第22話 オート・マタの司書。

「いらっしゃいませ姫さま」

「いらっしゃいませルリア様」


 サバ猫のおっきな着ぐるみみたいな二人。ここのオート・マタでもあり司書のフロスティとタビィがそうあたしを出迎えてくれた。

 ちょっと紳士の礼を取るのがフロスティ。あたしを何故か姫さまと呼ぶ彼。

 司書服の裾をちょんとつまみカーテシーをするのがタビィ。フロスティは胸のところとか白いけどこの子は全身が鯖模様だ。


「もう、なんのエラーか知らないけど姫さまって呼ぶのはやめてよねフロスティ。ちょっと恥ずかしいし」


「申し訳ありません姫さま」

「申し訳ありませんルリア様。フロスティはルリア様をどうしてか以前いらっしゃった姫さまと認識していますから」


 って、どうして?


「どうして? っていうかタビィはちゃんとルリアって呼んでくれるのにね?」


「タビィは忘れてしまったのです」

「ええ、ワタクシはフロスティと違って再生されていますから。過去のデータが引き継がれていないのです」


 うきゅう。っていうことはあたしが昔のお姫様と似てるとかそういうこと?


「姫さまは姫さまです。なんらかわっておりませんよ」

「戯れはその辺にして。ルリア様、本日はどのような御本をお選びしましょうか?」


「もう。まあいいわ。じゃぁタビィ、今日は歴史の本が読みたいの。そうね、特にここ最近、15年から20年前の記録がわかるものがあると嬉しいわ」


「では王国史の概要を揃えましょう」

「ワタクシは近年の記録書をお持ち致しますわ」


「ありがとう。フロスティ、タビィ」


「ではこちらにどうぞ姫さま」

「ええこちらでおくつろぎくださいませ。ルリア様」


 そういうと二人はあたしを廊下の端の閲覧室に案内してくれた。


 本棚の並ぶ書庫は完全に空調も整えられ通常人は近づけないようになっている。本の劣化を防ぐためにもこうして必要な本だけを司書が用意してくれるのだ。実はここだけの話、この用意された本というのは完全に複製されたコピーなのだけれど、普通の人にはわからないかも。

 見た目も触り心地も本物の本に見えるけれど、実際はバーチャルな空間にその本体を複製したデータを再現している、と言ったらいいか。

 出てくる本をたとえ破ったり傷つけたりしてもそれは本当ではなくって、ただのデータだなんて。

 閲覧室という特殊な空間が見せる夢。

 不思議だけれどそんな感じ。


 あたしに空間を認識できる能力がなかったら、多分気が付かないままだったかも。



 閲覧室に入るとき、一瞬空間が変化した気がした。

 ああ。ここははざまに近い。


 空間っていう薄皮を一枚剥いだ、その裏側。

 ううん、裏側までいかないほんとその間。


 ここはそんな空間だった。

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