第2話 学園。
街を歩いて学校まで。白い煉瓦が敷き詰められた遊歩道の並木路には桜の花びらが舞っている。
この桜には、何百年も昔に異世界から渡ってきた人によってもたらされたとの逸話があるんだけれど、お母様の故郷にもやっぱり同じような樹があるらしいと聞くとその逸話もまんざら嘘でもないんだなと感じる。
学校の進級のシーズンに咲く花として親しまれているけど、特にこの通学路の桜並木は素晴らしくて。
花が散ってしまうまでの僅かな期間、ここをしんみりと歩くのはあたしの人生の楽しみになっていた。
何を老成した事をと友人には茶化されるけど、それでもね。
学校は、あまり楽しくない。
そもそも学校というのはお金持ちの道楽かすごく頭のいい才能のある子供のためのものだというのは常識だ。
貧乏だとそもそも修学は低学年のみということも多々あるし。
あたしは幸い父の残してくれたお金でこうして学校に通わせてもらえてる。それもセントレミーは割と名門。貴族の子弟か大金持ちの家の子がほとんどで。
「あたし、働くよ?」
二年前、進学か就職かと学園側に問われた時あたしはそう言った。でも。お母様は猛反対で。
「あなたが修学期を終えるまでの費用はお父様より預かっています。だから心配しなくていいのよ」と。
そんなお金があるのならもうちょっとお母様自身に使って欲しいと思ったけど、それは聞き入れては貰えなかった。
だから。せめて。
勉強だけはちゃんとして、卒業しよう。そう決めたのだ。
まあクラスの女子の間のヒエラルキーは最低ランクなあたしだ。数人のお友達も平民だけどお金だけはある家で、あたしみたいな根っから貧乏な家庭はないかも。
基本教室の隅っこでひたすら勉強しているそんな存在。それがあたしの学園生活だった。
校門をくぐり校舎まで続く道をゆっくり歩いていくと何台もの馬車に追い越されていった。そう。こんなところを歩いているのはあたしくらい。他の皆は専用の馬車でエントランスの馬車まわしに乗りつける。
優雅な足取りで馬車を降りる令嬢方を横目に見ながらあたしは教室のある5階まで急ぐ。貴族の方用の昇降機はあたしみたいな庶民は利用ができないし、それに階段を歩いて登るのは割と得意だ。嫌いじゃないよ。
お嬢様方の後では教室に入るときの視線が気になるからなるべく先に登校して隅っこに座って本でも読んでいる、これがあたしの処世術。なるべく他の人の視界に入らないよう、目立たないように。そう常に考えながら過ごして。
でも。
今日は初日。
掲示板にはりだしてあるクラス表示を確認して教室を探さなきゃいけない。
はう。ちょっと遅かった、かな。
階段を上がって掲示板の場所にたどり着いたとき、すでにそこには人だかりができていた。あたしもなんとか後ろから背伸びをしてみるけど掲示された情報は全く見えなくって。
うーんっと背伸びをしているところに、前にいた男の子が急に後ろに下がってきてあたしにぶつかった。
あっと思った時には吹っ飛ばされて尻餅をついていたあたし。
「ああ、ごめん。大丈夫?」
あたしにぶつかった男の子、すまなそうにしてこちらに手を伸ばした。
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