第12話 ゴブリン討伐隊との終わりなき戦い

この日はとうとう、ショーキの町のギルドによる、ゴブリン討伐依頼の冒険者が里の近くの森まで来てしまったんだ。その数は10名だった。


金さん達がいつもの森へ行き、狩猟を始めた時に襲われた。


こちらのメンバーはジェネラルの金さんとメイジゴブ人のメイト、狐っ娘のリリホ、ナナホ、ダークウルフのウルボス、ウルオと下っ端ゴブ人4人の合計8人と2頭だったんだよね。


ゴブリンを討伐しにやって来た冒険者は、金さん達の一行を見付けたんだ。

最初に、後方にいた下っ端ゴブ人の4人を見掛けて、依頼の魔物であるゴブリンだと思ったんだね。


 そこで彼らは、ゴブリンだから倒して当然のように考えて近くまで押し寄せ、後方から突然攻撃を仕掛けて来たんだよ。


 〜~~~実はギルドでは、この森でゴブリンの出没情報が何度か見られるということで、とりあえず、格好だけでも依頼を出しておこうか、的な扱いだったのだ。


 であれば、ゴブリンの討伐依頼などというものは、当然ながら、まだ駆け出しの冒険者が受け持つものだった。


この討伐依頼を受けたのは「シルバーファング」と「花馬車」の合同パーティーで、EランクとFランクのパーティーだった。


彼らも未熟な癖に楽勝だろうとお散歩気分で、適当に気軽に攻撃を仕掛けたっていうところだろうね。


ところが、この日出会った金さん達は、彼らから見たら化け物のように強~い人達だったのだ。進化して見た目はかなり人に近付いたけど、ステータスでは彼らの何倍も差があるのだ。


ゴブリンジェネラルの進化系名前持ちであれば、ゴブリンキングにもひけをとらない実力だ。金さん一人でこの10人を相手にしたとしても、赤子の手をひねるように簡単に全滅させることだろう。


しかし、当の金さんはというと、彼らが攻撃を仕掛けたのに気付き、戦闘になってはいけないと思って、とても大きな声で呼び掛けたんだ。


「ダメだー、攻撃するなぁー、あっ危ない」


リリホとナナホもここは、可愛らしく友好的に対応するべきだと思って、笑顔で優しく手を振って、


「大丈夫ですよ~、私たちは恐くないですから~」


と、語りかけたんだよ。

でもね、全然通じて無かったんだ。


☆☆☆先程の金さん達の発言。冒険者からの目線だとこうだ。☆☆☆


ゴブリンを見つけて駆け寄り、前もって決めていた火魔法を、4人の魔法使いが一斉に放った。


その時、冒険者達は金さんが、もの凄く恐ろしいゴブリンジェネラルであると気が付いた、と同時に、震える程の恐怖を感じていたのだ。


すぐにでも逃げ出したいという衝動に刈られたんだけど、魔法を放った後でもあり、恐怖で身がすくんでしまって動けなかった。


その瞬間にゴブリンジェネラルから、ものすごく大きな声で、世にも恐ろしい、怒鳴り声が聞こえたのだ。


「ダメだーーー !! テメエら、ゴルアアーーー !! 攻撃するなぁー オルアアーーー !! あっ、危ないだろうガアーー !! このくそニンゲンどもガアーー !!!」


この内容には、多分に冒険者の先入観が入ってしまっているのだが……

 恐怖に震える初心者パーティーにとっては、本当にこう言っているかのように聞こえたんだ。


ゴブリンジェネラルの隣には、囚われの美しい狐人の姉妹が居て、怖いだろうに


「大丈夫ですよ~、私たちは恐くないから、逃げて下さ~い」


と、俺達があの獰猛どうもうな魔物に襲われないように、気づかって言ってくれたんだろうな、と思われた。


☆☆☆このように、彼らは金さん達の思惑とは、180度違う正反対の解釈をしてしまったのであった。

 人間とも友好的に接していきたいと思っていたゴブ人のみんなにとっては、少しばかり残念な結果になってしまった。


その後、「ファイヤーボール」の火魔法を放ってきたのに気がついたダークウルフのウルボスと、ウルオは、「なんだこいつら急に危ないなぁ」とか言って、風魔法を放ち、あっさりと火魔法を押し戻してしまったんだ。


 制御不能となった「ファイヤーボール」は冒険者に向かった。


すると、冒険者達はそれを防ぐ手段がなく、もろに火魔法を浴びてしまったんだ。それから後はもう、恐慌状態だったよ。


「うわージェネラルに弾き返された。逃げろー !!!!!」


そう言うと一目散に逃げ出したんだ。

金さんは、ふうと、ひと息つくと


「戦闘にならなくて本当に良かったねぇ。きっと私たちの不戦の気持ちが通じたんだろう」


と、安心した。  


 「うん、良かったね~ !」


 リリホとナナホもホッと安心して答えた。


えっ、良かったのか ?


しかし、当の冒険者達は大変だった。

彼らは駆け出しの若い冒険者なのだ。今回の戦闘で生まれて初めて、本当の恐怖に直面した者もいた。

 一瞬、死を覚悟した者もいた。


脇目も振らず、一心不乱に町へ向かって逃げたのだ。心臓が破裂しそうなほどキツかったけど、少しも休まずに逃げた。

全ては彼らの勘違いなんだけどね。


ギルドへの報告はこうだった。

ゴブリン討伐依頼ー失敗。ただし、依頼書に記載の無いゴブリンジェネラルと思わしき魔物を確認した為、減免する。


その後討伐依頼の内容が、以下のように変えられた。


(ゴブリン討伐依頼) → (ゴブリンの上位種調査ーDランク以上推奨)


しかし、これまた適当な塩対応だな。

Dランクパーティーが、金さん、銀さんから、逃げ切れるとは思えないけどね。


ギルドへは新人からの報告だし、深刻には考えていないのだろうな。


このような経緯から、この次にいつもの森へやって来るのは、4人パーティーのDランク冒険者ということになったのだ。


リーダーのモモトフは熟練のDランク冒険者だ。長年この仕事をしているということは、戦闘はそれなりということだった。かといって、この前の新米のような無様な失敗はしないだろう。


周囲を探索すると、やっぱりゴブリンがいたんだ。事前の情報通りだった。


この日は銀さんチームが森に出ていたんだね。

メンバーはハイゴブ人の銀さん、ハイド、犬耳族のレミとシンジ、他にダークウルフ4頭と下っ端ゴブ男6人の合計10人と4頭のグループで狩猟に来ていたんだ。


あまり近づかないようにして、モモトフは偵察していた。

彼等は相手の陣容が見えてくると、次第に危機感が増していったのであった。


「ハイゴブリンと、ゴブリンは解るがダークウルフが4頭も同行しているというのか ? マズイな。戦闘になれば俺達じゃあダークウルフ1頭でもキツいぞ」


「モモトフ、すぐにでも退却した方が良いんじゃないか ?

あの犬耳族の2人は助けられないな」


その時点で銀さん達もダークウルフもとっくにモモトフ達がいるのに気付いてたんだ。なんといっても実力は天と地ほど違うのだからモモトフ達ではどうしようもない。


(今日は町の冒険者のパーティーが来ているのか ? 見たところ能力も大したこと無いし、特に危険も無さそうだ。余り近くに行って下っ端達がかち合わないようにしよう !)

銀さんはこの程度に考えていた。


ウルフ達はちょっと違っていた。なんといっても、コイツらは自由気ままな奴らなのだ。

 僕リョーマと同じ人間が現れて、すごく喜んだのだ。

 嬉しくて仕方がない状態になってしまった。

 そうなればもう、我慢できない ! 


彼らは不意に、フルスピードでモモトフ達の前に疾走し、ワフワフ言って、周りをグルグルと回って喜んだんだよ。


 「ワフワフッ ! ワフワフッ !」


「「うわあああああああああああーー !!!!! 助けてくれーーー !!」」


 「バウバウバウ !?」


驚いたのは、モモトフ達だね。1頭でも恐ろしいダークウルフが4頭も、すごい勢いでやって来たのだから、たまったものじゃ無い。


しかも、その恐ろしい魔物たちは、自分達の周りをグルグルと回るのだから、完全に獲物認定されて自分達を食べようとしているモノだと思ったのだ。


 するともう、どうしょうもない。剣を取るでも魔法を放つでもなく、すぐにものすごい剣幕で逃げ出したんだよ。


 「うわっ ! うわあ ! ああああー !」


一生懸命逃げたけど、ウルフは速すぎる。逃げても、逃げても、とても逃げ切れないんだ。


ウルフ達からしたら、追い掛けっこをしてくれるので、嬉しさも、最高潮だよね。


 「バウバウ ! バウバウ ! (うわーい)」


 もっともっと可愛がって欲しいので、身体をスリスリとモモトフ達に、すり寄せたのだ。


ウルフのモフモフは、最高の気持ち良さのはずなんだけど、彼らにとってはゾワゾワとして、恐怖心と逃げるしんどさとで、スゴく苦しかった。気持ち良いどころか、背筋も凍りつくような、最悪の事態だった。


「モモトフ ! 俺達はもうダメだ ! お前だけでも逃げてくれ !!」


「何を言ってるんだ、もう町はすぐそこだ。最期の力を振り絞れよ !!」


ウルフは離されては追い付き、追い付けば交代で何度もスリスリとするのだ。まさに地獄の苦しみだったんだ。それでも彼等は励まし合いながら、どうにか町まで辿り着くことができた。


ウルフ達は最高に楽しかったみたいだね。冒険者さん達。遊んでくれて、ありがとう !


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