第12話 妄想のお時間。
どう考えてもあたしを見てるよねこの人。
そもそも階段を使うのはあたしみたいな平民だけ、お貴族様は自動昇降機で優雅に降りるのが当たり前だし。
じっと見つめられその場に立ち尽くしたあたし。どうしようこちらから声をかけるべきかそれとも素知らぬ顔で「失礼いたします」と横をすり抜けて行くべきか。
っていうか、なんでこの人何も言ってくれないの?
カウラスはこちらを見つめうっすらと冷たい微笑のまま黙って立っている。なんだかほんとに気温まで下がったかもしれないって思えるくらいに寒いかも。
意を決して、あたしはその彼の横を通り抜けることにした。「お先に失礼します」とボソッと挨拶して通り過ぎようとした時。
「君は、マリカの娘なのか?」
そう声が聞こえた。
え?
びっくりして振り返る。
でも。
ふふっと笑った彼はそのまま教室の方へ歩いて行ってしまった。
もう、なんなんだろう。
それだけ言いたくて待ってたの?
っていうかなんで? お母様のこと、ご存知なの?
今までこんなふうにお母様のことを聞かれることはなかったし、というかお母様が聖女だったってことはもうほとんどの人の記憶に残っていないはずだったし。
あ、でも。
もしかしたら王家の人とかその関係者とかはお母様のことご存知なの?
もしかして、今も何か関わりがあるの?
もうふにゃぁ。
これはもうお母様に色々聞いてみなくっちゃ。
ちゃんと問い詰めないといつも肝心なところははぐらかされる。
今だって、大事なお仕事だと思ってるからこうしてお出掛けしようと留守をしようと何も言わず黙って大人しくお留守番をしてるけど、ほんとはすごく寂しかったし何も教えてくれないお母様に文句の一つも言いたいの。ずーっと我慢してたから。
あたしは今夜こそは。お母様が帰ってきたら絶対色々問いただすんだ。そう決意を固め家路についた。
明日は休息日。学校はお休みだし流石のお母様も帰ってくるに違いない。
うん。
☆☆☆☆☆
カツカツカツ
靴の音が妙に響く。
あたしのおうちは街外れ結構端っこの方にある。学園からは結構遠い。
そんな中ずっと歩いて通ってるわけだけど、こんな通学の最中はいつも頭の中で色々妄想が捗って。
小さい頃からいろんな夢みたいなおはなしを考えてきてた。
不思議な世界、不思議な時間。
そして、不思議な人々とその人生。
小さい頃はお父様がいろんなおはなしを語って聞かせてくれた。
女神様のおはなし。魔王の出てくるおはなし。勇者っていうのが出てくるおはなしも、あったっけかな。
いつかそうしたおはなしを書き留めて、あたしが考えたおはなしも付け加えて、一冊の本にできたらな。それが今の儚い希望。
紙は高いし本も高い。そもそも本なんてお金持ちしか買えない道楽だし空想の物語なんて本にする価値はないっていうのが常識な現代、あたしが低学年の時にそんな夢をしゃべった時は、歴史や技術書魔導書に聖書、本っていうのはそうした科学のためのもの、そんなふうに先生に怒られたっけ。
なんだかふにゃぁな思い出だ。
そんな感じで普段の帰り道だったらあたしの内なる世界で妄想に浸っている間におうちに帰り着くんだけど、ね?
今日はだめだ。
後ろから微妙な塩梅でついてくる誰かの足音がカツカツと響いて。
あたしは振り向くことも怖くてできなかった。
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