筋肉質
「そろそろ食べ終わってよね。洗い物大変なんだから」
「そうだ。じゃあ俺がやっとくよ」
すると柬薇は嬉しそうな顔をしたが
「お兄ちゃん早く寝たいでしょ。それにお兄ちゃんの洗浄は信用できないよ」
確かに早く寝たいが。別に俺は丁寧に洗うのだがなぁ。料理といい信用されてない。
俺が不器用なのは有名な話ではあるが、実際器用だから洗浄が得意とか、料理が得意とかではないはずだ。ちゃんと練習すれば問題などないはずである。
料理は計算だと言うし。
「違うよ料理は力だよ」
と柬薇。
「ほら、力ないとフライパンを振れないでしょ?」
「何処の家庭でフライパンを振る場面があるんだよ……」
「ここ?」
「家はIHだろう」
「まぁ、ほら、混ぜる時とか。具材混ぜる時とか」
「確かに、混ぜる時はいつも藺緒に頼んでるもんな」
あれ、藺緒は力あるのか?ムキムキなのか?
「藺緒、ちょっと腕触らせろ」
「あら、セクハラだねぇ」
そう柬薇は茶化す。当の藺緒は頬を赤らめて
「いいよ、優しく触ってね」
なんだよその言い方。
「じゃあお言葉に甘えて――ぷにぷに」
お、筋肉質だな。俺、こいつと喧嘩したら負けんじゃね?
もともと筋肉質ではない俺の肉体は、完全なる運動不足によりペットボトルのキャップを開けられるかどうかの状態になっていた。
もう、妹なしでは瓶を開けられない体になっていた。本当に使えない体だなぁ。
鍛えようとも思わない。使えない頭だなぁ。もっと向上心でもあればいいんだがな。
「どう?お兄ちゃんの貧相な体とは比べものにならないでしょう?」
「くそっ、妹に負ける時がくるとは」
はぁ、いや、俺だって細いからあとは鍛えるだけなんだよ。
鍛えたらもうほぼ妹なんだよな。
「いや、勝つ時ないでしょ。私に」
「勉強とか?」
「いや、学年違うし」
「だがなぁ、俺が中二の時はな」
「何かよくいる説教爺みたいになってるよ」
たしかになぁ。俺は将来を待たずとも説教爺である。爺ではないか?
「爺だよ。最近老化が凄いもんね」
「はぁ?老化してねーよ!」
「更年期障害入ってるねこれ」
俺は手をフルフルして
「いや、更年期は中年だから。爺は更年期ではないから」
「うーん。まぁでも、爺は怒りやすいでしょ」
「いや、割と温厚なイメージがあるが?」
いや、本当にどっちでもいるから、人によりけりだろう。
調べてみたら何かわかるかもしれないが、こんな冗談の言い合いのなかでわざわざ調べるはずもなく。
「まぁ、いいんじゃない。お兄ちゃんは爺ってことで」
「それに関しては同意だな」
藺緒は
「同意なのかよ」
と呟いた。
さてここまで、若干の沈黙を決め込んでいた柬薇がすっと手を上げ
「はい」
俺と藺緒は一瞬ポカーンとしたが
「はいどうぞ。柬薇さん」
と俺は柬薇をあてる。
「そろそろ食べ終わってよね?」
「すいません」
「ごめん」
同時に謝った二人であった。
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