明らかに人間の反応速度を超えている動きを連発する操縦技術。
エレノアの専属騎士として訓練を続けてきたクリスはアース星系でも屈指の実力を誇るパイロットであり、数多くの猛者と対峙してきたが、その経験の中でも白銀のアークスのパイロットはトップクラスの実力を誇ると感じていた。
(もしかすると、騎士団長に匹敵する実力を持つかもしれないわね……)
そう考えながら目の前で起こる戦闘を見つめていたクリスは、怪しい動きをする宙賊の遠距離機体に気付き、驚愕に目を見開いた。
「あれはっ!すぐに白銀のアークスへ回線を繋ぎなさい!」
「クリス、急にどうしたの?」
「あの遠距離機体が持つ兵器はとても危険です。早くあの白銀のアークスへ知らせなければなりません。艦長!早く回線を!」
「今繋ぎます!」
クリスの慌てた表情にただ事ではないと理解した艦長は、すぐさま白銀のアークスへ回線を繋ぐ。
しかし、十分な距離を確保した遠距離機体は、すでに発射体勢へと移行していた。
◇
『クソっ!離れやがれ!……ぐあっ!!』
「はい7機め〜」
いつのまにか残り3機か、機体性能に差があらとはいえ、ちょっと歯応えがなさすぎる。
一般参加者複数人VSトップランカー1人のエキシビジョンマッチの方がまだ歯応えがあった気がする。たぶんだけど、B級アークスに乗り慣れてないっぽいな。
『アレをやるぞ』
『アレって……ボス!危険すぎやすぜ!』
『どうせこのままじゃ全滅だ!さっさと準備しやがれ!』
『わ、わかりました』
ボスと呼ばれている宙賊の命令で遠距離機体が急速反転し、離れていった。他の2機はそれを追わせないように俺を足止めするつもりのようだ。
焦りすぎてオープン回線のまま命令を出しているが、アレってなんだろう?結局何をしようとしているのかは分からないな。
「まぁいいか、確実に1機ずつ潰していこう」
『ひいっ……』
「はい8機め〜」
残りはボス機体と怪しい動きをしている遠距離機体だけか。そう考えていると船から緊急通信が入った。なんだ?
『私はクリスと言います!白銀のアークスのパイロット、聞こえますか!?』
「聞こえてますよ。どうかしたんですか?」
『すぐにあの遠距離機体の射線から離れてください!巧妙に偽装されていたために気がつきませんでしたが、あのアークスが持つ兵器は"レーヴァテイン"という広範囲殲滅兵器なんです!』
「なっ!?」
レーヴァテイン!?ものすごく聞いた事がある。たしか、ストーリーモードと大規模レイド戦の時だけ使えるイベント兵器の名前だ。
使用機体の全エネルギーを高出力の拡散レーザーに変換して放出する兵器であり、使用後は機体が行動不能に陥るというデメリットを抱えている。だが、その威力は絶大で、上手く使えば視界に入るほぼ全てのアークスを撃墜できるほどの威力を持ったネタ武器だった。
「凄いな、本物のレーヴァテインを拝めるのか」
『何を呑気なことを言っているのですか!?早くそこから離脱してください!レーヴァテインはもう既に発射体勢へ移行しています!』
「確かに、呑気なことを言っている暇はないな」
狙いは俺だ。船と周囲に散らばっているコアブロックに被害が出ないよう射線をズラすように移動しつつ、少しだけレーヴァテインを構えるアークスから後退する。
ボスが乗っているらしいA級アークスは追ってこないようだ。そりゃそうか、追ってきたら巻き添え喰らうもんな。
『がはははは!今更逃げようったっておせぇんだよ!』
『撃ち殺してやらぁ!!』
宙賊には俺が逃げようとしているように見えたらしく勝ち誇ったセリフを次々と浴びせられる。
ふっふっふ、まぁ見てなさいな。
「レーザーガン射程最小、連射速度最大、拡散範囲最大へ設定変更。レーザーブレード頭身最小、拡散範囲最大へ設定変更……」
射線を調整しながらマキナに搭載されている装備設定を次々と変更していく。マキナの装備は特注品で状況に合わせて威力や射程などの細かい設定を変更できるようになっているのだ。
『ボス!発射準備が完了しました!』
『よし、さっさと撃ち殺せぇ!!』
宙賊のその言葉とともに、遠距離機体から高出力のレーザーが放射状に放たれた。
「ブースター最大出力……突撃」
同時に、放たれた放射状のレーザーへ向けて最大出力のマキナで突撃する。
『な、何をしているのですか!?』
「何って、突っ切るんですよ。文字通り」
驚きの声をあげるクリスさんにそう返答しながらもマキナの速度はグングン上がっていく。
「懐かしいな……『アンチレーヴァテイン検討会』」
レーヴァテインは自滅必須のネタ武器だが、その威力と攻撃範囲は馬鹿にできない。
出力が高いため盾やバリアでは防ぎきれず、混戦した状況で放たれると実力差関係なく範囲内の機体は破壊されてしまうのだ。
そのため、初心者にレーヴァテインを持たせて乱戦場へ突撃させるという戦法が一時期流行ったりもした。
もちろん、そんな状況を良しとしないプレイヤーは多かったので、彼らによってレーヴァテインは研究され、幾度もの検証の末に複数の攻略法が編み出されたのである。俺も操作技術を買われてその検証に何度も協力したのはいい思い出だ。
そうして編み出された対策法の1つがこの技、『突っ切り型アンチレーヴァテイン』だ。
「全弾掃射!!」
レーヴァテインの高出力レーザーは普通に受けると耐えられない。それならば、こちらも高出力レーザーで対抗すれば良いのだ。
『レーザーの雨の中を、つ、突き進んでやがる……!!』
『なんだあの化け物は!?』
レーヴァテインの仕組みはシンプルで、無数のレーザーを拡散させながら高速連射しているだけだ。それゆえに、一発一発は通常のレーザーガンの最大出力よりも威力は劣る。
ならばと考えられたのがこの『突っ切り型アンチレーヴァテイン』。自機を守るように拡散レーザーを高出力で連射してレーヴァテインの高出力レーザーを相殺し、防ぎきれない分はレーザーブレードで防ぎながら突っ切る。いくつかある対策法の中で最も難しく、最も芸術点の高い方法だ。
「っしゃあ!ノーダメ突破成功!!」
『ひいっ!』
「そしてそのまま9機めぇ〜!」
レーザーの雨を突っ切った勢いそのままに、9機目の遠距離機体をゼロ距離レーザーブレードで撃墜した。
「全武装設定通常モードへ変更。そいっ!」
『舐めんじゃねぇええ!!』
武装の設定を戻し、遠距離機体を倒した勢いそのままに最後のボス機体へと斬りかかったが、大剣型のレーザーブレードに受け止められた。
「おお、マキナの斬撃を受け止めるとは、そのA級アークスって攻撃特化か?」
『超攻撃特化だ!奥の手もあんだよ!』
ボス宙賊がそう叫ぶと、機体の背中からレーザーガンを装備した2本の補助アームが展開され、こちらに銃口を向けてきた。
なるほど、文字通り奥の手だな。
「じゃあこっちは奥の羽、かな?」
『あ?』
羽型のスラスターをボス機体へ向ける。
「発射」
『なっ……!?』
マキナの羽型推進器『ウイングスラスター』に搭載されている16機の可変スラスターにはレーザーの発射機能もあるため、攻撃にも使えるのだ。
『ず、ずりぃ……がぁあああ!!』
「残念。騙される方が悪い」
高レベル帯の戦闘では武器を仕込んだり偽装するなんてのは当たり前だ。装備の形から仕込まれているギミックを推測する技能はトップランカーの必須条件なのだよ。
っていうかそっちもレーヴァテイン偽装してたでしょ。
「さてと……」
ウォーミングアップ程度の一戦だったが、お陰でとても重要な事がわかった。
戦闘の最中に伝わってきた敵の威圧感、勝ちたいという強い意志。ここは死後の世界じゃない。紛れもない現実だ。そう確信できる。
「ここがアークスオペレーションの世界なのかそれに限りなく似た異世界なのかは分からないけど、現実である事には間違いないな……とりあえず、最高すぎなんだが」
この現実でどう生きればいいのかという僅かな不安は、現実世界でアークスに乗れるという喜びによってすぐにかき消された。
「さてと、これからどうしようかな?」
そう呟きながら、宙を漂うコアブロックを回収していった。
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