糞みたいな話

ウジャトの目

第1話 思索の大便者

公立法会ほうえ高校。

偏差値61の可も無く不可も無い自称進学校。

進学実績に関しても自称進学校という枠から外れることはなく、基本的にはSNKNKURYUを目指す生徒が多い。

尚、5年前に一人だけKYUT大学理学部に行ったらしく勿論そういったイレギュラーはちょくちょく現れるようだ。


これは、そんな法会高校に通う一人の男子高校生の話。


彼の名は上悠じょうゆうぜん

自称、梲の上がらない一般高校生らしい。

特徴があるとすれば、192cmという長身とそして───独特な思考癖。


今、彼の所属している2年B組は剣呑な雰囲気にあった。

それはクラスメイト達による陰湿なイジメの発覚。

ホームルームにて担任の池田が激昂したのだ。



入学して程無い頃からイジメの不穏な影はちらほらあった。

事の発端は、イジメの被害者となった村井が休み時間に自由帳にとあるアニメキャラを描いていた所、通り掛かった吉沢に見つかってしまったことだ。

不運にもこの吉沢という男は厄介なお調子者で、こいつがクラス中に村井の絵を晒し上げたのだ。

高校一年立夏のことだった。


吉沢を始めとした所謂"ジョック"やそのサイドキックが構成する"クリーク"は飽きもせず村井を虐め続け、今に至る訳だ。

実際の所、イジメの内容としては机に落書きだとか、トイレ中に水を掛けるといった原始的な物ではなく、例えばグループチャットにわざわざ村井を呼びそこで悪口雑言を浴びせるといったテクノロジーをふんだんに活用したものだった。


またこの一連のイジメに拍車をかけたのが、村井の描いていたアニメキャラクターだ。

彼が描いていたのは所謂"男の娘"という奴だ。

実は、上悠も彼の絵を見かけたことがあったのだが、そこに描かれていたのは正にジェンダーを超越した存在だった。

あまりにもおぞましいので詳細は省こう。



で、現在。

何故担任の池田がキレているのか。

それは、吉沢達が遂に一線を越えてしまったからだった。


彼らが何をしたかと言うと、最近村井にとあるビデオレターを送りつけたのだ。

その動画には吉沢の上裸が写し出されており、何やら左右にリズミカルに揺れていた。

そして時折響く女性の喘声。

そう、それは村井が密かに想いを寄せていた恵比須美夜の声にそっくりだったのだ。


そして、今朝学校に来てみたら、彼の机の上に遺書が置いてあるじゃないか。

担任が血相を変えてホームルームで事実追及をする中、副担任及び学年の先生総出で彼を血眼になって捜索しているという状況だ。


教卓の上で拳を固く握り、泣きながら怒鳴っている担任の池田(53)。

流石の2年B組にも緊張感が走っていた。

普段はなめて掛かっている中年のオッサンでも、ここまで真剣に怒られると皆も面食らうようだ。


「お前ら、何てことを...

こんなことは先生も初めてだ!!!」


池田は教卓をぶっ叩いた。

しんと静まり返った教室に音波が炸裂する。

この雰囲気に耐えられず泣いている女子も居る。

流石の吉沢一派もひたすら下を向いてビクビクしているようだ。


「先生が村井が追い詰められていることに気付いてやれなかったばかりに...」


無理もない。

吉沢一派によるイジメは非常に巧妙かつ陰湿だった。

しかも、村井も村井で全く相談もせずひたすらイジメに耐えていた。

そりゃあ気付くのは至難の技だろう。


「誰か、村井について知っている人はいるか...」


池田は縁の無い眼鏡を外し、涙を拭いた。


すると、当の恵比須美夜が挙手をした、

─────と同時に、今作の主人公、上悠然も勢いよく手を挙げた。


「恵比須...何でも良い、先生に教えてくれ...」


「吉沢君です。村井君をイジメていたのは...」


震える声で恵比須はそう言った。

非常に勇気ある行動だ。

吉沢一派はクラスの中心的存在、故に逆らいにくい相手。

しかも彼らにハメ撮りまで撮られたというのに、よくこうして声を上げたと思う。

吉沢はビクッと跳ねた。

そして、最前列から鬼のような形相で恵比須を見た。

最後列に座っていた上悠然からもその憎悪の感情が滲み出た表情をよく拝むことが出来た。


「吉沢、後で話をするからホームルームが終わったら廊下に。」


池田は昂った感情が一先ず収まったのか、しゃくりあげながらも淡々と告げた。

吉沢は涙目で下を向いた。


この瞬間、クラスの雰囲気は最悪となった。

クラスの中心的存在、ムードメーカーである吉沢がこの有り様なのだ。

そして追い討ちを掛けるように、副担任が扉を勢いよく開け教室に飛び込んできた。


「ハァ、ハァ...村井君、見つかりません...!」


副担任の藤本(23)。

若い女教師だ。

担当は国語。


「...わかりました。私も向かいます。」


池田が早足で教室を出ようとした瞬間、呼び止める声が教室の後ろの方から飛んだ。


「先生、俺を忘れてはいませんか。」


そう、それは正に主人公たる一声だった。

上悠然が満を持してこの問題に取り掛かる...!!

先程の恵比須のくだりの中、ずっと手を挙げ続けていた男は、この2年B組を取り巻く重大な問題にどう立ち向かうのか...!!!


「そうだ、そう言えば手を挙げていたな悠然。

でもそれは後で聞くことにするよ。」


そう言って、藤本の後に続き教室を出ようとする池田に向けて、勇ましい声が逃すまいと響いた。


「待って下さい。」


どうしても今伝えなければならない、それほどまでに重要な情報なのだ。

もしかすると村井の居場所に関わる情報かも知れない。

そう悟った池田は足を一瞬止めた。


そして、クラス中が注目する中、上悠然は真顔で朗々と言ってのけた。




「う○こ行っていいですか。」

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