これまでに呑んだなかで最もおいしかったウヰスキーは……。

 読者諸兄姉の諸君、私が今までに呑んだウヰスキーの中で最も美味だと感じた銘柄は、サントリーの『響』である。
 件の『響』は、同じくサントリーの『白州』と『山崎』をブレンドしたものだ。
 ウヰスキーの語源は、ゲール語で『命の水』との意味だそうだが、きついアルコール臭もなくするりと体に馴染む味わいはまさに完璧。
 今回御紹介する『逢魔が刻の一ツ星』は、『響』の如く非の打ち所の全く無い、まごう事無き完璧な作品である。


 妖怪変化が跋扈する平安時代に似た異世界が本作の舞台。
 一人の老琵琶法師が演目を披露する所から始まる。
 その後、盲目の琵琶法師が体験する悍ましき百鬼夜行……。

 最初の頁を読んで頂ければ理解出来る筈だ。
 そう、封切りから全てが完成されているのである。
 文章作法が完璧なのは勿論、歴史と神話に深く踏み入った設定、時代考証は、昨今のなんちゃって和風ファンタジーとは明らかに一線を画す出来だ。
 それに加え、作者の豊かな筆致と時代がかった口上が、驚くほど滑らかに物語を彩って行く。

 今作品の応援コメント欄には「古めかしい言葉・重厚な表現」などと云った意見が寄せられているが、幸いにしてカクヨムはウェブサイト。
 古めかしい言い回しや古語が解らなかったら、その都度調べる事が出来る。
 そして作中の語句を理解する度、作者の確かな手腕と奥深い世界観に唸らされる筈だ。

 物語の進行上、開始直後はやや硬い表現の割合が多いが、物語が進むにつれて諧謔味たっぷりの砕けた表現も多くなって来る。
 ここは一つ、私に騙されたと思って一献付き合って欲しい。
 何より、美味い酒は友とじっくり楽しむに限るからだ。


 あ、そうそう。
 私が『響』を呑み始めたら、ものの数日で空になってしまった事を付け加えておく。
 その理由は、芳醇な味や香りの他にアルコール臭を殆ど感じないからである。
 それと同じく、『逢魔が刻の一ツ星』も全く淀みなく呑み(読み)干してしまえた。

 美味い酒は友とじっくり楽しむとの前言は撤回。
 本当に旨い酒は、夢幻の如く一瞬でなくなるものだ……。




 さーて、レビューも執筆し終わったし久しぶりに『響』を呑みたい所だが、昨今の原酒不足で値段が鯉の滝登りである。
 サンキュッパだった頃が懐かしい……。
 そういや、サントリーの『白角・期間限定復刻版』を購入していたな。
 もう売ってないから、もしかしたらプレミアム値ついてるかも……。
 そうとなったら善は急げ。
 急いで価格相場を調査だ!


 次回のレビューに続く……かも。

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