第21話 前友 困った 人生最大の難関だ
ラビアンローズの一行は森を抜けた沼地まで行きブルーゲーターと向き合ったその時、ボルトを強烈な腹痛が襲った。
「うぐぐっ… 」
なんてことだ ! もう魔物は目の前なんだ。ヤツラは用を足すのを待ってくれなどしないのだ。
「たーーーー !
てやーー !
くあーーー !! ぁっ…… くうー !」
ポルトは限界に近い腹を左手で押さえ、前屈みになりながら歯を食いしばってゲーターを斬った。
きつい ! マジできついぜっっ !!!
いつもなら楽々一撃で倒せるっつーのに。
なんと、3回も斬ってやっとのことで倒したんだ。
剣にいつものキレは見られない。
「どうしたんだボルト !! そっちを援護しようか ?」
その様子に、ポトスとエメリアが心配して言ってくれたが、こっちに来られては困るのだ。
もう限界のこいつがもしもの時にばれてしまうからな。
「ぃらん… そっちを助けてやれ !」
クソー、本当はメチャクチャ助けてほしいのにーーー !!
腹に力が入らないんだ。クソー !!
限界が近いけれど、美女達に、下痢で腹が痛いとは言えないんだ !
ここでやらねば男が
思いっきり斬り込めない。
いつもの惚れ惚れするような見事な足さばきも見られない。
6.5:3.5で前傾した、美しく理想的なバランスの平正眼の構えは見る影もなく、ベタッと両のかかとを地につけてしまっている。
そして、腰の入っていない腕だけのぬるっとした振りだが、これが精一杯だ !
「ギィヤアァアアー !!! ……イタタッ !」
腹が、きつい。
だが、何とか……
何とか、2匹目を倒したぞっ。
やや離れた向こう側からは、ポトス達が、
「今日のボルトは何だかキレキレで格好いいわね。」
などと気安いことを言っているのだが、もう彼の耳には届いてなかった。
彼は今、とてもそれどころではないんだ。
今こそ、まさに人としての限界を越えようとしているのだ。
「ギ、ギ、グアアアアー、ヌオオオオオー !!
さんびき、めぇーー ! 」
もう、だめだあああ、ああぁ……
と言いながらも、ぎりぎりのフチで堪えていた。
しかし、なんということだろう。最悪のタイミングで、目の前からブルーゲーターの水魔法が放たれた !!
「こっ、こっ、こっ、こっ、これは、いかあああああああんっ !!!!!」
(☆注☆) ここから30行程度、ボルトの身にたいへん見苦しい事が起こります。お食事中の方や苦手な方は少し飛ばしてお読みください。
これは避けられない。避ければ、出る。100%出る !!
しかし、しかしだ、避けなくても魔法が直撃したならば、やはり耐えきれない気がするうううーーー !!
このままでは、避けても避けなくても、ミッションをコンプリートすることができないでは無いかあーーー !!!
俺はどうすれば ? いいんだー ?
ボルトがアレコレ考えているうちにドンドン魔法が迫ってきた。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーー !!!!!」
しまっっったーー !! 反射的に避、け、て、し、まっ、たーーーー ‼‼‼‼
武人としての本能かあ ?!
アレは、避けずにはいられないぜ。
だが、だが、大変だ ! アレを避けるためにムリな動きをしたせいで、パンツがアレな感じだ。
困った、人生最大の難関だ。
俺の愛する人達にバレてしまうぞ。
どうするどうする、どーおーするう ???
こうなったら、どうとでもなれーー !!
「ウオーーーー !!」
ボルトは大声を上げて渾身の力でゲーターを斬り、そのまま沼地に突っ込んだ。
全身がドロドロになってズボンもパンツもシャツも脱げたことにしたのだ。
かつてない早業でズボンとパンツを脱ぎ、ゴシゴシと泥で洗った。転げ回って、魔物と戦いながら泥でゴシゴシと何度も洗ったのだ !
さっきまでは脂汗を垂らし、腹の痛みをこらえながらヨタヨタとした鈍い動きで戦っていたボルトだったけど、パンツがアレになってしまったお陰で、スッキリして腹の痛みは消え去った。
彼は最後の気力を振り絞って動いていたのだ。
そして、脱げたシャツを下半身にあてがい、魔物と向き合ってあっという間に倒したのだ。倒した後もそのまま沼地に入り込み、泥まみれになった。
見事に全身泥まみれだ。
ボルトはとうとうヤリきった。凄い男だ。しかし、もう満身創痍だった。これ以上は無理だ !
彼は何やら果物を絞った後の絞りカスのような、青白い顔をして疲れ切っていた。
実は、こうした突然の腹痛や下痢は度々あったのだ。
自然に自生するものや獲物の調理。これらには菌や毒の危険がある。
今まではすべてリョーマがこなしていた。残ったメンバーは手伝うことも無かったから、未経験で完全にシロウトだ。
簡単そうな水だけでも恐ろしい破壊力を持っている。
これも、リョーマを追放した祟りのようなものだろうか ?
彼の他に衛生管理ができる人はいないのだから、こうなるのも自明の理といえるだろう。
そんなこともつゆ知らず、壮絶な戦いを終えた帰り道、ボルトはポトス達の懸命な介護により少し精気を取り戻した。恐るべき回復力だ。
するとあろう事か、隣にいたルイにちょっかいを出し始めたのだ。
「ルイちゃん ! 元気かい ?」
(コイツ、さっきまで壊れたカカシみたいな顔をしてたのに、もう復活したって言うの ? 信じられないわ。
あああっ ダメ ! どうしても気持ち悪いわ ! もうどうしても耐えられない ! 我慢してたけど、前にリョーマから受けたアドバイス通りに、うわべじゃ無くて本音をぶつけてみよう !
上手くできるだろうか ? 心配だ……)
「気持ち悪いよぅ ⤵⤵⤵⤵⤵」
「大丈夫かい ? お腹の調子でも悪いのかい ? どの辺かな♡♡? えへへ♡僕と一緒だね♡」
「その猫なで声が気持ち悪いんだよっっっっっっっっっっっっっっ !!!!!」
ゴゴゴゴゴォォーーーーー
パーティー内に凄まじい衝撃が走った。全員が注目する。
しかしだ、ボルトには他のメンバーたちとは別の意味で衝撃が走った。
脳天から足元までを雷で貫かれたような何か快感のようなものがジーーーン !!!! と走ったのだ。ルイの可愛い声で物凄く厳しいことを言われたのが、ナ、ナンと ! ボルトのどストライクだったのだ。
「怒った顔も可愛いね❤」
「ニタニタ笑うんじゃなーーーーーーい !!!」
「すみません ! 女王様ぁ♡」
「だれが女王様やねん !!」
ルイは我慢しきれず、バシッと頭をはたいてやった。
「あっ、おしりも叩いてもらえませんか ?」
「アホかーーーーーーーーーーー !!!」
ルイは、コレはコレでダメだと知ったのだった。
しかし、我慢していた時よりは改善した気がした。
殻を破った新たな自分に出会い、少し良いかもな ? と思ったのだ。
ともあれ、パーティーメンバーの活躍もありブルーゲーター7匹の捕獲に成功し、ボルトはギリギリで借金生活から逃れる事ができたのであった。
しかし、収入より支出が多いことに変わりなく、彼の生活は落下するばかりだ。
しかも、宿屋はツケがきかなくなってしまい安宿に移った。
女性陣へのプレゼントは激減し、報酬もかなり下がった。
「バイバイ !」
すると、エメリアはあっさりとパーティーを抜けた。
一方で、パーティー内のゴタゴタにホトホト嫌気がさしたルイであったが遂に、リョーマの噂が耳に入った。
それは、魔狼を連れた青年が近くの森にいるというものだった。
それを聞いてルイは、(どうしようか ?
まったく何も聞かされないままに姿を消したリョーマに何があったのか ?
ナニを思って ?
何か考えがあったのか ?
とにかく心配でたまらない。
あれこれ思い浮かぶけど、考えも
それはまるで母を探す子供を見ているようだった。
町を出て、まっすぐ目標の森へ向かい、すれ違う商人や冒険者に必死に聞いたのだ。
色々な人に聞いて森を進むと、エスポワールドという里に辿り着いた。
その里で最初は、魔物 ! と、驚いたけど、この里には、やたらと人懐っこいダークウルフがたくさんいるのだ。
犬のようにおとなしくワフワフしているけど、敵対すれば恐ろしい魔物なのだが。
毛並みは驚くほどに美しく、撫で心地は良好で、心を許してしまう。
「ふふっ。フワフワね」
「バウーー ⤴⤴」
そのフサフサの毛並みを堪能していると、ふとリョーマの相棒のコタローを思い出した。
しかし、ここらでブラブラしているワンコたちが実はリョーマの仲間で、彼が手入れしている毛並みだとまではルイの思考はたどり着かなかった。
この里に来ていた冒険者たちにリョーマのことを聞いてみた。
更に、ここの商店でも聞き込みをしていると、怪しい男に声をかけられた。
「リョーマという男を探しているようだな ?」
「はい師匠を探してます」
「師匠 ? パーティーへの勧誘じゃないのか ? これまで何人も何十人も来たぞ !
全員、追い返してやったがな」
「私はリョーマが以前在籍したパーティーの仲間で、弟子のようなものです。ルイといいます。師匠は元気ですか ?」
「まあまあだな。俺はトビだ」
「どこにいるんですか ?」
「そういうのは他人が言って良いものじゃないだろ ?
個人情報とかってヤツだ !
会いたいなら、このコンビニで待ってりゃ、そのうち帰ってくるぜ」
「帰ってくるっていうのはサービスですか ? トビさん」
「人となりを見てそこがボーダーだとな…… 」
「信用していただいて、ありがとうございます」
「そんなに簡単に信用はしないな」
「えーー、お礼言って損したぁ。仲良くなれたと思ったのになぁ」
言葉では信用しないと発したトビだが、名前を教えたところを見るとそれなりに認めていたようだ。
ぶっきらぼうで言葉じりのキツいトビだけど、案外情に厚いところがあるのだ。
彼女はそんな彼の言葉を信じてリョーマの帰りを待つことにした。
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