第23話 フローレンシア。

 ふう。


 閲覧室のテーブルは小ぶりで4〜五人で腰掛けるといっぱいになってしまうサイズで。


 っていうかこのお部屋自体は大きいのにテーブルセットは一脚しか用意されていない。


 猫足の可愛い真っ白なチェアに腰掛けているのはあたしだけ。他に利用している人はいない、かな。


 まあお昼休みだしね?


 そんなに時間があるわけでもない。


 流石のお貴族様用にしつらえられた調度品はみな豪奢で。


 床のベルベットのカーペットはフカフカだし椅子もすごく座り心地が良いの。


 でもってタビィが用意してくれたこのお紅茶は、綺麗な花があしらった磁器のカップセットにお上品にそそがれている。


 あたしはちょこっと口をつけ。それがあたし好みのぬるめの温度になっているのを確認してごくんと一口飲んで。


 そしてそのあまりの美味しさに、ついついふうとため息を漏らしてしまったのだった。



「では。こちらをどうぞ姫さま」

「こちらもご用意できましたよルリア様」


「ありがとう。フロスティ、タビィ」


 あたしは彼らにそうお礼を言って本を受け取ると、順番に開いていった。


 実は今のこのご時世、本っていうのは自分の目で文字を拾って読んでいくタイプと、まるでその世界に入り込んでしまうかのように頭の中に映像が浮かんでくるタイプと、そんな風に色々あったりする。


 ああ、もちろん音だけ聞こえてくるものもあれば立体映像を眺めるタイプもあったり。


 そんな中でもあたしはこうして紙に書かれた文字を追っていく御本が好き。


 だって、やっぱり与えられる映像よりも自分で思い浮かべる方が楽しいもの。

 それに。

 なんと言ってもこの紙の手触りが好き。

 匂いも。

 お高くて本物はとてもじゃないけど手に入らないけど、こうして図書館で触れることができて本当に幸せだ。




 ああ、もちろん綺麗な映像が嫌いなわけじゃないよ?


 それはそれ。


 楽しみ方が色々あるのは嬉しいよね。




 あまり時間がないので順番にさっと読んでいく。


 うん。でも。


 やっぱりあんまり収穫はない、かな。


 ただ、王国史に気になる点がないわけでもない。


 っていうのも王国の主な貴族、過去にあった家系、家名が一覧で載っているページがあったんだけど、そこにはフローレンシアなんて家名は載ってなかった。


 ああ、もちろんさ、もしかしたらお父様は貴族の末席にいたんじゃないかってそんなことを期待していなかったわけじゃない、けど。

 それでも。

 普通家名は貴族かそれに連なる一族が名乗るもの。

 平民で家名を名乗るのはそれでもその一族の端くれだということを主張したいがため。

 だからね。


 お父様のこのフローレンシアって家名だって、辿ればどこかのお貴族様に連なるんだろうって漠然と考えてたの。

 でも。

 違ったみたい。


 だとしたら?

 どういうこと?


 もしかして、お父様も他の国から来た人なんだろうか?


 でも。


 思い出そうとしてもどこか靄がかかったみたいで。あたしはお父様のお顔を思い浮かべることができなかった。

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