第12話 悪い噂
翌日瑞穂は、病院に行くと婦長にこう話しかけた。
「昨夜ね、柊子にマロングラッセを届けに行ったの。彼女栗が大好きでしょ。・・そうしたら、男の人と帰ってきてお部屋に入って行って。びっくりして声もかけられなかったの。あんな時間にちょっと男の人を部屋に入れるのはどうなのかしら。琉人君ともお付き合いしているって聞いてるのに」
「えっそうですか。なんか用事があったんじゃないかしら。彼女人気があるから」
「でも、二人とも酔っていて。慣れた感じに入って行ったの。彼女、なんて言うか、男の人と・・あ、余計な事よね。内緒にしておいてね。」
「彼女は人懐こいところがありますが、それはちょっと行き過ぎですね」
瑞穂は夫との生活は決して壊したくなかった。院長夫人と言うステータスも、薔薇の庭と大きな邸宅、息子との平和な暮らしも奪われたくはない。これを幸せと呼ぶのなら夫の裏切りを責めて何もかも無くすより、柊子に去って貰うほうが良い。良くない噂を蒔いたほうが効果的だと思ったのだ。
数日後、琉人の演奏会が病院で開催された。この日は琉人の両親も招かれていた。
「琉人さんのご両親はとてもご立派な方なんですね。柊子はスナック勤めでお酒で体を悪くしてここに来たんです。でもこんな良いご両親に祝福されて幸せですね!私も本当に嬉しいわ」
両親が顔を曇らせるのを、瑞穂は見逃しさなかった。柊子に自分より幸せになって欲しくない。そう思った。
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