黄色の世迷言

ゴールデンウィーク事変

休みというのはあるだけ嬉しいし、自分なんかは毎日が休みであってほしいなどと考えることがしばしばで、何とか将来働かずに過ごしたいと試行錯誤している。

好きなことがあるにしてもそれは仕事になりそうにないし、なるとしても自分には到底その才能がないとしか思われないのである。

結局自分の場合は仕事で好きなことをするのではなく、稼いだお金で趣味をするのが良いのだろう。できるだけ勤務時間が短ければいいなぁ。

こう試行錯誤したところで、何かいい案が思い付く訳でもなくただ仕方のないことをぼーっと考えて現実逃避している人にしかなっていない。

色々と方法を考えてみても実際将来なってみるまでわからないし、じゃあまずは金を貯めようかと考えたにしても商売を始めようなどという気概もなく。

金を使わずお小遣いを貯めるくらいしか出来ないのである。


最近は何事も金がかかることが多くなり、携帯は一人一台、電気代の高騰、物価高……。しかし、賃金は上がらず。

俺たちの未来はどうなんるんだ。

とまぁ心配しても仕方がないので結局のところ適当に生きていくことになるのだ。

まぁ学生が金を貯めるってことは趣味にお金をかけないということで、ゲームに金をかけるもののそんなに大量に買う訳でもなく、本を読むといっても図書館でかり――といった具合である。


趣味以外にお金をかけるなど論外だ。

そう論外なのである。

 


 「ゴールデンウイーク……暇だよな?」

小竹島ささじまにそう話しかけられた時、俺はゴールデンウイークくんの命が危ういと察知し、すぐさま防御態勢に入った。


「いや、それがですね先生。ゴールデンウイークは家族旅行に、勉強、そして小学校の頃の友人と遊びに出かけるというイベントがあってですね。残念ながら先生の飲みに付き合っている暇はないんですよ」


小竹島はやれやれと首をよこに振って口を横に引きのばしていうには

「あほか、お前。家族旅行はどうか知らんが、勉強なんか一日もかからん。それに、小学生の頃の友達などお前にはいないだろうが。どうせ三日くらい暇なんだろう?」


実際には家族旅行もなく、ゴールデンウイーク丸々暇なのだが……。


「何言っているんですか先生。勉強は一日どころか毎日しますし、小学生の頃の友達もいますよ。そして、休みというのは休むためにあるんです。三日暇だとしてもそれは休息に充てられるべきで、先生が今から言おうとしていることに付き合う暇などないんですよ」


嘘は通せば本当になる。

小学生の頃の友達だっていると思えばいたことになるはずだ。


「たくっ、口の減らない奴め」


こいつめっちゃ横暴だなおい。

人に予定を決めつけて、その上断った捨て台詞まではいてるじゃねぇか。

まぁ、実際言ってることは間違ってないけど。


小竹島はあきらめたのか、俺の頭をガシガシとなでて、暴力に見えない暴力をふると(髪が引っ張られて痛い)、教室を出ていった。


放課後である。



 「ということで、ゴールデンウイーク陸上部の手伝いに行きます」

島津江しまづえは言い出した。


いつものごとく、毎週の水やりをするため花壇にきていた俺達は来週に迫ったゴールデンウィークの話をしていた。


「嘘つくなお前。ゴールデンウィークは休みだぞ?部活があるわけないだろ」


「あなた本当に何も知らないのね。ゴールデンウィークも部活はあるのよ」


「なん……だと……。部活に入っているやつは頭がおかしいのか?ゴールデンウィークに外に出るなんてありえない……」


「いや部活なくても外に出るのは普通だと思うけれど」


普通は皆出かけるのか……。

休みの意味をはき違えてやがる。


「あなたみたいに休日を家でダラダラする日と思っている人は少数派か、疲れ切ったサラリーマンくらいなものよ」


「大体が疲れ切ったサラリーマンだろうが。それに疲れきった学生もそうだろ」


島津江は呆れて、

「あなた運動部にも入ってないのに何が疲れたよ」


「確かに運動をしない分体力が余るというのは間違いではないが、運動しない時点で体力が少ないのも事実だ。むしろ運動部に入っている奴の方が疲れていないのではないだろうか」


島津江は心底嫌そうに、右目を細めると

「まぁ、その人の生活に体力は最適化されると思うけれど。でも陸上部の手伝いくらいは出来るわよね?」

「いやだ——」

「出来るわよね?」

「あn——」

「出来るわよね?」


泣きたい。


思ったことはないだろうか。小さい頃よく泣いている子がいた。

周りの人は泣いている人を優遇する。

当時は意味が分からなかったが、今になると面倒だから優遇するのか。

と気づいた。

泣いた方が悪くても泣かせた方が悪い。

よくある話だ。

俺は泣いている子を目の前にしていつも思っていた。

俺も泣ける子だったらなぁ。……泣くのは恥ずかしいことだった。

それは男だからどうとかではなくて、人の前で弱みを見せるのは嫌だったし、泣いて解決ということも嫌いだった。

そういった、まどろっこしいことをかなぐり捨てて泣いて、泣いて。

そうなれなかった頃。


それを思い出した。


「何よ。その顔気持ち悪いわね」


島津江は目を閉じる。


「わかった。でも力仕事は嫌だぜ」


「何いってるの?あなた以外誰が力仕事をやるのよ」

島津江はカッと目を開きこちらを見る。


「陸上部員?」

「手伝いの意味がないでしょうに」


島津江は首をよこに振った。


「そういや当坂はどうしたんだ?」

俺は未だ水やりに来ない当坂について島津江に尋ねた。


「当坂さんは今日は休みよ。あなた同じクラスでしょ。聞く方でなく聞かれる方ではなくて?」


俺は今日の教室を思い出す。

……思い出せない。


「あれ?今日俺なにしてたっけ?」


「記憶喪失かしら。大方寝ていたんでしょ」


「まぁそうだろうな」


「当坂さんに助けを求めるつもりなのかは知らないけれど、それは無理な話よ」


俺は島津江を振り替えって


「なんでだよ」

と突っ込む。


「ちゃんと話は通してあるからよ。あなたは後回しでいいから」


「言い方に悪意を感じる」


「とにかく行くから。よろしくお願いするわ」


「一方的だぁ」


一方的だぁ。

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