第9話 相思相愛

「大学の3年の夏休みだったかなあ。私アルバイトで目白のアンシャンテって言う楽器屋さんでアルバイトしていたの。そうしたら山下君が偶然に来て。高校卒業以来だから凄くびっくりして。バイトが終わったらお茶でも飲もうって話になって、そのあと気楽茶屋で飲んでもう懐かしくて話が尽きなかったのよ。2人でゲラゲラ笑って本当に楽しくて時間を忘れるくらいだったの。また会おうと約束して次に映画を見に行ったわ。そのあと池袋公園を歩いているときに、実はアンシャンテで偶然会ったわけじゃない、高校時代から君のことが気になっていて一大決心をして行ったんだって(笑)もうあの山下君にこんなこと言われたら嬉しくて」


瑞穂の顔色が変わった。柊子は私たちが付き合っていたことを知らないのだ。

そして山下が柊子にこんなことを言っていたなんて。


「ごめんね。山下君のことを話せる相手なんてみいちゃんしかいないから。

今は思い出とだけ話してるもの」


その夜、瑞穂は興奮と怒りで眠ることができなかった。


野球部の練習の帰り道、瑞穂は思い切って山下を呼び止めてバレンタインデーのチョコレートを渡した。

当時瑞穂は学校で人気があったのでほかの野球部員の男子生徒からからかわれながら

「マドンナからチョコレートを貰えるなんて思ってもいませんでした」

と言った山下。

「あ、でももしかして義理チョコ?」

「違います」

とっさに否定してから走って帰った瑞穂。

ホワイトデーに

「お返しです」

と渡された映画のチケット。

「一緒に行きませんか」

と待ち合わせて行った映画館。


それから大学は違ったけれど、2人で重ねた愛の日々。まだ交際していた夏の日に柊子とそんなことがあったなんて。瑞穂は怒りに震えた。


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