パーソナル

 勉強のスタートだと言い切ったものの、俺はそんなにやる気がなかった。

自分としては、今から望月の家に行って、お、なんかドキドキしてきた。

なんだが最近舞い上がってしまったため分かっていなかったが、そもそも人の家に今から行こうとしているのだ。多分、玄関を前にして俺は動けなくなるだろう。

菓子折りの一つでも用意しておくべきであった。基本的に、人と仲良くなろうと思ったら、まずはお母さんと仲良くなるのが良いと言われている。


そういや、俺なんの準備もしてなかったな。はぁ、柬薇に聞いておけば良かった。

まぁでも楽しみは楽しみだからなぁ。望月が俺のことをどう思っているのかは分からないけれど、別に転校して友達がいないから俺を踏み台にしようとしているだけなのかもしれないけれど。何回も何回も学んで繰り返した。今度こそは。


「じゃあ、とりあえず始めようか。始めないとやる気はでないぞ~」


急に俺の耳元で囁いてくる。なんだが最近俺の周りこういう奴多くないか?当坂とか。距離が近いのにどぎまぎしつつ、


「ちょっと、ちょ」

と言いつつ距離を取るために少し手でおして望月を遠ざけようとする。


「な、何?急に体を触って」


「え、いやいや、違うって距離を取ろうと思ってだな」

望月はポカーンとして


「もしかして僕のこと嫌い?」

頬を若干膨らませる望月。

なんかさ、可愛い奴って可愛い可愛いで育つからかしらないけれど、望月って所作が子供っぽいことがあるよな。


「いやまて、そういうことじゃない」

ここで俺がゴホンと咳をして


「人間にはさ、パーソナルスペースてのがあってだな。俺はそれが人より広めなんだ。だから、申し訳ないけどもうちょっと離れてくれない。落ち着かない」

こういう事を言ってしまうからもてないんだろうなぁ、と思いつつも俺は生きたいように生きると決めてしまったのでこういうことは躊躇しない。


「僕は甘南備君のパーソナルじゃないの~」


「いやお前、パーソナルって個人って意味だからな?」

望月は色々言ったが結局俺達の距離は離れることがなく、むしろ近づいて、俺の宿題退治が始まった。


心の距離にしてくれよ。

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