第14話 探し物は……
荒れ果てた部屋を掻き分けて進む。右手左手とその荷は掻き分けられ、積まれた本やゲームソフトの箱は地面に落ち、床面はさらなる荒野を作り出す。
足の踏み場もない床は更に足の置く場所すら失っていく。
それでも器用に僅かな隙間を掻き分けて、足を滑り込ませ支柱たる身体を支える。
これでもないこれでもないと目的のモノを求めて。
この部屋の持ち主は福圓真誉。
探し物は想い出。
正確には想い出の詰まった何か。
元々整理整頓が出来る人間ではなかったが、それでも少し前までは妹である那由多が定期的に発破をかけ、人に見られても困らない程度には整えられていた。
積み〇〇やタワーなどと言われる事はあったものの、今の惨状のように足を置くのも一苦労というわけではなかった。
これらのものはかつて那由多に見られたりしている。
見られて恥ずかしい内容ではないものの、片付けられない現実は恥ずかしいものであった。
那由多は発破をかけるだけでなく、時には片付けを手伝ってくれたりもしていた。
その時中身を確認され赤面する那由多を可愛いと思っていた事もあるのだが、今の真誉にそのような過去を思い出す心の余裕はない。
ただ、ひたすらに目的のものを目指して進むのみである。
社会人というよりは社壊人という造語が似合う程、今の真誉は常軌を逸していた。
鬼のような形相で積まれたものを崩していく真誉は、それこそ巨人や怪獣が人間の作った防壁を、積み木を崩すかのように乱暴だった。
那由多と一緒に整理整頓をした過去の想い出は、崩れる本やゲームの箱と共に崩れ落ちていく。
探し物は何ですか、見つけにくいものですか、鞄の中も机の中も探してみたけど見つからないのに。
まだまだ探す気ですか、それよりも想い出の中のなゆと踊りませんか、
いってみたいと思いませんか……
途中から本来の歌詞とは異なり、さらには字余りで語呂も悪いその
鬼のような表現から一転、寧ろ意識其処に非ずといった表情で口遊む。
まるで赤子を失った母親が人形を我が子に見立てて子守唄を口遊むように。
そして探し物は終ぞ見つかる。
押入れの中に、丁寧に宝物と書かれた札の張られた小箪笥の中に。
埃が掛からないよう箱に納められていたモノ。
それは、那由多がメインで映ったアルバム。
那由多の部屋にも同じ写真が納められたアルバムは存在する。
これは真誉が自分も欲しいと、両親に頼んで焼き増しした写真が納められている。
原本となるネガは那由多の部屋にある。
それでも那由多の部屋にあるアルバムではなく、部屋を荒野に変えてまで自分の部屋にあるアルバムを探して、中を確認しようと思ったのには真誉なりの理由があった。
これ以上那由多を汚したくはない。
那由多のものでナニカを汚したくはない。
それは言い換えれば自己満足。
ようやく見つけたアルバムを持ち出し、荒れ果てベッドに辿り着くのも容易ではない部屋を後にする。
もっとも、そのベッドの布団の上にも色々なものが散乱しているためそこで寝るには整理整頓が要求される。
那由多のいない今の真誉に
これから確認するのは、この中にヒントがある気がしてならないと真誉は考えていたからだ。
そう考えるに至った理由。
それは少し前に会った女性刑事、
☆ ☆ ☆
1年未満ではあるが、元彼女兼元性奴隷でる
しかし会社のアポ取りではあるまいし、簡単に応じてくれる事はなかった。
正確には取り次いでくれるように署に連絡をしたけれど、春夏冬には繋いで貰えなかった。
他に携帯電話の番号も記載されているのだから先にそちらにかけてしまえば良いものではあるが、代表の番号にかけてしまうのは社会人のサガと言えるかも知れない。
携帯電話に掛けた真誉は情報の擦り合わせや、新事実があればその情報を得るために直接話がしたいと伝える事には成功した。
春夏冬は仕事中は難しいので、仕事を終わった後でという条件を呑み、待ち合わせについて約束を済ますと電話を終えた。
待ち合わせの時間と場所は、病院と初夏冬の勤める警察署の中間くらいにある喫茶店に18時という事に決まった。
「いらっしゃいませにゃ~ご主人様。」
時間15分前となった真誉は、待ち合わせである喫茶店に到着した。
真誉が扉を開けるなり出てきたのは、ねこみみとしっぽを付け可愛いメイド服に身を包んだ店員だった。
「なんだここは。」と真誉が心の中で呟いていると、あれよと言う間にメイドさんの言葉につれられて席に着いた。
後程もう一人連れが来ると伝えられたのは幸いだった。
呆気に取られた真誉は、流されるままに注文を決める。
部屋に積んである本やゲームの箱が証明する通り、真誉もそれなりにヲタクではある。
ただ、こういった店の事は存在は知っていても、自ら足を運ぶ事はなかった。
中高と碧と付き合っている時には、こういう所に行こうという話題はなかったし一人で行こうと思うには万魔殿に思えていたためだった。
テレビで見る店員の良くわからない呪文とかがどうもむず痒く思えていたのだ。
もっと掘り下げるならば、「ばっかじゃねぇの?」と思っていたのだ。
あの呪文はともかく、店の雰囲気や店員のメイド服に関しては食わず嫌いだという事を、真誉はこの数分の間に理解をした。
新しい扉を開けてしまった気がする真秋であった。
春夏冬からは適当に注文して先に飲食しながら待ってて良いという事だったので、運ばれてきたオムライスにメイドさんお任せで絵を描いて貰う。
「お任せとは言ったけど、なぜメイド悪魔?」
萌えペンケチャップで描かれたのはメイド服を纏った可愛い悪魔だった。
良くこのスペースに描けたなと言わんばかりの秀逸な絵は、崩すのが勿体ない程の出来だった。
「気が沈んでるようでしたので、それを悪魔に見立てる事で食べて消火する事で昇華し、邪気を祓ってしまいましょうという事です。メイド服は……趣味です。」
真誉は思わず勿体ないと想い写真に納めた。
勿体ないとは思いつつも、真誉はそのメイド悪魔を那由多を絶望に落とした正体も分からない犯人に見立てて突き刺し、ぐちゃぐちゃにかき混ぜてそれを口の中に入れる。
奨励される咀嚼回数を繰り返すうち、味がわからなくなってくる。
口の中に入れた時は美味しく感じていたのに、咀嚼を終え飲み込む時には何を噛んでいるのかわからなくなっていた。
それでも疑似犯人をめちゃくちゃにしてやったという、些細な達成感のような高揚感のようなものを僅かながらも感じていた。
食べ終わり、食後にコーヒーを飲み始めた頃、春夏冬は店に到着した。
「お待たせしてごめんなさい。」
ビシっとした恰好をして現れた春夏冬は若干高揚しており、少し汗を浮かべていた。
呼吸も少し乱れており、急いで店まで来た事を表していた。
春夏冬は席につき注文を終えると、呼吸を整えるための深く呼吸を繰り返す。
やがて呼吸に落ち着きを取り戻すと、結わえていた髪を解き眼鏡をかけると真っ直ぐに真誉を見つめた。
「機密事項は話せないけど、これからはプライベートな時間なので世間話でもしましょうか。」
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後書きです。
少し前話がNTRや暴露宴とかの雰囲気に持っていかれそうだったので、方向修正に入りました。
殺伐としたという意味では大差はないのかも知れませんが、本作にエロは重要視されておりません。
目的のために寝たとか、手段のために寝たという事はあっても、掘り下げる必要はないので。
今話の前半は春夏冬と別れてから一度帰宅した後であり、後半から次話はその春夏冬との邂逅となります。
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