第16話 魔法は内緒だ。
「あらぁ。マリアンヌの息子?」
夜中遅くに帰ってきたお母様を捕まえてカウラスの話をしたら、そんな感じの返事。
もう疲れてるっぽいお母様に色々聞くのはまた明日にして、あたしは今日のお話だけをかいつまんでしたのだけど。
「そっかぁ。マリアンヌ、元気かなぁ?」
そういうお母様のお顔はなんだか懐かしいものでも見るみたいで。
「お母様はマリアンヌ様とお友達だったの?」
あたしはそう聞いてみた。なんだか口調がすごく親しげなんだもん。
お母様のハーフコートを受け取って衣紋掛けにかけ、もってきたバスタオルを渡す。カウラスが帰った時はちょうど雨も小ぶりになった頃で、あたしが貸してあげた傘をさして帰っていったけど、またそれから段々と雨も強くなって。
お母様は結局濡れねずみみたいにびしょ濡れで帰ってらした。
「魔法で濡れないで済むこともできたでしょ?」
そう意地悪く言ってみる。
「あらあら。ルリアったら意地悪ね。母さんが人前で魔法を使わないようにしてるのは知ってるでしょ?」
「でも。もうこんな夜中なんだもの、少しくらい」
「その油断が命取りなのよ。誰かに見られたらもう私たちここにいられなくなるんだから」
そう言ってタオルを被ったお母様の身体から金色の粒子がふんわりっと舞った。
もう。そうは言ってもあたしの前ではこうやって魔法使うんじゃない。
湿った身体、お洋服までもが一瞬で乾いていく。綺麗な黒髪がふんわりと広がり、そしてサラサラと降りてくる。
綺麗だな。
うん。魔法って本当に綺麗だ。
まあ、あたしだってこれくらいできるけど、ね?
学校じゃそんなそぶりはなるべく見せないようにしてるけど。
学校で習う魔法は本当に初歩の初歩。
ほんのちょっと炎をつけるとか。
ほんのちょっと水を出すとか。
ほんのちょっと風を起こすとか。
ほんのちょっと地面に土ボコを出すとか。
そんな程度。
目の前にあるものを持ち上げたり動かしたりすることすらできる人は少ない。
それでも。
魔法っていうのは恐ろしいものだからって、そう、学ぶの。コントロールする方法からまずね。
怪我を治したり病気を治したりするのだって教会の聖女クラスでないと無理。
それも、大怪我を治すとか欠損再生なんて真似はもしできる人がいたら国賓なみな待遇を受けるかそれとも逆に闇に葬られるか。
かつての魔王の記憶は曖昧な御伽噺程度のものだけれど、それだけに人々に恐怖という感情を残している。
お母様にしてもあたしにしても、人前で魔法を使わないようにしているのはそういう理由。
魔法に長けたもの、そういう存在はこの世界ではきっと快くはおもわれないのだから。
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