第20話 友達。

 朝の早いうちの時間をそんな魔法の練習に当てて。

 あたしは学園へと急いで居た。


 もうすっかりと緑の葉っぱばかりになった桜の並木を横目に気持ちのいい木漏れ日を眺めながら歩く。


 え? 急いでるんじゃないのって?


 だって、いくら急いでいるからって走るわけにはいかないもの。


 由緒あるこのセントレミーの制服姿で猛ダッシュなんかしてたら、それこそまたあの意地悪なお嬢様方に囲まれて吊し上げられちゃう。

 それでなくても貧乏なあたしはこの学園に相応しくないって常日頃言われてるんだもの、なるべく火に油を注ぐような真似はしたくないし。


 それに。


 急足で歩いてはいてもこの綺麗な風景はやっぱり素敵。

 少しくらいこうしてうっとりと眺める時間があってもバチは当たらないと思うの。


「おはよう。ルリア」


「おはよう。ニーア」


 教室の前でニーアと挨拶をしてそそくさと席につく。


 あのあと。

 よそよそしかった彼女にあたしは何事もなかったかのように普通に話しかけた。

 うん。だって。

 彼女は悪くないもの。

 この学園の中でああいうヒエラルキーの高いお嬢様方に逆らえなんて言えるわけないもの。

 友達、にだって限度がある。

 彼女はあたしにとっては比較的仲の良いお友達。それ以上でもそれ以下でもないし、あんなことでその関係が壊れるのも嫌だ。

 だから。

 あたしは何もなかったことにした。

 何も気がついていないふりで、普通にニーアに語りかけ。

 彼女は一瞬驚いた顔であたしをマジマジと見つめ。

 そして、微笑んでくれた。

 小声で「ごめんね」と言ってくれたから、それだけで全て許せちゃう。

 うん。

 しょうがないもの。

 あたしはにっこりと微笑み返し、そして「いいのよ」と小声で返す。

 彼女の瞳にうっすらと涙が浮かんで居たことで、あたしの気持ちは晴れていた。

 彼女があたしに申し訳ないって少しでも思ってくれたのなら、それだけで満足だ。


 そうしてあたしは大事なお友達を無くさずに済んだ。




 席につくと、ジルベール王子がこちらを見ているのがわかった。

 はう。でも?

 ああ、あのジルベール様はこの間のカウラス様かも。

 あの瞳。あれはあの時の彼の、だ。

 よくよく観察してみると彼らがよく入れ替わっているのに気がついた。

 っていうかきっとそんなことに気がついているのはあたしだけかもしれないけど?


 なんでかな。

 基本、王子は周囲を寄せ付けないようにしている、けど。

 まあ普段はお付きの人みんなで協力にブロックしている感じ?

 そんな中でもたまにカウラスが一人自由に動き回る時があって。

 大概そんなカウラスは実は王子の方だったりする。


 あたしにしてもなんでそんな見分けがつくようになっちゃったのかよくわからないけどやっぱりあの雨の夜長い間一緒にいて少しは気持ちが通じたから?

 ううん、違うな。

 やっぱりあの瞳のせいかな。

 あたしを見る瞳がどことなく優しいの。

 だから、かな。

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