幸せの行方

amalfi

第1話 突然の再会

「救急車入ります」

救急搬送の車が裏口に到着すると、にわかに北病院は騒がしくなった。

「大丈夫ですか。聞こえますか」

救急隊員が声をかける。搬送された女性はぐったりと苦しそうに胸を抑えたまま頷いた。

医者に手伝われてストレッチャーに移されると女性は救急入り口と書かれた部屋に運ばれた。

ちょうど帰る途中だった瑞穂は、その横をよけて下がり、ふと目をやると苦しそうに目を閉じてもがいているその女性の顔が見えた。その顔は苦しみで歪み、歯を食いしばっていた。見たのはほんの一秒程度だったが、瑞穂にははっきりわかった。


柊子だった。


その日、帰宅した浩司を迎えた瑞穂はそれとなく夫に尋ねた。

「さっき救急で運ばれてきた方は、何の病気だったの?」

「直接の原因は過労だろうね。だがあちこち悪い。精密検査してみないと。珍しいね、君が患者のことを聞くなんて。」


翌日、瑞穂は再び北病院に行った。

「奥様、先生は今日、大学のほうにいらしてますが。」

婦長の山瀬が声をかけた。もう20年もこの病院にいるベテランだ。

「実はね、昨日運ばれてきた人が私の知り合いに似ていたから気になってきたの。

なんと言う方なの?」

「人違いだと思いますよ。ええ、と、坂本柊子さん。片町のスナックバーから電話があって救急搬送されたんですが、入院費が払いないからもう帰るって。今睡眠薬で寝ていますが、相当な過労で寝ていないみたいで。精密検査しないといけないと思うんですがねえ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る