第7話 美獣人を撫でてみたら……


古ぼけた小屋の盗賊を捕縛すると、奥の大きな檻の中には犬耳族5人と狐人2人が囚われていたんだ。 

 みごとにそのまんま、コタローの予見通りだったよ。


 たしか、臭い奴8人、犬5匹、キツネ2匹という見立てだった。ただ、臭いのは盗賊だろうと思ったけど、犬とキツネは盗賊の仲間だと思っていて、まさか囚われの獣人とは予想できなかった。


それにしても、この子たちはヒドく衰弱しているようだ。手遅れになる前に救い出すことができて本当に良かった。相手は盗賊だ、あと幾らかでも遅れていたら、女の子などは何をされていたか分かったものじゃない。


 ガチャ・・・・・ガチャガチャガチャ✕✕✕

 

 サビサビの汚れた牢の入り口は壊せそうだけど、グッと力を込めて押したり引っ張ったりしても、なかなか壊せない。見た目と違って案外しっかり作ってあるようだ。


 ここは仲間の内で一番力持ちの、元ゴブリンジェネラル、金さんの出番だ。

 「金さーん ! 頼むよ」


 たくましくマッチョな金さんと交替して、グワッとパワーを注入すると、 


 「ふんっっっ !!」


 “““グワキバッッッキン””” 


 大きな音とともに扉が開いた。


 スゴい ! スゴすぎる ! 強烈なパワーだなぁ ⁉⁉ 

 敵にまわれば恐ろしいけど、逆に頼れる人が仲間にいると思うと、ホントに心強いよ〜 !

 若干誇らしげな金さんが道をあけて、僕に道をゆずった。


 「我々では恐怖に感じるかも知れません。ここはどうかボス、お願いします !」


 う〜ん、それはそうかも知れないね ? ゴブ人たちは、ずいぶんと人っぽい身なりに変わったけど、ゴブリンの面影はまだ幾らか残ってるし、たくさんのダークウルフ達も恐ろしいだろうね。


 「もう大丈夫だよ !!」


 それらをふまえて僕は、精一杯の笑顔で優しく話しかけた。


「あゝ、助けて下さりありがとうございます。このご恩は絶対に忘れませんっ。あなたは…… ?」


 「僕はリョーマだ。今出してあげるからね」


 「私はリリホ、この子は妹のナナホです ⁉」


 狐人のリリホは少し声を震わせながら応えた。

 実は、二人は身を潜めながら、僕らと盗賊とのやり取りも全てをじっくり見ていたんだ。

 だからボクらの心配とは裏腹に、彼女たちはすでに救われたコトを大きく実感していようだ。


 というのもそもそも、獣人族の彼女たちはテイムマスターの僕に対して、ひと目見たその時から、絶対的な信頼を感じていたんだ。


 「うええん、お姉ちゃん。恐かったよ~ !! もう……  もう、助からないかと思ったの !」


 「大丈夫だよ、恐かったね !」


どうやら、狐人の姉妹は捕まったばかりだそうで、精神的には厳しくて弱っていたけれど、言葉はハッキリとしていたし、何とか気持ちもキレてないようだった。


「君は少し衰弱しているね ! それなら、回復魔法をかけてあげようか !?」

「そのような高尚なものを…… 私なんかに、良いのでしょうか ?」


「全然いいよいいよ ! いくよ ! ……ヒール !!」

「ええっ ?? なにこれ ? すごく気持ち良い ! あっ ! んっ ! あ~~〜~ん !!!!!」


僕とリリホの間に金色の粒子が揺らめいて光ったと思ったら、なんの予兆も無しにリリホはテイムされていた。

  

 〜〜〜〜〜実は気付いてなかったんだけど、テイムマスターになってから僕が獣人に回復魔法を掛けたのはこれが初めてだったんだ。

その優しい癒しの魔法を全身に浴びたのだから、気持ち良さに軽く声がもれてしまったのも無理はなかった。


リリホはヒールを浴びる前からジーンと身体の奥から痺れるようなものを感じていた。実はこの姉妹は非常に義理堅い性格で助けられた瞬間からとっくに心を許していたのだ。


 リリホなどは、僕のことを助けてくれた王子様のように思い、もう一生ついて行きたい、恩返しをするのだと心に誓っていたほどだ。ヒールは切っ掛けに過ぎず、テイムされたのも必然のことだった。〜〜〜〜〜


 


そして、続けてナナホにも回復魔法をかけてあげると(あくまで善意で)お姉ちゃんと同様に軽くテイムされてしまった。


僕にとってテイムは予想外だったけど、狐人のとっても可愛い女の子、リリホとナナホの姉妹はとにかく体力を回復した。そして、安心させてあげようと、頭をナデナデしてあげたんだ。すると……


「あああ~~~~ !!!」


「いやーーーん !!」


二人の、突然のうめき声にビクッとした。


マズイ、何かアカン事をしてしまったか ???

でも、特に思い当たるようなヤバい事は無かったよな。


「あっ、んんっ、ジンジン…… するけど、だ、大丈夫です。こんなの初めてで…… スゴいお力ですねリョーマ樣 !!」


実は、テイムマスターになってから、今初めて獣人に触れたのであった。


ただ、目の前に居るだけでも多大なチャームを放っていたのだ。だとすれば、それに直に触れられれば、とてつもないチャームが直接吸収されるのは、少し考えたら自明の理である。


どういうことか説明すると、頭を撫でた時に無意識で相当な魔力が手の平から漏れ出てていたのだ。そうなれば、姉妹の頭から、心地よい魔力が身体じゅうをビリビリと駆け巡り、声をおさえられない程の快感を与えてしまったのだった。


立て続けにリョーマの攻撃を受け、リリホとナナホはどうしようもなく無駄に気持ちいい思いをしてしまったということなのだ。


当の本人である僕は狐っ娘の火照った様子には気付く事もなく、続けて犬耳族の5人に回復魔法を掛けていったんだ。


犬耳族の兄弟姉妹たちにも次々と快楽を与え続け、ヒールだけでも体力は随分取り戻せるはずだけど、この3人はまだぐったりしているな。おかしいよ ? どうした ? かなり具合が悪そうだぞ。


「くうっ ! 助かった、ありがとう、俺はヨシキだ。俺なんてどうでも良いから兄弟たちを助けてくれ !! 頼むよリョーマ !」


「私はレミです。私からもお願いします。今はお金も何もないけれど、何でもしますからお願いします !」 


「ああ、大丈夫、任せてくれ。僕に出来ることは何だってするよ !!」


「「お願いします !!」」


「金さん、犬耳族の3人が回復魔法を掛けても少ししか体調が戻らないんだ、見てくれないか ?」

僕はそれほど病気には詳しくなかった。この中では金さんが一番頼れるだろう ?


金さんが彼らの体を診てみる。顔色や脈拍、呼吸の様子を見て、更に、首や頬っぺたに手を当てて、元気になった者と比べているようだ。


「まずいデスね。すごい熱だ。何らかの病気のようです。病気の場合はヒールの魔法では治療出来ません。その上ハイヒールでも微妙でしょう。でしたら、我々のアジトに運んで看病した方が良いかもしれませんね ?」


しかし、ハイヒールを使える者は使い魔の中にはいなかったんだ。


「そういえば、ショーキの町では疫病が流行っていたようだよ。もし、疫病だとしたら、これは生死に関わるぞ !!」


 犬耳族の5兄弟は囚われの身になってから、もう何日も経っていたんだそうだ。だったら、体力も相当に消耗しているだろう。

まず、病気の子達をおぶって金さんの洞くつに運んだんだ。


そして、捕縛した盗賊達はウルボス達に頼んで、背中に乗せてショーキの町まで運んで、町の入口辺りに捨てて来てもらったんだ。

もちろん、ウルフたちは帰って来たらたくさん褒めてあげたよ。


金さんの指示で彼の取り巻きたちは盗賊のアジトを捜索して、金目のものを集めてきた。それなりに溜め込んでいたそうだ。後で聞いたのだけど、それらは今後の活動資金にまわした。


 今は病人が生死の際に立たされていて、それどころじゃなかったから、捜索は下っ端たちに全て任せることにしたんだ。


それから元気になった子、4人に軽いご飯と水を用意した。

この子達の体調はひとまず落ち着いたんだ。大丈夫そうで良かった。


「落ち着いたら、家まで送ってあげるからね !」

助けた獣人族の子たちに言った。


「私はご恩を返さないと帰れません。だけど、この子はまだ若いので送って欲しいですが…… 」

「私もお姉ちゃんと一緒に私も恩返しするもん !!」


 「そんなこと気にするなって。見返りが欲しくて助けた訳じゃないよ ! だけど、盗賊のアイツらは許せないな ?」


「僕達は…… 今は兄弟と居たいけど贅沢は言わない。何でもリョーマの言われた通りにするよ」


 「重い重い !! まずは元気になることを考えるんだ !」


とにかく今は、病気の子達を最優先にしたんだ。とりあえず、全員ここに残ることになった。

このまま、夜中まで交代で看病をした。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ボス !! 二人はまだそれほどひどくないけれども、この子、シンジはまずいぞ。体もスゴく熱いし衰弱が激しい。何度も寝返りを打つのは相当苦しいんだよ。今夜が山だぜ!」


「そんな…… そんなのひどいわ ! あっ、教会で治してもらえないんですか ?」


「レミ、そこの町の教会は腐敗してるんだ。僕達冒険者も大金を払わないと、診てもくれないんだぜ。君達には申し訳ないけど、獣人なら金貨20枚は積まないと、あいつらは動かないんだ」


「2じゅ…… そんな……  じゃあ、じゃあ弟は ?」


「…… 」


「まずいデスよボス、どうしましょう ? どこかに金さえ積めばどんな病気でも治してしまうスーパードクターとか、本気で身元不明の人が銃で撃たれてもすご腕で助けてしまうモグリの医者とか、知りませんか ?」


「そんな、都合の良いマンガみたいな医者なんているわけないじゃな…………   あっ、あっ ? ある ! あるぞ ! 噂で聞いた…… ここから近くだ。町から出てすぐの森の里に名医がいると聞いた……   金さん銀さん、知らないか ?」


 銀さんが答えた。 

 「その里なら分かる。ダケド、医者なんてイルカ ?」


「本当に ?」


「まずは行ってみないと分からないか ? うーん、コタローとウルボスと一緒に行けば連れて来れるか。いや、来てくれるかもしれないな ? だとしたら僕らにはわずかな望みでも、そこに賭けるしかないよな !」


「お願いします !!」


既に夜半過ぎというかなり遅い時間だけど、人の命には代えられないからね。

そこで、僕ははまず最初に、コタローとウルボスに森へ出ることを伝えたんだ。


準備ができたらアドレナリンを全開に分泌させて、アジトを出て行った。


そこに待っていた銀さんと、約半数の夜番ダークウルフと共に、急いで進んだんだ。


 ウルフの連中は基本夜行性だから、こんな夜中でも眠いウルフは居ないものなんだけど、最近では僕やゴブ人(ゴブリンから僕にテイムされて進化し、人間に近い見た目になった者のこと)に付き合ってお昼に出歩き、昼夜逆転したウルフが増えたんだよ。


 その子たちはきっと眠っていたかもね !

 そんなウルフと共に暗闇の中をできる限りの速さで疾走した。


 ちなみに、こんなことは魔狼であるコタローだからできる芸当だ。ウルフたちはその後をついて行くのがやっとで、眠い目を擦ってる子は置いていかれそうになっていたよ。まさかウルフに限って迷子になるなんて事は無いだろうけど……


目的地はそう遠くない。すぐにショーキの町の外れの森に来たぞ。やがて間もなく銀さんの案内と、コタローの嗅覚で、人の住む土地をすぐに見つけたよ。


 さて、見つけたのは良いけど、入り口はふさがれているようで、取り次ぎの人も見当たらなかった。

 こんな夜中にかなり申し訳無いけど、外壁に登らせてもらうしかないようだ。


 「皆はそこで待っててね !」

 「バゥ」「バゥ」「バゥバゥ」「バゥ」「バゥ」「バゥン」


 さすがにコイツらと外壁を乗り越えて行ったら、夜襲さながらだからマズイよな ?


 壁の上から町の中を見下ろすと、何やら長方形でものすごく大きく、見たことも無いような建物 ? が幾つも並んでいたんだ。


"あの中に人がたくさんいるぞ" 「いるいるー !」コタローとスラクは言った。


 コタローは僕を乗せたまま、かなりの高さの外壁から、スタタッッと着地した。


そして、そうか医者はここにいるのか ? なんて思っていると……


「こんな夜中にとんでもない数の魔物を連れて何の用だ ?」


 突然真っ暗な闇の中から突然話し掛けてくる人がいてビックリしたんだ。

その人はどこに居るのかわからないのだけど、その声には気が込められていた。


「僕はリョーマといいます。ちょっとお邪魔しても良いでしょうか ?」


 「おいこら !! とっくにお邪魔しといてから、お邪魔しても良いですかっていう、新しいギャグなんか ? おかしいだろが ?」


 「申し訳ありません、仲間が急病なんです。無礼はお詫びします !」

そこまで言うと僕はコタローから飛び降りてひざまづいた。


「信じられんな、真夜中にダークウルフの群れなんか連れやがって。そっちの男もただのハイゴブリンじゃねえだろ !! 小さな町なら壊滅する集団じゃねえかよ。帰れ帰れ !!」


「僕の問いに、信じられるか信じられないかと言うことは、あなたは医者だということでしょう ?」


「馬鹿か ?! なぞなぞじゃねえんだ !!」


「そこを何とか…… お願いします !!」


「おいおいトビ、その人は嘘をついてないよ。人を信じるところから始めないと、心がギスギスしてしまうぞ ! ああ、僕はケータです。よろしくな !」


建物から出てきた若い少年が片手を挙げて話し掛けながら僕のすぐ前まで、つたたたたっと、やって来たんだ。


 なお、最所に話しかけてきた恐そうな声の人とは打って変わって、とても優しそうなお兄さんだ。


すると、次の瞬間にはぬうっと暗闇からにじみ出るようにして鋭い目の男が現れ、僕とケータというお兄さんの間に割って入った。


それは相当上位の隠密の技だった。

〜〜〜お前らが攻撃するようなら盾になる !〜〜〜  例えるならば、トビと呼ばれた男はそんな感じの決死の態度をとったんだ。

すると銀さんも身構えて、一瞬の緊張が走る……



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る