第13話 土砂降りの雨。

 ああもうじきおうちに到着する、って頃合いになってもまだ背後から誰かの気配。

 さっき思い切って振り向いてみたけどその時は誰もいなかった。どういうことだろうともういなくなったのかなとまた歩き出したらやっぱり誰かがついてくる気配、足音。


 街の中のレンガ道ではカツカツ響いていたけどこの辺り土の道ではそこまで足音聞こえないんだけど、それでもなんとなく感じる。


 幽霊? には足はないよね……。



 おうちに辿り着いたところでもう一度後ろを振り返って確かめるけど、その辺を普通に歩いているおじさんおばさんとかしか見当たらない。

 気のせいだったのかな。自意識過剰だったのかな。そんなふうにも思うけどでもでも。

 とにかくさっとドアを開けておうちに入る。とりあえず鍵を厳重に閉めて台所通りすぎ自分の部屋に篭る。

 昨日のシチューの鍋は竈門に置きっぱなしだし、お母様が帰ってきている様子もなかった。


 あーんもう、やだぁ。


 とりあえずお布団をかぶる。

 にゃあおん? っとミケコが擦り寄ってくれたからごめんねありがとねと彼女の頭を撫でて。ちょっと落ち着いた、かな?


 ポタポタポター

 って窓の外に雨が当たる音が聞こえてきたと思ったら、あっという間にドッシャーという音に変わった。

 はう。お母様大丈夫かな。雨に濡れちゃっていないかな。そんな心配が湧いてきてあたしは玄関先を見に行くことにした。

 もしかしたらそろそろ帰ってくるころかもしれない。家の中じゅうのタオルをかき集め、玄関先に急ぐ。

 ミケコもにゃおんと足元に縋り付くようについてきた。


 チリン。

 呼び鈴が鳴った。


 ああお母様。


 あたしは玄関の鍵を急いで開けて、そのまま勢いよく扉を開ける。


「お母様! だいじょう」ぶ? と言いかけて目が点になる。



 そこにいたのは急な雨で頭からずぶ濡れになった、カウラス・カエサルだった。



 へ?


 そう声が漏れて。


 固まっているあたしに向けて彼が一言。


「悪いけど中に入れてもらってもいい?」と。


 金色の髪から雫が落ちる。


 その姿があまりにもかわいそうに見えて。



 あたしは持っていたタオルを彼にばさっと被せ、そのまま手を取って部屋の中に引っ張った。



 ■■■■■■■■■■



 暖炉に火をつけソファーに彼を座らせる。

 濡れた服の代わりにお母様の寝巻きのワンピを渡し、お台所に避難するあたし。

 無言で渡したけど多分理解してくれたんじゃないだろうか。そんなふうに思いながらお湯を沸かす。あったかいココアでも淹れてあげようかな、流石に濡れたまま風邪をひいたらかわいそう。そんな気分の方がまさってた。うん。後をつけられた事に対する恐怖や、それが彼だと理解した瞬間の怒りよりも。


 ミケコはあんまり警戒する風でもなしに彼がいるソファーに飛び乗って丸くなった。

 うきゃぁ。なんで?

 どうせ彼が着替え出したらびっくりして退くのだろうなって思ったけどまあいいや。


 お湯が沸くのを待って、あたしはココアを淹れリビングに戻った。


 お母様のワンピースを羽織りまるで女の子のようにも見えるそのカウラス。

「ココア淹れたの。飲む?」

 そうぶっきらぼうにカップを差し出したあたし。


「ありがとう」

 そうお礼を言った彼は、学校での印象と全く違い、優しい目をしていた。

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