第21話 図書館。
前に呼び出されてからというものお嬢様方も遠目に嫌味を言うだけで大人しいものだ。
まあこれくらいなら耐えられる。
学校が楽しいかどうか、ではないしね。
ちゃんとここで勉強して卒業したい。
せっかくお父様がそのためのお金を残してくださったんだもの。無駄にはしたくないし。
今日はお昼休みに図書館に行こうと思って。
色々疑問に思うことも多いし一度ちゃんと歴史を確認しておきたい、そう思ったのだ。
混沌のこと。
無かったことになっているそれが歴史にどう記述されているのかそれを確認したくって。
渡り廊下を通り学術の塔へと向かう。ここには魔力紋ゲートが設置してあり学園に所属している者でないと通ることができないようになっている。
塔には本がいっぱいある図書館に絵画や美術品が貯蔵されているブース、貴重な魔術具がその歴史とともに展示してある魔術館など色々揃っているけれど、通常あたしたち学生は図書館くらいしか自由には出入りできない。
このセントレミーは王宮に引けを取らないこうした施設を普段貴族の子弟の教育のためにという名目で揃えているわけだけど、そのコレクションは王国随一。たまには外国の使節も訪れたりするくらい。
そりゃあ厳重に管理されるのもわかるよね。
魔力紋ゲートっていうのは大昔の魔道具の一つで今じゃその仕組みもわからないブラックボックスと化しているらしいけど、個々人のもつ魔力紋を確実に判定し登録の無いものや逆に出入り禁止と登録されているものはその魔力の壁に阻まれ絶対に通ることができないという優れもの。
人にはそれぞれ固有の魔力紋っていうもが存在し、とは授業で習ったけれど、今じゃそれを正確に判定する手段も失われている。
中には自身の魔力で他人の魔力紋を判別できる人もいるけど、それだって正確かどうかは定かじゃない。
だいたいそんなことが誰にでも可能なら個人のプライバシーもあったものじゃないしあたしはちょっと嫌だな。
王子様が入れ代わりをするのだって、あれが息抜きのためだとしてもね? 魔力紋まで誤魔化せるわけじゃ無いだろうし。
簡単な装置で個人がバレバレになる世界って、あんまり生きやすい世の中じゃないよね? そう思わない?
まあこうした重要施設にこうした魔道具があることに関しては警備の意味でも必要だと思うし否定はしないけど。
午後からの授業は移動教室で塔にも近い場所だし休み時間ギリギリまで使っても大丈夫。
そう思いつつあたしは早足で渡り廊下をわたっていく。
眼下に見える景色を眺めながら廊下を渡るとそこにあるゲートの手前のコンソールに右手を置いて。
<確認しました。ルリア・フローレンシア。どうぞお通りください>
そう機械的な音声が聞こえ、目の前の扉が開いた。
図書館は右手に曲がって、と。
入り口には大きな猫のぬいぐるみのような司書が二人。あたしを待ち構えるように立っていた。
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