第7話 人気の人
瑞穂は春の庭をこよなく愛していた。趣味のカーデニングは心に彩りを添えてくれたし、小学校一年に上がった息子の勇希は人生の喜びを与えてくれた。彼女は人生を振り返って考えていた。
初恋の相手だった山下と結婚した柊子は、人生のどん底にいる。
山下に別れを切り出された瑞穂は、自分は幸せの絶頂にいる。
なんと人生は皮肉なものなのだろう。
柊子が病院で働くようになってから2か月が過ぎた。規則的な生活で肝臓の数値もよくなりめまいや貧血も改善されてきたようだ。また仕事も初めは失敗を繰り返すことも多かったが、もともと聡明な彼女はきびきびと働き、患者や看護師、医者にも信頼を置かれるようになった。
「柊子さん、いいね。」
帰ってくるなり浩司が言った。
「丁寧な仕事ぶりで気が利くと患者さんからの評判が良いし、調理の手際も良くて食事も美味しいと看護婦さんたちの受けも良い。空いた時間に栄養学や医学のことも勉強しているらしい。さすが君の友人だけのことはあるね」
瑞穂の心理は微妙だ。
瑞穂の口利きで入ったのだが、柊子が褒められるのはさほど嬉しいわけではない。
「それに」
浩司は笑いながら続けた。
「スナック時代のお客さんが用もないのに入れ替わりやってきては、差し入れを持ってくるらしいよ。看護師さんや医師は頂き物はすべて断るけど、従業員の個人的な頂き物は仕方がないからね。結局おすそ分けを頂いて。それがどら焼きとかきんつばとか人形焼きとか。下町の名物ばかりなんだよ」
「人気者だね。柊子さんは」
最後の一言が瑞穂には突き刺さった。
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