第13話 てやんでー!俺のを見てみろ こうだよこう !

 モモトフのパーティーは、命からがら町まで逃げ切ったのだ。本当にしつこいウルフ達だったんだ。

 モモトフは、命があるのは奇跡だと思えた。


そして、ギルドには見たままを伝えた。

ハイゴブリン2体、ダークウルフ4頭、ゴブリン6体、囚われの犬耳族2名。


モモトフがギルドからの信頼が厚いという事もあり、これで前回のゴブリンジェネラルがいるという報告は、やっぱり見間違いか ? となり、消滅することになった。


ゴブリンの巣にハイゴブリンが混じって、ダークウルフもそこそこいる。それは特別な事ではなくて、全くありきたりな普通の森の状態だからね。


そんな経緯で、結局ギルドの塩対応は変わることなく、尚も続いたのだ。


 やがて、僕たちのところには何度か、そこそこ実力のある冒険者が来たけど、たまたま幸いにも、お互いに何の被害もなく追い返し続けたんだ。


やっぱり所詮はゴブリンの討伐なのだ、Bランク以上のパーティーなんて来なかった。



そうこうしているうちに、畑の作物がやっと、初めての収穫を迎えたんだよ。

ラッコダという指より少し大きいくらいの葉野菜と、二十日キンコンという根野菜を収穫したんだ。


それは人にとっては普通のことでも、ゴブ人にとっては特別な感情があったんだよね。

彼らがまだゴブリンだった頃は、弱い体で生き抜く為に、やるかやられるかの毎日で、奪うことが力になった。そして反対に奪われることは死を意味した。心も相当すさんでいたのさ。


そんな彼らが土を起こして、種や苗から野菜を収穫したんだ。


その心には、ほわっとしたモノだけど、育てるとか、生み出すという、今までにはまるでなかった新たな喜びの感情が生じたんだよね。


「僕達が初めて育てた野菜デス。リョーマ君に捧げマス」


ゴブキチが周りの男と収穫した野菜を、ハハーという感じで渡してくれたんだ。


「良し、じゃあ皆でたべようね !!」


と、僕は答え、夕食でサラダにして、少しずつだけど全員で食べたのさ。


ゴブキチは感激して、涙を流していたんだよ。


だけど、ウルボスは「その辺に生えてるのと一緒じゃね ?」と、水を差していたんだ。まったく情緒の分からない奴め ! だけど、それはそれで仕方がない。ウルフにはウルフの感じるものがあるんだろう。


ゴブキチ達が栽培の喜びに目覚めたので、農地を広げるように、ケータにお願いしたんだよね。


ケータは防壁の外に居て、仲間と土魔法で、工場というものを造っていたんだ。そこで[セッケン]なる物を作るんだって。


「気に入ったら、里の商店、コンビニで買ってね。人用とワンちゃん用に5個ずつくらいで良いかな ?」


と言って、オードリーが試供品 ? とか何とかで、僕にセッケンを10個、くれたんだ。


ダークウルフをワンちゃんと呼ぶとは この人、なかなかだな !

そもそも、僕らを受け入れてくれたこの里の人だって相当だけどね。


ウルフ達は何かもらえるぞ、と感付いて僕の周りをうろうろするけど、セッケンを見せてその匂いを嗅ぐと「何だか変な匂いだ、くさいぞー !」と言い残して退散してしまった。現金な奴らだ。


畑を増やしたいな、と相談をすると、それならば今の里の隣に同じ大きさの里を造って、まずは農地と工場を造ろうということになったんだ。


僕らは豊富な人材を投入して、人海戦術を取ったんだよ。

防壁と工場の建設、同時に畑にする為の開墾も進めたんだ。


コタローを始めとして、ダークウルフ、下っ端ゴブ人の中からも土魔法が使える者が増えてきたから、仕事もはかどったね。


本当に、皆で頑張って働いたので、褒めてあげたよ。

ゴブ人達はハグと握手とかのスキンシップで、ウルフ達はナデナデとワシャワシャが大好きなんだよね。


うわー、それにしてもウルボスはドッロドロに汚れてるよ ! どんだけ頑張ったんだ ! それとも、どんだけ泥遊びしたんだ ? そうだ、労働で汗をかいた後はお風呂が良いね。


この里には共同の、とても大きなお風呂があるんだ。


オードリーにもらった、セッケンを試してみた。

ゴブ人と獣人にはとても好評だったよ。

特に女のコには大好評だ。

これって、プレゼントにしたら喜ばれるかもね ?


ウルフ達には「くさい、くさい」と言われて不評だったんだけどさ。奴らの鼻は僕らの何万倍だからしょうがないかな ?


そのうち、「お前の香水くさっ」とか、言われそうだよね。

仕方がないのでウルフはいつも通りに洗ったんだ。


獣人達も手伝ってくれたんだよ。

犬耳族とダークウルフは同格で仲良しだ。

だけど、魔狼のコタローは別格だね。犬耳族のジン達は「コタロー様」と崇め、絶対服従のようだしね。僕より格上かもしれないよ。


犬耳族総出でコタロー様をワシャワシャ洗っているぞ !!

「良きにはからえ !」とか言ってそうだな、おい !!


いいなーと思いつつ横目で見ていると、絶好のタイミングで狐っ娘のリリホとナナホが

「お背中流しますね~ !」と、やって来たんだ。


(やったー ! 僕は美女にワシャワシャしてもらえそうだぞ !ってウルフかよ !!)


リリホは敬愛する御主人さまの、背中に直に触れる事ができて、少し興奮していた。


思わず抱きつきたくなる衝動をぐっとこらえてお慕いしてますと、真心を込めて御奉仕したのだった。


耳年魔のリリホさんはそれだけでは飽きたらず、私の身体で洗って差し上げた方が良いのかしら、それとも私のタワシで…… !!


などとどこから仕入れた情報か不明なのだがとても豊かな妄想で、そんなことが実現する日はいつか訪れるのだろうか…… ?


ナナホはお姉ちゃんの真似をして懸命にサポートしていたよ。健気でカワイイね。


しかし、僕は僕で決してリリホのことを責めたりできないのだ。

 実は以前から、彼女達のお尻としっぽの辺りが、どの様になっているのかが非常に気になっていた所で……

 だって獣人族の人たちは耳や尻尾はフサフサだけど肩や背中はツルッツルのお肌なんだよね !!


 じゃあどこがフサフサでどこがツルツルなの ? 

 お尻はどこまでつるつる ?

 って疑問がね……

 でっ ?


 肝心の部分は…… ? 

 どうなんだ ? 


 くっ…… 

 タオルで隠れて……


 あっ

 見えたのはしっぽの先だけだったんだーー !! 

 ざんねん !


もちろん、チラッと見えたとしてもね、ジーと見たりはしないのだ。


妖弧となったリリホは妖しい魅力が加わってとても美しいからね。

自然と目がいってしまうのを我慢するには、相当な胆力が必要なのだよ。まだまだ心の修行が必要なのだ。

 しかしだ、この見えるか ? 見えないか ? ってあたりが最高なんだよね。

 


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



新しい土地の開墾と建設は順調に進められた。

防壁はケータが膨大な魔力を使って、次々と造っていった。

すると、それを見ていたコタローとダークウルフも協力して、同じように防壁を造っていった。


ケータの魔力は無尽蔵だった。

一方のコタローは魔力を節約し、手下のダークウルフ達に、次はお前行けだの、お前そこやれとか、てやんでー ! それは違うぞ ! 俺のを見てみろ、こうだよこう、とか言って親方のように手下を上手くこきつかっていた。


「何度か見ているからね。もう驚かないよ !

だけどね。後ろ足二本で立って、アウー、ワウーと言いながら土魔法を使うのはどうにか修正できないものなのか ?

知らない人が見たらびっくりするぞ ! 親方 !」


だけど、コタロー達の活躍もあってあっという間に完成したんだ。


「いやぁ、コタロー達には驚いたよ。でも、助かった、ありがとう !!」


ケータと一緒に僕もワシャワシャと撫でて褒めてあげたよ。

二人に可愛がられてウルフ達は大喜びで、はしゃいでいる。

トビさんはウルボスに乗って遊んでいる。ウルボスも楽しそうだ。


この里も大きくなったので、エスポワールドと名付けられたんだ。

畑はすぐには作物を作れないそうで、ケータの指導で進めていくことになった。

セッケン工場も同時に完成して、こっちはすぐに稼働する予定なんだ。


この工場にゴブ人達を30人ほど派遣することが決まって、今後彼らは労働収入を得ることになるのだ。


これは大変珍しい出来事で この異世界ではゴブリン(ゴブ人)として初の快挙だった。


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