君も本編の一行目だけ見て「ついてけね〜」と思ってレビュー欄に逃げてきた口だろう?分かるよ。
はっきり言ってこの作品の文章は高い。余りにも高い。そんじょそこらのボケーとしながら読める小説もどきとは比較にならないほど高く険しい。険しすぎて近寄り難い。
でも待ってほしい。
この作品の文章は、つまり富士山なんだ。
富士山に登るのは大変だ。万全に準備して、時間を掛けて、少しずつ進まなくちゃいけない。引き篭もりの俺は一度も登ったことないが、多分この上なく骨が折れる作業だろう。
そんなに大変でも、富士山に挑む登山客は後を絶たない。なぜか?
登り切った先に確かな感動が待ってるからだ。
このレビューを読んでるそこの君、富士山に登れ。
高く険しい文章の山を超えてみれば、ロリババアだったり、見た目イカついけど中身はショタ感ある化け狼だったり、意外とキャッチーな魑魅魍魎が山頂で待ってるんだ。
歴史・伝記にジャンル分けされながらも、実質オリジナルの和風ファンタジーといって過言じゃないくらい徹底的に練り込まれた風景が広がってるんだ。
ザ・和風ファンタジーの山脈がここにあるぞ。登れ。そこに山があるのだから。
読者諸兄姉の諸君、私が今までに呑んだウヰスキーの中で最も美味だと感じた銘柄は、サントリーの『響』である。
件の『響』は、同じくサントリーの『白州』と『山崎』をブレンドしたものだ。
ウヰスキーの語源は、ゲール語で『命の水』との意味だそうだが、きついアルコール臭もなくするりと体に馴染む味わいはまさに完璧。
今回御紹介する『逢魔が刻の一ツ星』は、『響』の如く非の打ち所の全く無い、まごう事無き完璧な作品である。
妖怪変化が跋扈する平安時代に似た異世界が本作の舞台。
一人の老琵琶法師が演目を披露する所から始まる。
その後、盲目の琵琶法師が体験する悍ましき百鬼夜行……。
最初の頁を読んで頂ければ理解出来る筈だ。
そう、封切りから全てが完成されているのである。
文章作法が完璧なのは勿論、歴史と神話に深く踏み入った設定、時代考証は、昨今のなんちゃって和風ファンタジーとは明らかに一線を画す出来だ。
それに加え、作者の豊かな筆致と時代がかった口上が、驚くほど滑らかに物語を彩って行く。
今作品の応援コメント欄には「古めかしい言葉・重厚な表現」などと云った意見が寄せられているが、幸いにしてカクヨムはウェブサイト。
古めかしい言い回しや古語が解らなかったら、その都度調べる事が出来る。
そして作中の語句を理解する度、作者の確かな手腕と奥深い世界観に唸らされる筈だ。
物語の進行上、開始直後はやや硬い表現の割合が多いが、物語が進むにつれて諧謔味たっぷりの砕けた表現も多くなって来る。
ここは一つ、私に騙されたと思って一献付き合って欲しい。
何より、美味い酒は友とじっくり楽しむに限るからだ。
あ、そうそう。
私が『響』を呑み始めたら、ものの数日で空になってしまった事を付け加えておく。
その理由は、芳醇な味や香りの他にアルコール臭を殆ど感じないからである。
それと同じく、『逢魔が刻の一ツ星』も全く淀みなく呑み(読み)干してしまえた。
美味い酒は友とじっくり楽しむとの前言は撤回。
本当に旨い酒は、夢幻の如く一瞬でなくなるものだ……。
さーて、レビューも執筆し終わったし久しぶりに『響』を呑みたい所だが、昨今の原酒不足で値段が鯉の滝登りである。
サンキュッパだった頃が懐かしい……。
そういや、サントリーの『白角・期間限定復刻版』を購入していたな。
もう売ってないから、もしかしたらプレミアム値ついてるかも……。
そうとなったら善は急げ。
急いで価格相場を調査だ!
次回のレビューに続く……かも。
故郷を滅ぼされた少女・星子と、その身に妖刀・白星を憑依させ復讐する物語。
他のレビューにも記載がありますが、まずはその文章。初っ端から『和』の世界に惹きつけられ、没入感は圧倒的。正直和風というより『純和』と呼びたいですね。
ストーリーの方は冒頭から襲撃、窮地、そして妖刀との邂逅。序盤から緊張感のある怒涛の展開で息つく暇もなし。独特な世界観と共にどんどん引き込まれること間違いなし。
道中で仲間と出会い、そして復讐を進めていく。
『四 侵すもの』から迫力のあるシーンが多く、戦いの激しさも後半へ追うごとにどんどんスケールが大きくなり想像が掻き立てられました。反面ところどころ白星のキャラが立っていました。しかもこの妖刀、ちょっとお茶目で素敵。
若干ネタバレにはなりますが、弱体化した状態から各地で力を集め強くなっていく主人公の姿はまさしく王道。それに伴い仲間も増やし星子の仇敵を討つ用意は着々と進んで行く。帝都侵攻では、いよいよ白星殿もフルパワー! 容赦ないシーンは待ってましたと言わんばかりの無双!!
単語や言い回しなどが難しい部分もありますが、その意味を調べるのもこの作品の醍醐味。風景、心情、戦闘描写……どれも綺麗な文で構成されてあり、読みにくいということはありません。
和の幻想復讐譚、非常におすすめです。
この作品の特筆すべきところはまず、文章だろう。これぞ「和」であるという文体は、作者の選び抜いた言葉とこだわりによるものだろう。
決してカタカナは使わず、言い回しも古風とし、けれど難解にはなりすぎず読みづらいということはない。むしろ重厚感のある文章によって和の世界は深みを増し、読み手をぐいぐいと作品の世界に引きずり込んで没頭させる。
殊に日本神話や伝承に詳しければ、登場する人物の名前にも、ああこれか、と思い、興味深く読めることだろう。もちろんそうでなくとも当然楽しめる作りというのは言うに及ばない。
そして殊更に魅力と謎ある主人公が、読み手を掴んで離さない。何を成すか、何者か。これだろうかと思うところはあれども、確信は掴ませない。そこがまた読み手の興味を惹くのである。
和が好きな方は必見です。ぜひご一読ください。
山奥にひっそりと暮らす人々の集落。
結界で守られた集落の平穏は、不意に破られた。
刺客の手により、民は殺され、里は焼かれ、何もかもが奪われた。
生き残った一人の少女の身体も無残に斬り裂かれてしまった。
だが、彼女の想いに呼応し、その里に封じられた神器は目を覚ます。神器は少女の身体を器にすると、彼女の無念を晴らすべく歪に笑う。
かくして、彼女の復讐譚は幕を開ける。
雅な描かれるは風光明媚な和の光景。
豊かな自然の情景の中で少女は躍動する。
彼女の行く道に待ち受けているのは、鬼か邪か。
彼女たちと共にその世界の運命を確かめよ。
この世の全ての命が息吹き、色づき巡る古風ファンタジー。
隠れ里の長の娘、星子は家族と離れ、魔性のものとして封じられた白鞘の刀に舞を捧げる日々を送っていた。しかし静穏な日々と家族は、突如としてやってきた敵によって奪われる。星子は復讐を誓い――そんな彼女に、封じられていた魔性が取り引きを持ちかけて、展開が動き出します。
星子の体に宿り、白星と名乗る魔性は、星子が望んだ復讐の準備を整えながら旅をする。魔性と言うだけあって、敵対したものには容赦をしない白星ですが、道中で出会った獣たちと仲良くなったり、星子が得意とする舞を舞ったり、金銭感覚が乏しいせいで問題を起こしかけたりなど、可愛らしさを感じる面も持ち合わせています。
和の雰囲気に満ちた硬派な文章で紡がれる、白星と星子の旅と、復讐の行く末。恐ろしさも美しさも紙一重で持ち合わせた、一等星のような輝きを放つ魔性の活躍を、ぜひ目に焼き付けてください。