第16話 たくさん遊んでもらっただろ !?


Bランクパーティーのエルフリーデはゴブリン狩りにやって来た。


 メイは数頭のダークウルフに囲まれて簡単に倒されてしまった。それを目の当たりにしたコットンは腹を決めた。


まず、コットンはこの中で一番ヤバい雰囲気を持つ魔狼に斬り掛かろうとしたが、もうその場に魔狼はいなかったんだ。目で追えないほどのスピードだったのか ?


背中がゾワッとした。

コットンは猛烈にヤバい敵と出会った時の感覚と、同じ感じのイヤーな頭の傷みが生じたのだ。

本能が警戒しているのだろう…… 敵わないぞ。やめておけと。


マーガレットとセーラは一進一退でハイゴブリンと攻防を繰り返していたのだが、ゴブリン達は非常に連携がとれているんだ。

位置を変えながら、守りを固めながらも、上手く攻めてくるのだ。


それでも二人は、敵が押し寄せて来る、不利な状況を打開しようと、全力で足掻あがいた。

 魔法戦士セーラはとうとう自身最大の魔法、アイスサイクロンを放った。


精一杯引き付けて至近距離から放たれた強烈な氷魔法は、下っ端ゴブ人達に向かっている。

凄い魔力が込められていた。氷のやいばが渦巻き状に凄いスピードで荒れ狂っているのだ。

彼らに直撃すれば、ただでは済まないだろう。


「下っ端たちが受ければ即死だ、この魔法はマズイぞ !!」


そう言った銀さんと、それを聞いた犬耳族シンジが彼らの前に出て、その身を盾にして下っ端ゴブ人達を守ったのだった。


しかし、直撃した二人は、とてもひどいダメージを追ってしまったんだ。


身体中から出血し、所々、大きく肉が裂けてしまっているように見える。

防御力の低いゴブ人だったら、この程度の怪我では済まなかっただろうね。


「大物をやったわ !!! 今がチャンス、畳み掛けるわよ !!」


深いダメージを負い、膝をついているリーダーらしき二人を見て、マーガレットは追い討ちをかける。


銀さんとシンジは傷付いてしまい、その攻撃に全く対応できなかったのだ。

スピードを重視した彼女の攻撃は、しかし、ギリギリのところで、ハイドが受け止めた。


そして、銀さんとシンジに守ってもらった下っ端ゴブ人たちも二人の前に出て、今度は自分たちが盾になろうとしていた。



その頃、メイを倒したダークウルフ達は何をしているかというと、敵を簡単に倒してしまい、目標を達成したことで、

「歯応えないな」「敵討ち良ーーし !」「褒めて、褒めてーー !」「ねえ次、何して遊ぶー ?」


という、まとまりの無い感じで、緊張感など、どこかに飛んでいってしまったようだった。


 なんと、チョウチョを追い掛けている強者もいたんだ。

 その強者は…… 、 、 、 、


 ウルタだった……


 おいおいおい !


 お前の為にコイツらみんな、頑張ってるんじゃ無いのかーーーーい ???


まぁこれも、仕方がないだろう !?

彼らは素晴らしいスピードとパワーの持ち主なのだが、知力はリーダーのウルボスでさえ、小学校低学年並みなのだからね。


しかしその時、ゴゴゴゴーーーー !! という音と共に、アイスサイクロンの氷の刃が仲間の銀さん達を傷付けると、流石さすがにゆるゆるなダークウルフ達も、少しは緊張感を取り戻したのであった。


そして、ウルフ全員が集合して又、ワウワウし始めたんだ。


「又やられたな」>「アイツやったな」>「アイツだな」>「やって良くね ?」>「良くね ?」>「てか、コイツらもう皆、やって良くね ?」>「皆か ? 」>「どーする ?」


などと、ゴタゴタして行動を決めかねていると、

「ワオワオーーーーーーーーーーーーーーー !!!!」


コタローが吠えた !


するとダークウルフ達は一瞬でピリッとして、マーガレットとセーラの方に向かったのだ。


この変わりよう !! のんきでゆるゆるなダークウルフたちも、際立ったリーダーシップを持った魔狼コタローの鋭い気迫のこもったひと吠えで戦闘モードに切り替わったのだ。

コタローの指示は敵を倒せ ! 食べるなよ ! だった。


深いダメージをを負った銀さんとシンジは、メイヤに回復魔法を掛けてもらって、何とか冒険者と向き合っていた。


そこにウルボスたちがやって来て、冒険者を囲みにかかっていた。セーラは何とかしてそれを防ごうと、囲まれる前に、近くに来たウルフの集団に向けてアイスサイクロンをもう一発、放ったのだ。


しかし、彼女の最大の魔法は、ウルフの風魔法によって簡単に弾かれてしまったのだ。


「そんなっ、バカな ! 私の最大の魔法がそんなふうに軽くあしらわれるなんて…… 」


それと同時に、さっきまでは人と戦うことを躊躇ためらっていた銀さんがエルフリーデと戦うことを決心して、セーラの前に再び立ちふさがったのだ。


「これ以上仲間を傷付けられる訳にはいきませんので…… 」


銀さんはとてつもないスピードでセーラに迫ると、彼女に斬られたことも気付かせないうちに斬り払ったのだ。


なんと、銀さんは一閃でセーラは倒してしまったんだ。

銀さんは人と戦うこととの葛藤を、自らが大怪我を負ったことで乗り越えたんだね。


覚悟を決めた銀さんは強かった。

ウルボス達のサポートを受け、続けざまにマーガレットの方へ向かった。


マーガレットから見ると、自分と同じくらいの力を持った、多くの魔物に囲まれ、すでに絶体絶命の状況だった。ウルフが歌い出せば、まさに四面楚歌だ。彼らなら出来るかも知れない !?


もう、どうしようもない、一頭でも強敵のダークウルフが数え切れない程いるのだ。

おまけに今、つばぜり合いをしているハイゴブリン(ハイド)にも、気持ち押されている。


目の前にはゴブリンが5体、上位種3体、ダークウルフはものすごく多数でどうしようもない。このままゴブリンにエッチなことをされるのか ?


「イヤーーーン !!! ゴブリンにヤラれちゃうなんてイヤよーー !!」


それともウルフに食べられてしまうのか ? こうなると自分の近い未来を、嫌でも想像しまう ⤵⤵⤵⤵


良く見ると、目の前のハイゴブリンは、意外とかっこ良い、細マッチョだった。

ゴブリンよりも、できればこの人かあの人が良いわね !? などと思っていたんだ。

この娘、こんな状況で…… なかなか余裕あるな !?


メイヤは火魔法を、ウルフは風魔法で銀さんを援護する。

しかし銀さんはハイドを下がらせると周りのサポートを受け、マーガレットを一刀のもとに斬り捨てた。


「ああああ~~~ !! イケメンゴブリンにヤラれちゃった~ !!」


マーガレットは誤解を受けそうな悲鳴をあげて倒された。



一方コットンは身動きがとれず、魔狼と対峙していた。

仲間はすべて倒され、最後に残ったのは最早もはや、自分だけだった。


こうなってはもう、まったく勝ち目は無かったけれど、たとえ死んでも一太刀でも返してやりたい、という気持ちになってしまったんだ。


熱くなっては、冒険者としては失格だった。

するとその時、魔狼は彼女の心に語りかけたのだ。


"娘よ。意地を張らずに仲間を連れて引くのだ !! 命を大事にしろ !"


コットンは、もう随分と前のことだけど、おじいちゃんに、こら ! と怒られて、頭にゲンコツをもらった時の感覚を思い出して、頬に涙がこぼれたのだった。


いつもは勝ち気なムスメだが何故だかこの時はすぐに、「うん、分かったよ」と、素直に答えたのだ。


それから仲間を連れて、ゆっくりと帰って行ったんだ。気が付けば倒された仲間には回復魔法の応急措置が施されていて、命に別状のある者は一人もいなかった。



ウルボスが「アイツはいいのか ?」と聞くと、"たくさん遊んでもらっただろ " と、コタローは答えたんだ。

自分の認めた者に意見されると素直に聞き入れるウルフの習性だから、ウルボスはワウワウ言ってすぐに納得していたね。


冒険者達が引き上げるのを見守ると、彼らは何事も無かったように狩猟を続け、ダークウルフたちとコタローは、里へ帰って行ったんだ。


余談だけど、「もう少し銀さんたちと一緒に遊びたいよーー ! 」などと言っていた、お騒がせなウルタはコタローに強制連行され、"オマエ1週間肉抜きな !!"と言われてから、自分のしでかしたことの重大さに、やっと気がついたのであった。



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