第6話 教会。
「おい、ちょっと」
バルザックさんが動揺しているのはわかる。呼び止めた少女が自分の方を向いたと思えば大粒の涙を流しているのだ。
だけど。
あたしの涙はとどまることを知らず。我慢ができなくなったあたしはそのままさっと振り向き走り出していた。
廊下を走り抜け階段を駆け降りる。とちゅう、足がもつれかけたけど踏みとどまり、なんとか三段くらい飛び降りて。
昇降口までおりたところで人がいっぱい居るのをみかけ、王子たちが自動昇降機で先回りしている可能性も頭に浮かぶ。
あたしの足はそのまま校庭に向かい、グランドを通り抜け学園の裏山へと辿り着いた。
「ここまでくれば……」
誰も聞いている者も居ないのに、そんな言葉が口から溢れる。
はぁはぁと息を整えて周りをみわたすとそこには朽ちた建物が見えて。
教会?
そんな形にも見える三角屋根のそれ。こんなところにこんな建物あったかなぁと考えてみるけど思い出せない。
裏山に来たことがなかったわけじゃない、けど。
あたしが今居る
いつのまにか涙は止まっていた。目の前の光景に心を奪われてさっき辛かった気持ちもどこかへいってしまって。
意識がそちらに向いてしまっている?
もう今は誰も居ない使ってないそんな感じに荒れ果てた庭、入り口の門はもはや門の形を保っていなかったのでその先の庭が先に目にとまったのだけれど……。
もったいないな。と、そう感じた。
もう草に覆われてしまって原型をとどめていないけど、ここにはお花のアーチがあったんじゃないかな。入り口まで続くアーチの残骸。不気味な感じに成り下がったそれをくぐり玄関先にまでたどり着くと、あたしは思い切ってその扉を引いた。
鍵は、かかっていなかった。
きいいっとあいた扉の向こうにあったのは、ステンドグラスで飾られた聖堂。何故か室内はそれほど荒れ果ててはいなくて、窓のガラスもそのまま残っている。
夕暮れの日差しが差し込んで、舞う埃に当たるのかキラキラと綺麗に光っていた。
正面にある祭壇には神デウス。それに寄り添うディア。そして主神を護るように配置された十二神。そんな彼らの壁画が並び。
神秘的な情景を彩っている。
床に敷き詰められた深紅のベルベットはあたしの足音をも吸収して。
シン、とした静けさの中、あたしは祭壇に近づいて行ったのだった。
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