第8話 呼び出されて。
「またいつでもおいで。僕はここで待ってるから」
そう優しく微笑むアーサーにうんと頷いて、あたしはその教会をあとにした。もうすっかり日も暮れて生徒もあらかた帰った後だ。
紫色に染まった空にはまんまるなと月がふたつ昇っている。そうか今夜はフタツキか。そう思いながらあたしはそのぽっかりと明るく浮かぶ二つの月をながめていた。
昇降口はもう鍵がかかっていた。
校門は、かろうじて開いてるか。たぶんまだ残っている先生がいるのかもしれない。
荒んでた心がちょっと暖かくなってる。アーサー、かぁ。なんだかいい人だったな。
それに。
あの人、お母様のことをご存知だった。聖女様ってお母様のことを呼んだ。ということはお母様と同じように再生される前の世界のキオクも持ってるってことで。
それに。
気になるのはそれだけじゃない。彼が名乗った名前。アーサー・ユーノ・オルレアン。
オルレアン家。それってこの国の王家の家名じゃない。
ジルベール王子と一緒。確か今の王様がマクシミリアン陛下だからその血族? なのかな……。
帰ったらお母様に聞いてみよう。そう思ってお家に帰ると待っていたのはお隣のミーアおばさんだった。
「ああおかえり。ルリアちゃん。お母さんね、ちょっと用事があるから二、三日お留守なの」
そう言って出迎えてくれたミーアおばさんはこうして時々留守をするお母様に頼まれてあたしのお世話をかってでてくれている。
「今夜はあったかいスープがあるからお食べ」
アーサーのことをお母様に聞けなかったのは残念だけど。まあいつものことだ。きっとお母様には今でもいろいろとお役目があるのだろうし。
お母様の聖女としてのチカラは健在だ。たぶんこの国の中でも一二を争う能力の持ち主だったお母様は今はその力を隠して暮らしてるけど、こうしてたまにお出かけをすることがある。昔寂しくって泣いて引き留めた時は、「ごめんねルリア。女神様に頼まれちゃってるから行かなくっちゃなの。ほんとごめんね」と、詳しいことは教えてくれなかったけど大事なお役目があることだけはあたしにもわかった。
今回もそうしたお役目の一環なのだろう。
そう納得して「ありがとうミーアおばさま」とお礼を言ってスープを頂いた。
温かくて、美味しかった。
☆☆☆☆☆
翌日学校に行ってみるとなんだかみんなの様子がおかしかった。
ニーアまで、あたしが「おはよう」って挨拶しても答えてくれなくて。他のご令嬢たちはギロッとした目であたしのことを睨んでるし。
お昼になって。
今日はお弁当も無いし購買でパンでも買おうと立ち上がったところで、ご令嬢がたの中でもあたしがちょっと苦手にしているシルビィア・デオール男爵令嬢があたしの前に立ち塞がった。
「ちょっとお顔を貸してくださらない?」
そういうシルビィアの勢いに逆らえず、あたしは彼女の後に渋々ついて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます