第19話 ネバーギブアップ1500円

 警察署内……

 今日も変わらず資料やビデオを確認している春夏冬刑事。

 那由多を押したとみられるサングラスの人物がどこから来てどこへ向かったのか。


 流石に街中すべてに監視カメラがあるわけではない。

 それでも見えてくる事はあるはずだと、真誉と世間話をしたあとも繰り返し確認していた。


 「!?これは……」


 春夏冬が声を挙げた。

 それはとある裏路地へと続くカメラ映像。

 事故が起きた時の時刻は17時20分。


 カメラ毎の時刻のズレはあるものの、現実との時刻のズレはカメラ毎に確認している。

 実際の時刻で言えば17時5分頃。

 

 あのサングラスの人物があの路地から出てきていた。

 曲がり角はあるものの、あの交差点までは繋がっている。

 普通に歩けば5分もかからない事は確認済であった。


 放心状態の那由多が歩いても20分はかかっていない事もカメラ映像からわかっている。

 それも同じ速度で歩いて自身で実証済であった。


 このカメラ映像をもう少し早く入手していれば……

 そう思ってしまう春夏冬であった。


 あの路地から最初に出てきたのは16時57分、数人の男達だった。

 そのままコンビニに入って15分程度時間を潰している。


 コンビニのカメラも確認しているのでそれは間違いない。


 男達が出て行ってから約5分後、那由多が路地をゆっくりと出てきているのが映っている。

 そしてそのまま目も虚ろなまま、那由多は件の交差点まで約20分かけて辿り着いてた。


 那由多が路地を出たのは17時3分だった。

 そして17時5分、件のサングラスの人物が出てくる。


 そこから導き出されるのは、この人物も強姦現場にはいた事が濃厚であるという事だった。 


 しかし、春夏冬が注視した点はもう一つあった。


☆ ☆ ☆




 「大好、待ったか?」

 真誉は既に待ち合わせ場所に立っている大好加奈の姿を発見し、右手を上げて声を掛けた。



 「先輩を待つのも後輩妻の務めですよ、なんちゃって。先に到着はしていますが着いたばかりですよ。それにお兄さん先輩も時間には間に合ってますし。」

 誰が妻だと真誉は思ったが、いつもの事なので言い返したりもしなかった。


 「ところで、わざわざ私を呼び出すなんて珍しいですね。お兄ちゃん先輩を1番に登録しているのに1番かかってくる回数が少ないんですもん。」

 誰が誰を何番に登録するのも自由だけど、電話をかけるかけないも自由だろうと真誉は思っている。

 大好は那由多の同級であり友人なのだから、恋人でもなければ同じ部活でもない真誉が電話をするなんてものはほとんどない。

 

 立ち話もなんだからと、女子高生に人気のカフェへと入る二人。

 大好が駄々を捏ねる前に真誉から誘った。


 「ナニコレ。」

 名古屋のねこカフェでは有名であるが、バケツサイズのパフェを頼んだ大好加奈。

 届いたパフェを見た真誉が思わずナニコレというのも無理はない。


 「おま……一人で食べられるのか?」


 「もちろん……無理です。」

 無理なんかいとツッコミたくなる衝動を抑えている真誉。


 「もちろん、食べきれない分はおにいちゃん先輩が食べてくれると信じてます。それにほら……関節キッス?じゃない間接キッス?になるかなぁって。」

 真誉は関節にキスはしないし、間接キスをする予定もないぞと喉まで出かかる。


 本意ではないが、真誉はネバーギブアップもどきと顔を並べた大好の写真を撮影した。


 「大好、これ一人で食べきったら同じのもう一つ奢ってやるわ。」


 「やたっ、お兄ちゃん先輩。男に二言があったらタンスにゴン飲ませますからね。」

 誰が巧い事言えといったと真誉が返すと、大好はにこやかに微笑を浮かべて一口目を頬張った。



☆ ☆ ☆


 「うぷっ……う、産まれる……」

 なんだかんだで全て一人で食べきった大好はお腹を押さえながら満面の笑みで妊婦を演じていた。

 真誉がそのお腹を見ると、確かに少し膨れているのがうかがえる。


 「お兄ちゃん先輩……女の子のお腹を見るのはセクハラですよ。」 


 真誉もまさか本当に食べきれるとは思っていなかったので素直に感嘆していた。

 決してやましい事は考えていない。


 大好が小さい身体に似合わず大喰らいな事は知っている真誉であったが、バケツサイズのパフェを食べきるのは想定外であった。

 最初は美味しく感じるパフェも、段々と生クリームがしつこくなり、数多くあるアイスがお腹にダメージを与えてくる。


 真誉も昔本場名古屋に行った時に食した事があった。

 その時完食こそ出来たものの、10分も待たずにトイレの住人と変わり果てた。

 上からか下からかは、名誉のために自供するまでは闇の中ではあるが。


 「た、食べきったのでしゃ、写真を……」

 苦しいのを耐え、無理してでも笑顔を作る大好加奈。

 お腹が膨れ、ワイシャツが少し湾曲しているところはひた隠していた。

 

 「おう。じゃぁいくぞ、3、2、1……」

 カシャカシャカシャ……と連写にて応えた。

 

 「じゃぁ、今度また奢ってくださいね。というわけで私はお花摘みに……」

 言い終わる前に、歩き辛そうに内股になった大好はTOILETと書かれた方へとぎこちなく足を勧めた。

 


 「上からか下からかわからんけど、出してきたのか?」


 「乙女にそういう事いうものじゃないですよ?」

 お腹をさすっているのでなんとなく察する事が出来る。



 

 「剥いて確認してみます?」

 スカートの裾を摘まんでパタパタを仰いで太腿を見せつけている。


 「しねーよっ。痴女かっ、後輩痴女かっ。なんかついてるパンツ見てもしょうもないわっ。」



 「うわっサイテーですね。そんな間に合わないとかオウンゴールとかしてるわけないじゃないですか。」

 下品な話になるが、間に合わないとは文字通り。

 オウンゴールとは自らの排泄物が手に付いたり、跳ね返ってきたものが付着していたりする事を指す。


 どちらにしても女の子に対してする話ではない。


 「パンノーですよ。」

 それはそれでタチ悪いわっと大声で叫びたい真誉であった。

 パンノーとはノーパンの事を指していた。




 「それで、本題に入って良いか?食べる方に意識が行ってすっかり忘れそうになってた。」

 真誉は普通サイズのチョコレートパフェを普通に食べ終わっている。

 約30分かけて大好は食べきったが、真誉は5分とかかっていない。

 殆ど大好が食べている姿を見ているだけだった。


 「え?これまでの事が本題ではないんですか?可愛い後輩とのネバギデート?」

 大好の元からはバケツはなくなっている。

 厠でがんばっている最中に店員がお茶と交換していた。


 「ギブアンドテイクなのはいつの世も常だろう。俺の頼みを聞いて貰うためのここの奢りなんだから。」


 「それをデートと呼ぶのでは?」


 呼ぶ……のか?と真誉は自問する。


 「大好、お前は結構な人気者だよな。という事は顔が広いよな。」

 急に真面目な表情になって真誉は問いかけた。

 大好もその表情が嘘のものだとは感じていないが、返答は少しおちゃらけたものになってしまう。


 「お兄ちゃん先輩が嫉妬するくらいには人気だと思いますよと自分で言ってみるテスト。」

 真誉はそんな大好の振りには華麗にスルーする事にして、話を進めていく。

 


 「学校で、今年度から新調された生徒手帳を再発行した人物がいるか調べて欲しい。もしくは失くしたという人物がいるか調べて欲しい。」

 二度ほど目をぱちくりぱちくりとして、真剣な眼差しを返していた。

 


―――――――――――――――――――――――――――――

 後書きです。

 春夏冬と真誉はそれぞれの観点で調べていきます。

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ツグナヒ ー救済と復讐の天秤- 琉水 魅希 @mikirun14

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