幻想”的”
そして到着。
「えーと、何円だったかな」
と、ポケットを探る伊藤。
「ゼロ円だよ」
と俺。
「え?」
「零円だよ」
繰り返す。
「何、新手の詐欺?」
どんな詐欺だよ。
「とにかくゼロ円だからね」
「まじで無料じゃん」
驚く伊藤。
「いや、信じてなかったのかよ」
「
「何を言ってるんだ。俺なんか嘘ついたことはないぞ」「それがもう嘘じゃん」
当坂が割って入る。
入口で喋っていたら、先に
ウミガメというのはものすごくキュートで可愛い、、おっと同じ意味だな。
とにかく可愛いのだが、手に乗っけた時とか卒倒しそうになったな。
人間というのは可愛いものを見ると、自然に顔が緩んでしまうのだが(俺の場合妹を見た時とか)、此処までくるともはや真顔だ。
目が幸せというより、乗せている手が幸せだった。喉とか柔らかかったし。
今にも消えてしまいそうな、命を手にすると考えるものというのがある。
これが海に向かって一斉に動きだすんだよな。
ウミガメは生まれてからすぐに何も教えられてないにも関わらず、一同海に向かう。
すげぇ、と思いつつも亀は全員それが出来るのだから大したことはないとも思う。
人間は進化の都合上、生まれてすぐは何も出来ない柔弱な存在ではあるので、生まれてすぐ何か出来る生き物のことを見ると驚くものだ。
しかし、実際不完全な状態で生まれてきているだけなので、生まれた瞬間で比べるのもおかしな話である。何と言っても、亀は、ウミガメは可愛いのでそれだけでいいのだが。
こんな見方をすると、水族館の職員は怒るだろうか。見た目だけ見るなと。
俺は面食いだしなぁ。
さっきからウミガメの話だけしているが、俺はリクガメも好きである。
ある時、ちょうどリクガメを触る機会があったので、甲羅を撫でた。
なんというか固かったなぁ。リクガメであろうとウミガメであろうと同じ位可愛いのだ。亀最高である。
「もう次行くよ~」
当坂が耳元で言ってきた。
「うわっつ」
俺は驚いて気づく。結構亀見てたんだな。
「そんなに亀が好きなの?」
「そんなに驚かすのが好きなの?」
出来るだけ声を真似て返す。
「何その声きもっ」
にこやかに彼女は水族館の奥に進んでいく。
俺も行かねば。俺は亀に別れを告げて、歩きだす。
「じゃあ行くから」
俺は動物と喋るのが好きだ。いや、独り言が好きだからその延長にある動物との対話は俺にとって心を整理するのに重要な役割を果たしているのだった。
しかし、まぁ、自分の家にペットがいなければ、人間以外の生き物は虫とかしかいないのだろうから、そんな機会は殆どないのだけれど。
奥に進むにつれて光が入らなくなってくるのだから、だんだんと幻想的な世界みたいになってくるのだ。
しかしながら、目の前にあるのは、近くにある海、というか海の隣にあるのだが、そこを再現した水槽になっているので実際のところ、めっちゃ現実なのだけれど。
「可愛い」
声の方を見ると島津江が、エビを見ていた。
「へぇ、お前こういうの好きなのな。俺もエビ好きだぜ」
「そう」
島津江は先に進む。
ここまで来ると入口までは固まっていた集団は散り散りになってしまった。
島津江は基本先行して気に入ったところで止まり気に要らない所はバンバン飛ばす様だ。
「ねぇ、甘南備君。サメ」
望月が指した先にはサメがゆったりと泳いでいた。
「美味しそう?」
俺は尋ねてみる。因みに食べてみたい。
「そうだねぇ。食べたことないからわかんない!今度食べよう。一緒に」
「ふーん」
どこで食べられるのだろうか。
食べられたとしても、目の前にいる奴を食べられる訳ではないだろう。
個体にしても種類にしても……。
「あと、一緒には食わね」
次にいこう。
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