第8話 感謝

「瑞穂さん、本当にいい機会を与えて下さってありがとう。」

病院に行くと柊子が改まって近ずいて挨拶をして来た。

「良いのよ。それに瑞穂さんなんて。元のみいちゃんでいいのに」

「じゃあ、みいちゃん。本当に感謝してる。自暴自棄になっていた私に治療と仕事を勧めてくれて。こんなも再会もあるんだなあと嬉しく思っています」

「外にでる?」

瑞穂は誘った。

「今休憩時間だから大丈夫。私からもちゃんとお礼を言っておきたかったので」

裏庭に出てベンチに腰掛けると、柊子が話し出した。


「あの日のこと、思い出すのが辛くて。忙しいほうが忘れられると思って昼も夜も働いてたの。あのの事故のあった日、夫が疲れているようだったので私が運転を変わったの。甲府を過ぎたあたりで前方の車がセンターラインをはみ出して近づいてきて、私はハンドルを切ったんだけど後は覚えていない。目が覚めたら包帯を巻かれて病院の集中治療室に居たの。あとから2人が亡くなったと聞かされたの。私は動けなかったので、お葬式にも出られなかった。一瞬がすべてをさらっていった。」


「ようやく2か月後退院して、義母さんはとっても優しい方だったけど2人のいない家

で一緒に暮らすのは辛かったのでしょう。あなたはまだ若いからまだ明日があるから元の姓に戻りなさいと言われた。戻りたくなかったけれど、お義母さんの意見に従って家をでたわ。だけどそれからお義母さんは認知症になってしまって。ショックが大きかったんだと思う。施設に入れるしかなかったのよ。それから私はすべて忘れたくて、お酒を沢山飲んで、飲んで、肝臓を壊した(笑)でもね、私お義母さんに面会に行くのを楽しみにしていたの。だって山下君や麻衣が亡くなったのを覚えてなくていつも話しをするのよ。それだけが私の生きがいだったわ。でも、あの日みいちゃんが訪ねて来てくれなければ、病気になって死んじゃってかもしれない。本当にありがとう。このご恩一生忘れません。」

「そんな、頭を上げてよ。これもなんかのご縁だったんだから、そんなにお礼を言ってくれなくてもいいのよ。」

言葉を切ってから瑞穂は続けた。

「でもあなたが山下君と結婚したと聞いたときは驚いたわ。いつからお付き合いしてたの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る