第13話 最高の幸せ

柊子が病院を辞めてから6年の日が過ぎていた。


瑞穂はあの後夫には何も言わず、それとなく柊子の男性関係の噂をばらまいていた。柊子は病院に居にくくなり、コロナが終息してほかの仕事も出来るようになり病院を辞めていた。琉人との縁談も破談になったと噂で聞いた。


柊子は介護の資格をとり、義母の施設の職員になって生活していたと聞くが、義母も既に亡くなっていた。


ある日瑞穂は柊子が務めている介護施設を訪ねた。どことなく心が痛んだのと、現在の境遇を確かめたかったのだ。


「元気にしているの?」

トレーナー姿で出てきた柊子に瑞穂は尋ねた。

「おかげ様で体調も良くなり元気よ。この施設にきて義母さんを看取ることが出来て幸せだったわ。ここの仕事に就いてから平凡に暮らせるとがどんなに幸せなことかってつくづく思うの。」


清々しく語る柊子を見て瑞穂は意味ありげに言った。

「夫も心配していたわよ」


「先生には本当にお世話になって・・。夫と子供の三度目の命日の日にね、うちの狭いアパートまでいらして下さってお線香あげて下さったの、お香典も沢山下さって。本当に感謝しているわ。あ、これは内緒にしてって言われてたんだけど・・もう時効だからいいわよね」

「えっ?」

瑞穂は動揺した。

夫が柊子のアパートに行った日だった。


「琉人君とはどうなったの」

「やーだ。はじめっから、結婚する気なんてないわよ。将来ある若者だしご両親も反対でしょうし。でもプロポーズされたときは嬉しかったなあ、ちょっと幸せな気持ちになれたので瑞穂に自慢しちゃったわね(笑)」


瑞穂は、ずっと柊子が自分より下の環境に甘んじて欲しかった。なぜなら山下が瑞穂でなく柊子を選んだから。けれどその山下や家族を失し、すべて失ったはずの柊子が清々しく幸せそうにしているのはなぜだろう。夫を疑いながら生きて来たこの6年間を思うと自分のほうが惨めに思えた。


「何か、困ってること無い?私にできること」

「ありがとう!でもこうして仕事させてもらって私を必要としてくれてる人がいる。幸せえよ・・・それにね。」

何か話そうとした柊子を遮って後ろで大きな声が聞こえた。

「ゆうこさ~ん、戻って~ みんなが待ってるわよ~。」


「じゃ、また来てね!」

後ろ姿を眺めながら、瑞穂には敗北感だけが残った。





 




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