詐欺師は響きだけならかっこいい
第1話拾われたゴミ
高校生になると色々と変わる。周りの環境、例えば人間関係や行動範囲、場合によっては住む場所だったり、生活習慣だって変わるだろう。
変わって当たり前である。
人は皆変わることを必要とされ、停滞は望まれないし、望まない。
俺だってその一人だった。
高校生になるというのは、自分の立場が大きく変わるし、実際強制的に変えられる箇所が多い。
そんな、皆が変わる時期に俺も一つ自分の人生に変化を加えたくなってしまった。
いわゆる高校生デビューである。
俺は高校生になって特に人間関係を変えたかった。
中学校でぼっちだった俺にはあまり中学の同級生と良い思い出がなく(といっても皆まだ優しかったとは思うけどな)、高校に入って中学の同級生がいるのはどうも嫌だった。
だから中学の同級生がいない南海高校に進学することにした。
進学校の南海高校はかなり偏差値の高い高校で俺もかなり勉強して入学した。
そのおかげで少し勉強が好きになった。
少しだけな。最近は本を読むかゲームをするか勉強をするかの毎日だ。
あ、あとサイクリングも好きかな。
ちょっとお高い自転車で目的もなくふらつくのはいいもんだ。
「甘南備(かんなび)ちょっと話がある。あとで職員室にきなさい」
担任の小竹島(ささじま)に呼ばれた。(女である)
「わかりました」と答え、帰る準備を始める。
今は授業は終わり、放課後だ。
周りの奴等は何人かで話をしながら帰って行く。
もちろん俺は一人だ。
「先生に呼ばれたから先帰ってて」
と言う相手もなく、職員室に向かう。
職員室に入る時は大体作法があるものだがこの高校ではまず失礼しますと言い、誰々先生いますかてきなことを言うという簡単なものだった。
先生に手招きされて、奥に通されると、そこにはソファがありそこに座った。
なんだが物々しい。
小竹島はロングなヘアスタイルで括ってはいない。
生徒には括ることを強要する癖に教師というのは自由な輩が多い。
身長は割と高い。
本人によると
「百七十センチだ高いだろう? 高い所のものが取りたかったら言ってくれたまえ」
らしい、、、俺百七十四センチだけどね。
座りかけるやいなや小竹島は話を切り出した。
「さて話なんだが……。お前普段一人なのはいいとしても、班決めの時くらいはすっと決めろよ」
ロングホームルームのことか……。
自分でも忘れようとしていたころなのだが。
結局高校生になっても、一人だった俺は(一人がやっぱり好きなのである)、この前のホームルームで班を決める時最後まで残り、他のクラスメートが俺のことを散々押し付け合いをするところをみせつけられた。
「いや、ちゃんと決めましたよ。かなり早かったんじゃないですか」
「ふざけるな。お前が決めたのは、参加しないと言うことだ。認められなくて当然だ」
いやでも、クラスメートは喜ぶし、俺も喜ぶ。
生徒の幸せは先生の幸せじゃないのかよ。
「しかしですね。人間には人権というものがありまして、参加しないという選択肢はあると思うのですが」
小竹島は溜息をつき、
「お前な学校に入る時誓約書かいただろう。その中に色々かいてあったはずだ。ある程度は学校に従わなければならないようになってある。嫌なら休んだらいいではないか」
誓約書ね……あ、そういや原付乗らないとかいうの書いたかもな。
そんな入学時の手続きを覚えてる筈もなく。
俺は返事をする。
「まぁそうかもしれないんですけど、内申がね」
「じゃあ我慢するんだな」
「うぇ、、。というか、こんな事の為に呼び出したんですか?ならもう帰りますよ」
こちらとしてはさっさと帰って本を読みたいのだ。
さっさと立ち上がろうとすると
「まぁ待て、ちゃんとした話は用意してある。君はこう余裕というものがないのか?そんなせかせかしなくてもいいではないか。ちょっと寂しいだろうが」
「そうやって生徒の貴重な青春を削ってるんですよ。削り取ってるんですよ」
「これが君の青春なのか? それだったら私と喋ったほうがよっぽど青春ぽいだろ。そもそもこんなピチピチの若い美人に相手してもらってるんだ。むしろ感謝したらどうだ?いや感謝しろ」
強要された。
まぁ美人だとは思うが調子に乗りそうなので黙っておく。
「いや、僕年上に興味ないんすよ」
小竹島はにやにやして
「じゃあロリコンか?」
「確かにこの年で年下好きとなると皆ロリコンですよ」
「そういやお前妹居たよな? もしかしてシスコンじゃあないか?」
「それはないですよ。うちの妹、顔は――まぁいいとして、性格が駄目でして」
「お前より? 」
「系統違うんですけど、ヘヴィーっすね」
「本当か?! 」
と目を輝かせて小竹島は叫んだ。
俺はビクッと驚くと
「いや、急になんすか? 」
と返す。
「いや、わからん」
「はぁ? 」
「わからん。お前もないか? 急に叫びたくなること……あるよな? いや、あれよ? 」
この言い回し気に入ってんのかとにやにやしていると、ギロっと睨またので
「ひぃゃっ。あ、ありますよね。ほんと。僕なんかもう毎朝叫びたくなりますよ。ほんと」
としどろもどろになって返す。
「いやなんでそんな怖がるんだよ。何も……しないよ…? 」
「急に蚕ぶっても無駄ですよ」
「可愛い子な。蚕て、人をなんだと思ってるんだ」
「蚕ですけど? 」
「間違ってなかった!? 」
小竹島はこほんと咳をすると
「と、とにかくそんなに怖がらなくていいのでは? 」
ほう、少し気になっているのだろうか。
小竹島は話題をもとに戻した。
「いや、先生空手やってたって言ってたじゃあないですか。殴られるのかなって」
「お前なぁ、武道の技ってのはなぁ使いどころが決まってるんだよ。少なくとも一般人に技を使うようなことはせん」
「でも先生ってそういう所乗り越えそうじゃないですか。飛び越えそうじゃないですか」
「ここで乗り越えるというのは、武道云々じゃあなくて法律だがな」
法律を乗り越えてたまるかと小竹島はつぶやくと、
「お前放課後何してる? まぁこんな会話に付き合ってくれてるくらいだ。大したことはしてないんだろう? 」
「失礼ですね。こちとら勉強してるんですよ。どこが大したことないんですか」
「ほう、だが他にも何かしているだろう? 勉強だけでは放課後も過ごせまい」
「ええと、読書ですね。ゲームもしますけど最近はあんまり。あ、そういや妹に部活しろって言われてまして」
小竹島は目を輝かせて
「本当か?! 良い部活があるぞ」
と言った。
目、輝かせるの好きだなこの人。
嫌な感じがする。
言わなきゃよかったな。
後悔先に立たず。
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