水やりの仕方

水やりというのはなかなか大変で、普通花壇と聞くとちょっとした一角に花を植えている程度を想像するかもしれないが、この学校の花壇はなかなか広い。

ホースを出したりしまったりするのにも時間がかかるため、なんだかんだで整備をしていると一時間くらい使ってしまうのだった。

こういう日はこのまま部活を切り上げて家に帰るのが通例となっている。


「お疲れ様。それでは帰りましょうか」


「おう」


この部活に終わりの挨拶は存在しない。

なんとなく島津江が帰ろうというのでそれに従うのだ。


「そういやお前さぁ、ゴールデンウィークほかに予定とかないのか?」


「あるわよ。あなたと違って」


そういうと島津江は校門に向かって歩き出す。


「いやないとは言ってないだろうが。ゴールデンウィークは時間が足りなくて大変なんだよ」


俺はそれを追いかけるようについていった。


「それはゴールデンウィークでなくてもでしょう?あなたのような人間では日々の生活を送るのにも時間が足りないものね」

とふふっと笑う。


「そうじゃねぇよ。色々やることが多くて時間が足りないんだっつうの」


「何するのよ」

「勉強」

「嘘はやめなさい」

「決めつけはやめろよ……」


小竹島と言い、こいつと言い俺のことをなんだと思ってるんだ?


「どうせゲームするとか言うんでしょう?」


「よくわかってるじゃねえか。そこまでわかってるなら誘うな」


「ゲームをすることは予定とは言わないわ」


「旅行だって遊びには変わんねえだろうが」


「旅行も予定とは言わないわ」


「言わないの!?部活って旅行よりも優先なのか……」


尚更部活が嫌になるな。


「じゃあお前はどんな予定があるって言うんだよ」


「……パーティがあるの」

少し考えて言う。


「遊びじゃねぇか」


島津江は俺に向き直ると


「遊び……ね。それがとても大変なのよ」


なんじゃその態度は。

そう俺が口に出しそうになるくらい島津江は浮かない顔をする。


「大変なパーティかよ。じゃあ俺は大変なゲームなんですよ」


俺は吐き捨てるように言うと、


「じゃあしなければ良いじゃない」


至極真っ当である。


「はぁ?だったらお前も行かなくていいだろ」


「付き合いってものがあるのよ」


「ゲームにも付き合いはありますがね」


「オンラインなの?」

「そうとも」

「なんてゲーム?」

「雷鳴オーディンズ」

「仕様は?」

「仕様?」

「どんなゲームなの?」

「そりゃ仲間と冒険して……」

「メインキャラの名前は」

「なんなんだよその質問は」


「どうせ知らないんでしょ?あなたがオンラインゲームをやるはずがないわ」


「何でそうなるんだよ。今の時代オンラインゲームは基本のきだぞ」


「あなた人との関わりを嫌うじゃない。それでゲームのキャラ名は?言えないの?」「人の名前を覚えるのは苦手なんでね」


そう言いながら、パーティってどんなもんなんだろうかと考えをめぐらす。


「甘南備くん。すぐに嘘をつくのはやめなさい。面倒だわ」


「嘘かどうかわかんねぇだろ。そしてそれはそっちの都合だ」


「はぁ、とにかく私はパーティという用事がありながら部活に行くの。あなたもいらっしゃい」


パーティってどうせ一日だけだろうが。

こっちは毎日なんだよ。

そう思いながら俺は歩いた。

家に帰ったらうんとゲームをしよう。


きっとそれがいい。

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みるふうぇうぶ @amanoreiyou

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