第6話 再出発

結局、みんなの説得に抑え込まれる形で精密検査を受けることになった柊子の病室へ瑞穂が再び訪れた。


「差し出がましい申し出で気を悪くするかもしれないけど、肝臓が弱っているのでお酒は止めたほうが良いと思うの。陽炎もアンデルセンもコロナで暫く休業する様だし、検査が終わったらうちの病院で働いてみない?もちろん主人とも相談の上よ。看護資格が無くてもできる患者さんのお世話や調理の手伝いなどで朝は早いけど、夕方は定時で終わるし週休2日。賄い付きだし悪くない話だと思うのよ。勉強ができたあなたなのに雑用もやって戴くことになるけど、何より専門家が沢山いるので安心して働けると思うし・・・・ピアノもあるし。弾いてくれたら患者さんも喜ぶわ!」


暫く、黙って瑞穂を見ていた柊子だったが、やがて口を開いた。

「ありがとう。でも、弾けないのよ、私。」


左手で右手を包み込むようにして続けた。

「事故の時、右腕の腱を切って動かなくなってしまって。手術やリハビリでかなりは良くなったんだけど小指と薬指の感覚がほとんどないの。」


「ごめんなさい、私、気が付かなくて・・」

「いいえ、気にしないで。とても良いお話有難う。お役に立てるかどうかわからないけど、宜しければお世話になります」




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