第14話 vsピエール・ド・デール司教 part2

あぁ、神よ、遂にお姿を顕して下さったのですね......

ククク、フハハハハ!!!

慄くがいい無礼者め!貴様など殺してくれるわ!」


その瞬間、正気を取り戻した池田がピエールを全力で押さえに掛かった。

クラスメイト達は状況が掴めぬまま唖然としている。



「司教!何をしている!

生徒に危害を加えるのは許さんぞ!」


だが、大柄のピエールに力で勝る筈もなく振り落とされてしまった。


「ゆっ、悠然!早く逃げなさい!」


地面へ叩きつけられた池田の所に、大崎が駆け寄った。



「先生、上悠なら大丈夫だと思いますよ。

本当に神があいつを裁こうとしていたとしても、半端な神では多分勝てませんから。」

大崎はニコっと笑った。



「うむ......いかん、もう私も何が何やら分からなくなってきたぞ......」

そう言って池田は目を閉じた。


外は忽ち荒れ狂った。

嵐が吹き荒び、車軸を流すような雨が流れていた。



「断罪だ......神への非礼は死を以て詫びるべし!!!」


ピエールは十字架を悠然へビシッと向けた。

瞬間、雲間から躍り出た雷撃が校舎二階の教室に突き刺さった。

そして轟音と共に辺りは強烈な光に包まれる。



「ふっ、ふふふ......どうだ、思い知ったか!これが神の力よ!」


しかし、立ち上る白煙を手で消し飛ばして登場したのは、全く無傷の彼であった。

そう、今作の主人公である上悠然だ。



「何!?雷を直撃しても倒れないだと!?

む、当たりが悪かったか......ならば......」


ピエールは再び十字架を天に掲げた。

そして同時に悠然を窓の外へ蹴り飛ばした。

腹に蹴りを受けた悠然はガラスを突き破って運動場へ落下していく。



「上悠!!!」


大崎は窓際へ駆け寄り、下の様子を確認した。

すると、運動場の真ん中で無気力に突っ立っている人影を発見した。


「良かった......」


悠然は立っていた。



「神よ、奴に最大の裁きを与え給え。

奴に地獄行きの審判を下し給え!!!」


そして、運動場に一本の巨大な光の柱が出現した。

それは凄まじい電場を即座に周りに作り出し、鉄筋コンクリートで出来た法会高校の校舎をも一瞬帯電させた。


そのど真ん中で悠然は地面に手をついて踞っているようだった。



「ふはははは!!!これだけの一撃を喰らえば奴ももう丸焦げだ。

そして我々はこの件を正岡校長と共に揉み消してしまえば全ては解決だ!!!

神の力を行使できる私に逆らったのが運の尽き........」


ピエールは言い終わる前に異変に気付いた。



「ねぇ、白人のおじさん、まだ上悠は立ってるわよ。」



悠然は何時ものように怠そうに運動場の真ん中で立っていた。

まるで何もなかったかのように平然と、悠然と。



「アースしたのか!!!」


池田が大崎の横に割り込んできた。

アース、つまり電気をそのまま地球に流すことで電位を0にするという操作。

悠然は正に、神の雷をアースしたのだ。



「バカな......神の力は絶対な筈だ......人間一人葬ることが出来ないなど......」



「司教、我々人類はね、とうに超えているんですよ。その神という存在をね。特に悠然は......」


神の業罪は正に人間を作り出してしまったことにある。

これは論理的に導かれた真っ当な理論だ。

万物、つまり神という想像上の存在さえも形作る根源の事象、その規則性を予測し、解明するのが物理学だ。神を超えるなど半ば当然と言えよう。



「おい神父。丁度この脳チップスにも味付けが欲しかった所だ。

リヒテンベルク図形はピリ辛で中々旨い。」


悠然が窓から入り込んできた。

そして次いでといった風に飛び散ったガラスを分子レベルまで修復した。



「やっぱり上悠ってなんだろう......

いっ、いや、何でもない何でもない!」


物理学の万能性に関心する池田、懺悔するピエール、完全に置いてきぼりのクラスメイト、爆睡している森、机に落書きしている村田、すました顔で自席に座る悠然、廊下で授業開始を待っている藤本先生。


錯綜した教室の中、何故か大崎は悠然から目を離すことが出来なくなっていた。

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