遅刻

 誰もいなかった。


「あれ、あれ?間違えたかぁ」


俺に必要なのは時計ではなく地図なのだろうか。それとも、話を聞く力なのか何なのか。


「連絡入ってたかな」

ここで携帯電話を……

「あ、忘れた」


普段から出かける時は殆ど持ち歩かないもんだから、いや、あれだよ?

別に学校には持って行ってるよ。一週間にニ三回くらい忘れるけれど……

はは、そんなもんだろうな。え?普通忘れないって?

はは、まぁ、忘れっぽい性格なのでね。

それに基本的に休日は持って行かないからな。

う~ん。どうしたものか。


待つ。只々待つ。


「いや、なんで来ねぇんだよ」

「それはね。遅れたからだよ」


返事は帰って来た。声の方を見ると、ほうこいつは伊藤じゃないか。


「遅いぞ」

「ごめんね。いや、準備に手間取ってさ」

顔の前で手を合わせて謝る。

「あれか。お花摘みしてたのか」

「いや、トイレットペーパー花柄じゃないから」

「おい、折角言い換えてやったってんのに」


おぉ、言ってみてから何だが良いリズムだ。やったってんのに。やったってんのに、、、はは。


「どうしたの?ニヤニヤして。ちょっと気持ち悪いよ」


「おいおい、なんで俺は朝から、しかも遅れてきた奴になんでそんなこと言われなけりゃいけないんだよ。悲しいよ。僕」


「なんでこんな時に限って僕って言うんだよ」

「はは、そりゃお前。俺は乱暴な言い方ではないかと」

伊藤は少し考えてから


「じゃあ尚更なんでなのか」

と呟いた。


「で、一人なの」

「おい、何だかあれだな。凄い嫌味を感じるな。一人だよ。いつもそうだ」

「へ~、もう五分は経つね。どうしたのかな」


どうもしてないだろう。只々、寝坊か、お花摘みか、準備に遅れたか。


「はぁ~、いや、眠いって。眠い眠い」

頭をブンブン振るって眠気を飛ばそうと、羽ばたかせようしたが、どうやっても俺は夢の世界へ羽ばたくようで。


「いや、言う程眠そうでもないけれど?」

「そりゃお前、わざと表情に出さなければわからないだろうが」


「ふ~ん」


興味なさげな伊藤。じゃあ聞くなよ。

「ごめ~ん。遅れちゃったぁ」

俺は怒っていた。なぜ、俺はいつも時間ギリギリに目的地に行くのか。

さっき早起きが苦手だとは言ったが、それはそれでそうなのだが、半分だ。

そう、半分。残りはなんだって?そう、待つのが嫌いなんだよ!

そんなねぇ、ごめーんって言われたからって許せるものですか。

伊藤は五分以内だったし、俺ももしかしたら、同じようなことをしてしまうかもしれないので。


しかし、今回は違う。もう五分は過ぎ、十分になろうかとしていた頃であった。

さ~て、切れるぞ。

そう決心して、声の主の方を向く。


吠えろ!俺!

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