第4話 最愛

興信所からの調査報告書を読んで、瑞穂はしばらく言葉も発することができずにいた。


2010年柊子は山下と結婚し、スポーツ用具の会社勤めの夫との間に女の子に恵まれ自身もピアノ教師として働き、円満な家庭を築いていた。

2016年4月ドライブに出かけた途中の中央高速で事故に巻き込まれて夫と子供は即死、自身も重症を負うも一命を取り留める。事故を起こした男は賠償能力もなく交通刑務所に入る。

2017年柊子は嫁ぎ先から出て旧姓に戻るが、義母が認知症になり施設に入っており費用14万円を毎月捻出しなければならないため、今は昼はケーキ屋「アンデルセン」夜はスナックバー「陽炎」で働いている。


(山下君が死んだ)

心の中で何度も反復した。

(山下君が死んでいた)


野球帽姿で微笑んでいた彼。彼の優しい顔に似合わない低い太い声が好きだった。2人で見たアバター。雨の日に突然言い出された別れ。彼を恨んで忘れようとした日々。でもまたどこかで再会できることを密かに望んでいた。もうそれも叶わない。

暫くの後に、ようやく柊子の今の状況も把握すことができた。恋の勝利者が人生最悪の事態に遭遇していることを。






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