第8話 四月一日翡翠は見舞いに行きたい

 碧が訪ねては帰り、加奈が訪ねては帰り、真誉は再び一人で那由多の姿を覗いている。


 加奈が言った言葉の通り、本当にさっきまで起きていたかのようなその姿が哀愁を漂わせる。


 そうしてただ眺めていると、真誉は看護師に声を掛けられた。


 「明日の検査の後落ち着いているようでしたら一般病室に移ります。個室と大部屋のどちらか希望はございますか?」

 感染症のようなものがなければ基本個室ではなく大部屋なのであるが、未だ目覚めぬ年頃の女性を大部屋に移すというのはリスクを背負う。


 「個室でお願いします。」

 どのみち入院費は加害者側が支払う事になるのだから、下手に遠慮する必要もないだろうと言うのが真誉の考えだった。


 部屋の移設は夕方くらいになるとの事だった。ちょうど翌日は会社に顔をださなければならなかったので丁度いい時間潰しになると考えた。

 

 その日も真誉は病院に泊まった。

 夢は見なかった。日中に二人の知り合いと会ったからだろうか、翌朝起きた真誉は夢を見なかった事に疑問にも思わず会社に向かう準備をする。

 


 そして真誉は久しぶりに出社した。

 どうしても直接出向かなければならない処理があるためだ。


 午前中のうちに要件を済ませると、上司了承の元早退……AM年休なのだから午後に帰るのは間違いではないのだが、事務所を後にしいた。




 「あれ?真誉君もう帰るの?」

 声を掛けてきたのは真誉の1年先輩で中学高校会社とが同じである四月一日翡翠わたぬきひすいだった。

 黒髪ロングという現代日本においてはどんどん数を減らしている、古風な感じを受ける容姿である。

 四月一日翡翠は後輩である彼の事を中学の頃から真誉君と呼んでいる。

 

 他の男子、男性は苗字呼びを貫いている彼女であるが、真誉だけは名前で呼んでいた。

 だからこそ昔から彼女に好意を抱く者から真誉は要らぬヘイトを積み上げていた。


 「先輩……」


 「先輩だなんて他人行儀な言い方しないで欲しいな。一つしか違わないのに……」


 四月一日翡翠は真誉と同じ部署でもあるために上司経由で那由多の事故の件は知っている。

 他の知り合いの二人と違い翡翠の方から切り出した。



 「偶然なんだけど、私も今日なんだ。一緒に帰ろう……というのは冗談で、那由多さんのお見舞いに私も行きたいんだけど。」


 それは偏に一緒に行こうという事だ。


 「じゃぁこれからどうです?」


 答えを聞くまでもなく翡翠は真誉の横に並んで歩き出した。

 計画された邂逅だったと言わんばかりに、翡翠は直ぐに会社を出る準備は整っていた。

 

 


―――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。


 登場回のため短いです。

 仕事が朝残業になって、今日も今日とて16時半には起きるため余計短くなりました。

 3時間寝れるかな。

 翡翠の見た目は霞ヶ丘先輩が貧乳になったようなイメージです。

 

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